「ヤングケアラー」という言葉を耳にしたことがあるだろうか? 近年、国による実態調査が行われるなどして、知られるようになってきた。

法的な定義はないが、一般社団法人日本ケアラー連盟では、「家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている、18歳未満の子どものことです。ケアが必要な人は、主に、障がいや病気のある親や高齢の祖父母ですが、きょうだいや他の親族の場合もあります」と、サイトで紹介している。

「ヤングケアラーの実態に関する調査研究」
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なお厚労省と文科省による、初めての全国規模の調査研究事業「ヤングケアラーの実態に関する調査研究」(2021年3月発表)の報告書によると、世話をしている家族が「いる」と回答した子どもが、中学2年生で5.7%、全日制高校2年生で4.1%、 定時制高校2年生相当で8.5%、通信制高校生で11.0%という結果に。その中には、世話をしていても自分のやりたいことへの影響は特にないと回答したヤングケアラーが半数いる一方で、家族への世話を「ほぼ毎日」している中高生が5割弱存在するという実情がわかった。

「ヤングケアラーの実態に関する調査研究」

埼玉県では全国初となる「ケアラー支援条例」

こうした中で埼玉県は、2020年3月に全国初となる「ケアラー支援条例」を施行。この条例でヤングケアラーについては、「ヤングケアラーの支援は、ヤングケアラーとしての時期が特に社会において自立的に生きる基礎を培い、人間として基本的な資質を養う重要な時期であることに鑑み、適切な教育の機会を確保し、かつ、心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られるように行われなければならない。」とし、本格的な支援に取り組み始めている。

条例施行後に行った県内の高校2年生を対象にした調査では、4.1%がヤングケアラーの可能性があることが判明。一方で県民のヤングケアラーへの認知度が不十分ということで、まず今年度はヤングケアラーを支えるための広報啓発活動を進めているとのことだ。

担当者によると、ヤングケアラー自身が求める支援として、「困った時に話を聞いてくれる周囲の大人の存在」が必要と強く感じているとし、「そのためにも、まずは県民の皆様にヤングケアラーへの理解を深めてもらうことが重要だと考えている」と話した。

このように自治体も本格的な支援に乗り出し、顕在化したとはいえ、まだその実態は分からないことも多い。学業と家族の世話を両立するヤングケアラーはどのような課題を抱え、どのような支援を必要としているのだろうか? 

一般社団法人ケアラーアクションネットワーク協会の代表理事・持田恭子さんに話を聞いた。

ヤングケアラーが顕在化した理由

――なぜヤングケアラーが現在、顕在化してきた?

日本ケアラー連盟様の活動もあり、埼玉県のケアラー条例が制定され、国の全国調査が行われたことがきっかけだと考えています。

以前から家族をケアする未成年はいましたが、「家族が家族を世話するのは当たり前」という不文律がいまだにあるので、子どもが過度なケア負担を担っていることは配慮されてきませんでした。

親から感謝され周りから賞賛を得ると、子どもは、「もっと家族の役に立とう」とますますケアをひとりで抱え込むので、いままで顕在化してきませんでした。


――ヤングケアラーというと親の世話をする子どものイメージが強いが、これだけとは限らない?

はい、障害(知的障害・精神障害・発達障害・医療的ケア児含む)のある兄弟姉妹を親と一緒に世話をする子どもも、ヤングケアラーとなり得ます。このような”きょうだい”が抱える課題もいままで世間に知られていませんでした。

私には、ダウン症候群と知的障害のある兄がおり、うつ病だった母と、依存症があった父がいる家庭の中で育ちました。小学生の頃から兄の世話と、母の情緒面のケアを担ってきましたが、いまだに私と同じ経験をしている子どもがいることを知り、何とかしなければと活動しています。

ヤングケアラーという名称はイギリスから入ってきた外来語ですが、ケアは介護だけでなく多様なカタチがあります。その多様性をとらえた「ヤングケアラー」という呼称が日本に紹介されたことでようやく、「家族のケアを担っている未成年や若者がいる」ということが世間に知られるようになったと考えています。

――ヤングケアラーは、どのような課題を抱えているの?

これまでに、以下の話を聞いたことがあります。

・親の世話や家事をすることに時間を使うので宿題や試験勉強をする時間がない
・障害のある子どもを中心とする生活の不条理さを友達には理解してもらえない
・障害のある兄弟姉妹が暴れる際になだめることに時間がとられ、学業に支障をきたす
・友達や先生に家庭のことを打ち明けると雰囲気が暗くなるので話せない
・家族の情緒面や身体面の世話をすることを優先してしまう(進学を諦めることもある)
・進学先や就職先の選択肢が狭くなる(家族をケアすることを優先して考えるから)
・友達と自由に遊びにいけない(反して、自由に遊びに行くと罪悪感を持ってしまう)
・コロナ感染に敏感になっていることを友達に打ち明けられない

ケアは介護だけでなく多様なカタチがある(画像はイメージ)

ヤングケアラーは“大変でかわいそうな存在”ではない

――ヤングケアラー自身で、これらの課題を解消するのは難しい?

ヤングケアラーにとってこの状況は幼い時からそこに「普通」にある生活なので、課題があると認識することが難しいのではないでしょうか。親御さんも、ご自身が苦しいがゆえに、子どもについ頼ってしまうこともあります。

それは、他者から見ると「共依存」であっても、家族にとっては「助け合い」なので、子どもからSOSを発することができないのです。家族の情緒面の世話をしていたり、希死念慮の高い親の情緒的なケアをする子どもは(わたしもそうでしたが)相当なプレッシャーと責任感を日々抱えながら過ごしているので、ヤングケアラー自身で課題を解消するきっかけが掴めないと思います。


――自身がヤングケアラーであることを、誰かに相談できる子どもは少ない?

ヤングケアラーが“大変でかわいそうな存在”だという印象が一般化すると、「自分はこの人ほど大変じゃないから、我慢しよう、もっと頑張らなくちゃ」と思って助けを求められなくなるヤングケアラーが増えています。

また、親から家庭の事情を他人に言わないようにといわれているヤングケアラーは、他者に家族のことを打ち明けることができません。学校という社会で孤立し、自分がもっと頑張ればなんとかなる、自分さえ我慢すれば…と頑張り続けているうちに相談できなくなっていくのです。

(画像はイメージ)

ヤングケアラーに今必要な支援

――では今、どんな支援が必要だと考える?

ヤングケアラーに必要な対策は、「1.多職種連携による家族支援」「2.居場所支援」「3.対話型教育の推進」です。

「多職種連携による家族支援」とは、学校と福祉の専門家が連携して家族支援に取り組むことです。たとえば、親にうつ症状があり、子どもが学校から帰ると親の代わりに家事をしている場合、親自身が病気の診断や福祉サービスを受けていないことがあります。学校の先生は、この状況に気付いていても、どの福祉サービスに繋げたらいいのかわかりませんし、家族から他者の介入を拒まれてしまうケースもあります。学校と福祉が連携して家族支援に取り組むことが求められています。


――2番目の「居場所支援」はどのような活動?

わたしたちは、月に1回「ほっと一息タイム」という中学生と高校生のヤングケアラーがオンラインで集まる交流会を開催しています。学校であったことや友達の話などが中心で、たまにポツリポツリと相談が出てきたりします。ヤングケアラーは学校で家族のことを話せないので、ここでは交流することを目的としています。現在はコロナ禍ということもあり、オンラインで実施しています。


――「対話型教育の推進」とは何?

イギリスでは、家族や自分が抱える課題に対してどのように対処すればいいのかを対話を通して考える「ヤングケアラーズ探求プログラム」を実施しています。

私たちはプログラムをイギリスの支援団体から譲り受けて、イギリスと同じ内容で中高生のヤングケアラーに提供しています。例えば「どんなケアをしているの?」など毎回テーマに沿って学び合い、グループに分かれて議論を重ねます。こうした対話型教育を推進するのは、子どもたちが自発的に課題を解消する力を身につけることができるからです。

オンライン交流会の様子(画像提供:ケアラーアクションネットワーク協会)

持田さんは、「大人になっても将来への不安を抱え続けて、思った通りの就職ができなかったり、家庭に何かあったらすぐに対応できるように実家に近い場所を選んだり、様々なライフイベントにおいて自分だけではどうしようもならない課題に直面することもあります。なるべく若いうちに支援を受けたり、自分と似たような立場の人達と知り合う機会があれば、自分の人生を自分らしく生きることに自信を持つことができます」と語った。

生活に困窮するケースもある

そして、現状のままでヤングケアラーが大人になった時に、ケア優先で思うような就職などができずに、経済的な困窮に陥るようなことはないのだろうか?

『おばあちゃんは、ぼくが介護します。』の著者でメディア評論家・奥村シンゴさんによると、やはり生活に困窮するケースもあるという。奥村さんはヤングケアラーらを対象としたコミュニティー「よしてよせての会」の代表も務め、就業支援の場などを提供している。

例えば、認知症の母の世話をする20代女性は、母親を受け入れてもらえる施設がなく自宅で一人で介護をすることとなった。頼れるきょうだいもいないことから定職に就いて仕事する時間もなく、経済的に厳しく生活保護を受ける方法しかなかったというのだ。

そしてこのような状況を“生まない”“解消する”には、ヤングケアラーに注目されつつある今こそ、奥村さんは「自治体などが中心となってヤングケアラーだけでなく、同時にケアをされる親などへの支援もさらに拡充していくことが重要となる」としている。

また奥村さんは「ヤングケアラーや若者ケアラーは、親が65歳未満で介護保険が適用されないケース(16種類の特定疾病以外)が多く、ケアラーの心身・経済的負担が大きくなりがち。早急な支援が必要です」と話していた。

顕在化してきたばかりのヤングケアラーについて、私たちはまだ知らないことが多い。自治体や支援団体の活動にも関心を持ち、まずは私たちも理解を深めることが重要となりそうだ。
 

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