全日空で実証実験

減らしたいのは地球への環境負荷とコスト…仮説を検証する空の旅に密着した。

全日空、東京・羽田発、沖縄・石垣便。

機内では業務にあたる客室乗務員の傍ら、何かの作業を行うワイシャツ姿の男性2人組が…

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2人が行っていたのは、保冷剤などで冷やしたドリンクの温度チェック。今回は実証実験なので、搭乗客には提供しないモノを使用している。

全日空では、9月20日から国内線でドリンクなどを冷やすために使用する「ドライアイス」を「保冷剤」に変更すると発表した。

この日は羽田と石垣間で、それぞれのカートに保冷剤とドライアイスを搭載しての実証実験が行われていた。

この実験では、カートを入れる冷蔵庫の電源を切ったうえで、定期的にドリンクの温度を計測し保冷剤の保冷効果を確認した。

ANA CX推進室 商品企画部・中谷俊さん:
ドライアイスは例えるなら短距離ランナーなんです。保冷剤は長距離ランナーなので、長く安定した保冷効果があるんです。今回は真夏の石垣線。保冷剤にとって厳しい環境で検証することで、これができれば全ての路線をカバーできると思います

その言葉どおり、実験開始からおよそ6時間。

最後の温度調査でも、ドライアイスが11.8℃、保冷剤が12.2℃と、ほぼ変わらない温度に保てていた。

環境への負荷軽減と経済性の両面で効果

この変更により、CO2排出量は年間約1700t、ドライアイス使用後に出る梱包材などは年間約30tの削減につながるほか、年間2億円のコストを抑えることもできる計算。

一方、客室乗務員は、別の理由から保冷剤のメリットを感じていた。

客室乗務員:
ドライアイスで冷却されているモノって時間がたつと結露が出てしまうので、ビン類のラベルがはがれてしまい、しっかり確認しないと提供できなかったりするので。保冷剤だと結露が抑えられる

ANA CX推進室 商品企画部・中谷俊さん:
数多くの検証を重ねてきたんですけれど、「まあこうだろう」という仮説が確信に変わる検証になりました。国内線に保冷剤を導入し軌道に乗せ、これを行く末は国際線にも展開したいと思っています。地球環境の負荷軽減と経済性の両面で、持続可能な取り組みをどんどん進めていきたい

地球環境へのリスク放置は経営にも影響

Live News αでは、市場の分析や企業経営に詳しい経済アナリストの馬渕磨理子さんに話を聞いた。

内田 嶺衣奈キャスター:
馬淵さん。今回の試みをどうご覧になりますか?

経済アナリスト・馬渕磨理子さん:
顧客の快適な空の旅を維持しながらも年間1700トンの二酸化炭素の排出削減2億円のコスト削減できることにまず驚きました。感染拡大による苦境が続く航空業界にとって2億円のコスト削減は大きなインパクトです。全日空は21年3月期の連結最終損益は4046億円の赤字に転落しましたが、22年3月期は35億円の黒字に浮上する見通しです。ここでの2億円のコスト削減は大きな意味を持ってきますよね。今回の取り組みに加えて、ANA2050年度までにグループ全体でCO2排出量実質ゼロの実現を謳っています

内田 嶺衣奈キャスター:
(環境負荷削減の)取り組みを強化しているということですね。企業にとって環境への取り組みはまさに経営課題そのものでもありますよね?

経済アナリスト・馬渕磨理子さん:
持続可能な取り組みへの行動はもちろんですが、「気候変動のシナリオプランニング力」も求められます。例えば、有価証券報告書の中で気候変動によって自社が被るリスクをまず想定し、そこからそのリスクを低減するために自分たちに何ができるのか対応策を開示する。その1つにCO2削減などの持続可能な取り組みを開示する流れがあります。今、地球環境へのリスクを放置する企業は、経営のリスクが高まることを認識する必要があります

内田 嶺衣奈キャスター:
私たちも身のまわりにあるものを何かに置き換えてみることで、持続可能な社会に少しだけ近付く一歩になるのかもしれません

(「Live News α」9月16日放送分より)