あらゆる場所でスマホの提示

現在の中国では買い物や食事、電車やタクシーの交通費、さらには屋台の支払いまでも全てスマホで行われ、現金やクレジットカードは使えない場所が多い。実際に北京でタクシーに乗り現金で支払いをしようとしたところ、お釣りがないと言われ受け取りを拒否された。

生活のあらゆる場所で使用されているのは中国本土で10億人超のユーザーを抱えるアリババグループのモバイル決済アプリ「Alipay(アリペイ)」か、中国版LINEと呼ばれるWeChat(ウィーチャット)の決済アプリ「WeChatPay(ウィーチャットペイ)」になる。

中国では生きていく上で必要なお金のやり取りがほぼ全てモバイル決済のアプリで管理されていると言っても過言ではない。そして、今では新型コロナウイルスの感染拡大防止の名目で最も重要な個人情報である健康までもが国家に管理されるようになっている。

路上で演奏する男性へのチップもスマホの決済アプリで
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普及率“100%”のアプリ 「北京健康宝」とは

世界一人口の多い国とされる中国だが、日々の新型コロナウイルスの感染者は日本より圧倒的に少ない。それを可能にしているのが中国の徹底した個人情報の管理だ。

その中核がスマホのアプリを最大限に活用した健康コードと呼ばれるシステムだ。外国人の場合はパスポートの写真ページを添付するなど必要な個人情報を登録した上で、その人物が新型コロナウイルスに感染している危険性がどの程度あるのかを判定する。健康コードは地方政府によって管理されており、省ごとに異なる。

北京市の場合は「北京健康宝」というアプリになる。アプリ内で判定の基準は明確に表示されていないが、行動履歴のデータを元に感染者との濃厚接触の可能性や感染が拡大している地域への出入りなどを確認しているとみられる。特筆すべきはこのアプリの普及率がほぼ100%ということだ。

コンビニの入り口に設置されるQRコード

現在、中国ではあらゆる場所の入り口にQRコードが置かれていて、これをスマホでスキャンしなければ入り口に立っている係員に入場を拒否される。スキャン後、アプリ上で緑色、黄色、赤色の3色が表示されるのだが何色が表示されるのかが重要になる。緑色は異常なし、黄色は自宅隔離対象者、赤色は集中隔離対象者となっていて、緑色が表示されなければ中には入ることができない。

中国ではこのアプリを登録していなければ公共交通機関はもちろん、ホテルやショッピングモール、マンションの敷地内など大型施設も利用できない。個人営業の小さな店舗にも入れないし、個人タクシーにも乗れない。事実上の「通行手形」のようなもので、健康コードがないと身動きができない。これ無しには生活できないからこそ、普及率が100%近くなるのだ。

ホテルに入る際にも健康コードの確認
スーパーの入り口に置かれるQRコード
タクシーに乗る際にも健康コードの確認が必要

中国と日本の新型コロナ対策の違いとは

日本でも厚生労働省によって新型コロナウイルスの接触確認アプリ「COCOA」がリリースされているが、中国のように普及しているとは言えない。具体的な罰則規定のない日本と中国を単純に比較することはできないが、中国の隔離政策を一度体験すると日本の感染対策が緩く感じてしまうのは事実だ。

私は日本にいた頃、「中国は新型コロナウイルスの感染を封じ込めた」という趣旨のニュースを見ても「中国の話だから政府が都合の悪い情報は隠しているのだろう・・・」と思っていた。しかし、実際に中国に赴任し3週間の隔離生活や複数回に渡るPCR検査、そして健康コードによる徹底した管理を体験すると「中国はここまでやっているからこそ封じ込めに成功しているのだ」と今では納得している。徹底した検査と隔離政策、そして健康という個人情報と引き換えに、北京市内では夜遅くまで多くの人たちがお酒や食事を楽しんでいる。

スマホによる徹底した個人情報の管理を行う中国。ついには新型コロナウイルスの感染拡大防止という名目で健康までも管理するようになった。「健康コード」は新型コロナウイルスの感染防止アプリの枠を超え、本人確認や健康状態の確認ツールとして、中国社会に定着しつつある。情報収集の範囲を感染防止以外にも広げ、既往症歴や喫煙歴など個人の詳細な健康情報を取り込もうとする動きも一部に出ている。

これらのデータは政府によって管理され、必要に応じて確認されることになる。問題は健康という最も重要な個人情報が恣意的に利用され、プライバシーを侵害する懸念が存在することだ。同じような事を日本でやろうとすれば大きな反発が予想される。中国政府は健康という個人情報の収集と管理をどこまで進めようとするのか、今後に注目したい。

【執筆:FNN北京支局 河村忠徳】