コロナ禍になり、2度目の夏が終わろうとしている。感染対策が日常となり、子どもたちにとって今年も行動を制限される夏休みとなった。我慢の多い生活が続き、子どもたちの心のケアが急務だ。

特に新学期の始まる9月1日前後は、自ら命を絶つ児童生徒が増える傾向にある。子どもたちの命を救うために何ができるのか。子どもの自殺予防の啓発活動を続ける、中央大学客員研究員の髙橋聡美さんに話を聞いた。

コロナ禍で急増した子どもの自殺

2020年、自ら命を絶った児童生徒の数は479人。前年比140人増とコロナ禍を経て明らかに急増している。内訳は、小学生14人、中学生136人、高校生329人だ。

子どもの自殺は近年のデータを振り返ると、2016年が289人、2017年315人、2018年333人、2019年339人と、微増だったことがわかる。「そこで何も手を打たず放置したために、以前より抱えていた問題がコロナ禍で一気に悪化したのだと思っています」と髙橋さんは言う。

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自ら命を絶つ子どもたちの背景には、皆それぞれにひどい虐待や残酷ないじめのような深刻な問題があったのではと想像するのではないだろうか。しかし、全国の学校から自殺や自殺未遂の相談を受ける髙橋さんは、少し異なる印象を持っている。

「私が相談を受けたケースでは、必ずしも複雑な環境でトラウマを抱えていた人ばかりではなく、『昨日までふつうに暮らしていたのに、なんで自殺したのかわからない』という場合が多いのです。ただ、家庭環境などに何らかの生きづらさを抱えていて、そこにちょっとした問題が積み重なり『もう死ぬしかない』という考えに至るケースがある、ということです」

文部科学省の発表によれば、2020年に起こった児童生徒の自殺で最も多い原因が進路問題で、次に学業不振、そして親子関係の不和と続く。

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しかしこの結果だけを単体で眺めていても対策は見えてこない。

「進路問題や学業問題というと、『授業についていけない』『受験に失敗した』などの子どもだけの問題だと捉えられがちです。しかし実際は、例えば成績が落ちたときに教育熱心な親御さんから厳しく叱られ、自尊感情が潰れて自殺に至ることもある。

進路に関して親子で意見が分かれて調和がとれないこともある。経済的な問題で希望の進路をあきらめざるをえない場合もある。まず家庭の問題ありきで学業問題、進路問題が自殺の引き金となることもあります」

とりわけ家庭の問題は周囲から見えづらく、子ども自身が助けを求めなければ気づかれにくい。身近な友人だけには話せたとしても、「特に親子関係の不和や、経済的な問題は学校や行政など大人が介入しないと解決が難しい問題です」と髙橋さんは言う。

例えば経済的な問題で進路を反対されている生徒がいるとすれば、先生に事情を話して奨学金の相談をするという選択肢もあるかもしれない。しかし相談できず一人で抱え込めば、ますます追い詰められてしまうだろう。

子どもの「助けを求める力」を育む

子どもたちが自ら「SOS」を出せるように。髙橋さんは、自殺予防教育で学校を訪れるたびに必ず「SOSの出し方」を生徒に伝える。今年はすでに50校以上で授業を行った。

「子どもたちに伝えるのは、『助けを求めていいんだよ』ということです。どんなに強いヒーローにも弱みがあって、助けを求める場面がある。例えばウルトラマンなら3分間しか戦えないし、アンパンマンは顔が汚れると力が出なくて仲間が助けにくる。

『鬼滅の刃』だってキャラクター全員に弱みがあって仲間が助けてくれるよね。だから誰でも弱みを持って、助けを求めながら乗り越えているから、君一人で困難を乗り越えなくっていいんだよって」

授業を受けた生徒からは「助けを求めていいんですね!」と驚いたような感想が届くことがある。「この子たちは助けを求めちゃいけない、一人でがんばらなきゃいけないと思っているのです」。このような子どもを一人でも減らすため、髙橋さんは「助けを求める力」を育む教育を続けている。

ジャッジしない、アドバイスしない

大人が知らなければならないのは「子どものSOSを適切に受け止める方法」だ。

髙橋さんは、自殺予防教育で学校を訪れた際には、必ず可能な限り先生たちを対象とした「SOSの受け止め方教育」も行っている。子どもと向き合う親や先生に大切なことは何か。それは、「ジャッジもアドバイスもしないで、ちゃんと子どもたちの話に耳を傾けることです」という。

つい「勉強しなさい」と言ってしまうこともあるかもしれない…

「例えば子どもから『成績が落ちちゃった』と打ち明けられたときに、『勉強が足らないからだよ』とジャッジして『1日1時間は机に座ってなさい』などのアドバイスをしがちですよね。

そうではなくて、
『子ども:成績が落ちちゃった。
親:そうなんだね。何がいけなかった?
子:数学がダメだった。
親:数学がダメだったんだ。どうしてだろう?
子:勉強時間足らなかったからかな。
親:そうか。次からどうしようか?』  
というように、こちらが指示しないでとにかく相手の言葉を受容して聞いていく姿勢が大事です」

必要なのは、その子に何が起きたのか、その「情景」を見せてもらおうとするスタンスだ。大人としてはつい「良かれと思って」叱咤激励してしまうかもしれない。しかし、この行動が時に子どもを追い詰めることがあると知っておきたい。

「先生の指導で追い詰められた生徒が自殺した『指導死』のケースでも、先生本人の話を聞くと、もちろん追い詰めようと思っていたわけではない。良かれと思って叱咤激励するのです。

しかし子どもは、自分を否定されたと感じて追い詰められてしまうことがある。両者の思いにギャップがあるのです。だから、やはり子どもの話を聞くという姿勢が大切です。子どもが何を考えてるかは、聞かなきゃわからないのです」

中央大学客員研究員・髙橋聡美さん

髙橋さんは「私自身も失敗したことがあるんです」と言って、自らのエピソードを教えてくれた。以前、髙橋さんのお子さんが大学受験に失敗して浪人を決めた際のことだ。

落ち込むお子さんに、髙橋さんは「1年間予備校に通えば日々できることが増えていくから!1年後には絶対に成績が伸びてるから、がんばろうね!」と励ましの言葉をかけた。それを聞いて、お子さんは涙を流したという。

「当時は、励ましの言葉に共感して泣いたと思っていたんですが、実際は違ったんです。1年後、無事に合格した際に娘が涙の真相を教えてくれました。『あの時、もう1年勉強しなきゃいけないのが嫌だったのに、“がんばろうね!”って、安直すぎて腹が立った。ママはわかってくれないんだなって思って泣いたんだよ』と。普段から専門家として子どもと接する私自身も、失敗を通して、子どもの気持ちは本人に聞かなきゃわからないと再認識しました」

アドバイスは、子ども自身から求められて初めて伝えればいい。髙橋さんは、子どもたちから相談を受けた際も、「私には何ができる?」と聞くという。その答えは「ただ話を聞いてほしい」だけのこともある。ならば、特に髙橋さんは意見を述べず、ただ話を聞くことに徹するのだという。

子どもの「ピンチ」は、向き合う「チャンス」

子ども自身からSOSの発信がない場合、普段の様子からSOSのサインに気づくことはできるのだろうか。髙橋さんに尋ねると、「子どものちょっとした変化」に注目してほしい、という答えが返ってきた。

「私はいつも『ピンチはチャンス』と言っています。例えば忘れ物がすごく増えたとか、いつもと違ってソワソワしているとか、最近成績が急に落ちた、とか。例えば成績が落ちたのなら、保護者のみなさんには『なんで?勉強しないとだめだよ』って叱るのではなく『なにかあったの?』と聞いてほしい。

そしたら『先生と合わないんだ』とか『友達と喧嘩して勉強に集中できないんだ』とか教えてくれるかもしれない。学校の先生も『最近成績が伸び悩んでるけど、困ってないか?』って聞いてくれると、生徒は理由を話してくれるかもしれない。だからその子が何らかのピンチに陥っているときは話を聞くチャンスなのです」

その時、子どもが困りごとを打ち明けてくれるかどうか。そのためには、日頃から家庭での信頼関係を築いていく必要がありそうだ。髙橋さんは「家庭での何気ない時間の積み重ねが大切です」と語る。

「例えばテレビをいっしょに見る、でもいいのです。水曜日19時からの、この番組は毎週家族で見ようとか、あとは毎朝いっしょにご飯を食べるとか。テレビを見ながらご飯を食べて他愛のない話をするのもいいでしょう。今の子どもたちは、家にいてもスマホを見ている時間がどんどん長くなっています。ですから日頃から家族の時間を習慣化して、スマホから離れて言葉を交わす時間を持つことが大切です」

子どもの自殺を止められるのは、親や先生だけではない。身近な専門家としてスクールカウンセラーに相談し、場合によっては児童生徒を診察できる精神科につながることも必要だろう。家庭に虐待や貧困などの問題があるケースでは、各自治体の教育委員会等に所属するスクールソーシャルワーカーにも頼りたい。

さらに、社会全体で子どもを守る取り組みも必要だ。「いつもと様子が違う子どもに『何かあったの?』と聞ける大人、『ゲートキーパー』となる人を増やさなければならない」と、髙橋さんは強調する。実際に、子どもの自殺対策に必要な視点や予防策などを学ぶゲートキーパー養成講座も行っているという。

子どもと直接関わる学童や塾の先生はもちろん、近所で暮らし、地域で働く大人の誰もが自殺を食い止める「ゲートキーパー」になれる。だからもし、あなたのまわりに顔見知りの子どもがいて、その子の様子がいつもと違うと気づいたら、ぜひ声をかけてみてほしい。まずは、あいさつだけでもいい。その一言が、子どもの心に届くかもしれないのだ。

髙橋聡美
鹿児島県生まれ。自衛隊中央病院高等看護学院卒業。東北大学大学院医学系研究科で博士(医学)を取得。2006年より自死遺族支援など自殺予防活動を開始。児童生徒・教員・保護者向けのSOSの出し方・受け止め方の公演を全国で行っている。

取材・文=高木さおり(sand)
イラスト・図表=さいとうひさし