300年の歴史を誇る、大阪の伝統芸能・文楽。
しかし、コロナの影響で公演は次々と中止。
本番の舞台が減り、若手の成長の機会が失われる中で、「新しい舞台」への挑戦が行われた。
伝統芸能の”前進”をかけた舞台の裏側を取材した。

“掟破り”の舞台の開催へ…

6月。文楽の世界において、前代未聞の舞台の発表があると聞き、国立文楽劇場に記者が集まっていた。
300年の歴史を誇る、大阪の伝統芸能・文楽。
1つの人形を3人がかりで動かし、命を与える。
その人形の動きを司る「主遣い」、抜きん出た表現力で人間国宝への認定も決まった桐竹勘十郎さん(68)。

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黒頭巾をかぶって顔を隠し、「主遣い」のそばで人形の足を動かす勘十郎さんの弟子・勘介さん(27)。

舞台で顔を見せるまでには、20年以上の長い道のりとなるのが、この世界の掟だ。
ところが…

記者会見:
勘十郎師匠と、桐竹勘介でございます。

師匠と弟子が揃って顔を出し「主遣い」を務める、“掟破り”の舞台が催されるというのだ。
トレードマークの髪型もキメて会見に臨んだ勘介さんだったが…

桐竹勘介さん:
珍しいっていうか、もうあり得ないことというか…そんなこと考えもしなかったことでしたので。いや、そんなの絶対無理ですから、みたいな。

勘介さんが挑戦するのは「二人三番叟」。
人形が華やかに舞い踊る演目だ。
人形の重さは6キロ近くあり、激しく動かすと額には玉のような汗が浮かぶ。

桐竹勘介さん:
主遣いは「重たい」というのが僕の中で一番あって。腕が上がれへんくなる。上げるのも大変なのに、なおかつ振りもしないといけないっていうのが、ものすごい三番叟って大変やし、難しいなって思って。
やっぱり師匠方、先輩方は平気な顔して持ってはるので、すごいなっていうのは実感しましたね、今回の稽古で。いやもうプレッシャーでしかないですね。

こんな無茶ぶりを仕掛けたのは、勘介さんの先輩である吉田玉翔さん(45)。
文楽の世界ではまだ若手の1人だ。

「新しい舞台」に取り組む背景

吉田玉翔さん:
コロナの自粛中はみんなが不安で。文楽っていうか、もう芸能自体がちょっとね、しんどい中で…。

公演は年間400回は催されるが、新型コロナウイルスの影響で2020年は半分以上が中止に。
2021年も度重なる緊急事態宣言で、土日に公演を行えない日々が続いた。

吉田玉翔さん:
動いていない時間やから、ゆっくり考える時間もありましたし。面白い公演っていうか、普段なかなか見られないようなっていう風なイメージで考えて。

本番が減り、若手の成長の機会が失われる中で、「挑戦するための新しい舞台を…」と提案したのだ。
楽屋では、玉翔さんを筆頭に若手たちが集まっていた。
初めて挑戦したクラウドファンディングのため、お返し品の手形色紙やメイキング動画など、みんなで考えながら用意する。

全国各地からは応援の声が集まり、目標額をあっという間に超えていった。
その“主役”勘介さんは、師匠との初稽古に臨んでいた。
涼しい顔の勘十郎さんに、汗だくで、くらいつく。

桐竹勘十郎さん:
上下が大きすぎるんで。隠して…頭をもう一つ上に。そうそう!

趣向を凝らした初の取り組み 手ごたえは…

勘介さんは、中学を卒業してすぐ、幼い頃からの夢を追いかけて勘十郎さんのもとで修業を始めた。

桐竹勘十郎さん:
根が(文楽を)好きなんでね。非常にね、大事にするんですよ、人形・舞台に関わるものを。ああ見えて結構きちっとしてね。細かいところを割ときちんとしてる

そんな弟子との初共演。
勘十郎さんは、二つ返事で出演を快諾した。

桐竹勘十郎さん:
またこれで自分の弟子の違う側面が見えるかもしれませんし。僕も…こういうの好きな方なんでね。きょうは抑え気味にやりましたけども、本番はもうちょっと頑張らせてもらいますんで。

迎えた本番当日。
勘介さんの緊張の面持ちも、きょうは頭巾に隠れない。
手作りの挑戦の舞台が、いよいよ始まる。
息を合わせ、動きをそろえ…

吹き出る汗をそのままに、踊り切った。
勘介さんは一息つく間もなく、次はトークショーで客席を盛り上げる。

桐竹勘介さん:
まだ三番叟の汗が引いてない状態で。失礼させていただきます…あ、これちょっとよろしいですか?今回の文楽継承伝の手ぬぐいになっておりますね。ロビーで2000円で販売させてもらっています。僕らの活動資金になりますので、皆さんよろしければどうぞ。

趣向を凝らした公演は、拍手喝さいで幕を閉じた。

訪れた女性:
楽しかったです。いつもと違って若い人が企画したって聞いたんで。わりとベテランの方に交じって、生き生きとしてはったなと思いました。

訪れた男性:
二人で踊るやつとかは、すごい時間一緒にいてるから息が合ってんねやなって思って。

訪れた女性:
すごいですよね。こんな時代になったのか~っていう感じですよね、本当に。

訪れた女性:
古い物はちゃんと残して、その上で新しいことを取り入れる。大事な作業だと思いますね。

桐竹勘介さん:
お疲れ様でした!ありがとうございました。

勘介さん、楽屋で勘十郎さんを迎える。
舞台を終えた2人は、ほっと一息。笑みがこぼれていた。

桐竹勘十郎さん:
頑張ってよく持ってたかなと思いますけども。若い人もどんどん自分の師匠だけでなく、他の先輩師匠のいいところをどんどんどんどん今のうちに盗らないと。遠慮せず、やりたかったらどんどんやっていって欲しいですね。

桐竹勘介さん:
とりあえずしんどかったです。でもなんか楽しかったですし、気持ちよかったっていうか、なんか。コロナ禍ですけど、できてよかったなと思います。
本公演でぜひもう一回、三番叟の役が本役でついて、もう一回リベンジしたいなって思いましたね。

舞台の上で、つながりゆく伝統。
苦しい時こそ踏み出した一歩が、新たな歴史を開く。

(関西テレビ)