8月15日、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、日本の植民地支配からの解放を祝う光復節での大統領として最後の演説を行った。演説では歴史認識について日本への直接的な非難を避け、対話をする姿勢を見せた。

BSフジLIVE「プライムニュース」では、その背景と文大統領の本音、そして次期大統領選をめぐる動きと今後の日韓関係を読み解いた。

文大統領演説、日韓関係については内容乏しく具体性なし

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新美有加キャスター:
文大統領の光復節演説の時間配分。全体約24分のうち、南北関係が約3分。日韓関係は約1分でした。直接的な日本への批判を避けたと見える一方、短く内容も薄く感じられました。

李泳采(イ・ヨンチェ) 恵泉女学園大学教授:
今回の演説は文大統領の4年半をまとめたイメージ。2022年に選挙も控え、政権の業績を国民に認知させる意図が強く、特に日韓関係に関しては優先順位が低くなっているように見える。最後に対話の扉は開いていると述べたが、オリンピック前に比べると明らかに大統領個人の意思は弱い。

平井久志 共同通信 客員論説委員:
韓国では報道の順位も低い。日韓関係や北朝鮮問題で新しい提案への期待もあったが、具体的な内容がなく今までの繰り返しレベルで、メディアの反応も鈍かった。

反町理キャスター:
光復節という日本の統治から抜け出したことをお祝いする日の演説だが、こんなものか。

平井久志 共同通信 客員論説委員

平井久志 共同通信 客員論説委員:
2022年3月に大統領選挙を控え、慎重にならざるを得ない。また、最悪の日韓関係という負のレガシーを残したくない気持ちが強いのだろう。だが、改善の具体案が提示できない。

反町理キャスター:
まさに手詰まりの状況。具体策なしということは、やる気がない?

武藤正敏 元在韓国特命全権大使:
というよりも八方塞がり。菅首相に相手にしてもらえず、北朝鮮との関係もうまくいかない。今までは具体的な提案をしてきたが、北朝鮮に何か言っても北朝鮮からバッシングを受け、国内世論からも軟弱だと批判を受けるだけ。

松川るい 防衛大臣政務官 兼 内閣府大臣政務官:
意欲が感じられない。おそらく大統領個人として日本との対話や関係改善の意思がないわけではないが、大統領選を控え思い切ったことを言える状況になく、そのメリットもなかった。

次期大統領候補の李在明氏「侵略国家の日本が分断されるべきだった」

新美有加キャスター:
韓国の次期大統領選について。韓国リアルメーターの調査では、支持率トップは7月末に野党「国民の力」に入党した前検事総長の尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏で26.3%。2位は与党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事で25.9%。2人の対日姿勢を比べると、尹氏が建設的な日韓関係の構築を主張する一方、李氏は「侵略国家である日本が分断されるべきだったのに、日本の侵略を受けた我々が分断させられた」と発言。

反町理キャスター:
「日本が分断されるべきだった」という発言。もしも李在明氏が大統領になるなら、国家元首が他国に対してこの発言はあり得ない。これは絶対に我々は許せない。

武藤正敏 元在韓国特命全権大使:
私もそう思います。

反町理キャスター:
発言の背後にある李在明氏の国際感覚のなさや危険性は問題になっていないのですか。

平井久志 共同通信 客員論説委員:
問題になっています。与党の候補選びが上位2人の決選投票になった場合、逆転もあり得るという見方は非常に強い。

武藤正敏 元在韓国特命全権大使:
与党2番手の李洛淵(イ・ナギョン)氏の支持率は、この発言以降伸びていた。党内よりも世論から支持される可能性がある。国民の中に、あの人では危ないという意識がかなり芽生えているのでは。

李泳采 恵泉女学園大学教授(左)と反町理キャスター(右)

反町理キャスター:
李さん。韓国一般のみなさんは、隣国との関係性において、こういう言辞を垂れ流す人が国家元首としてふさわしいとお考えになるのか。

李泳采 恵泉女学園大学教授:
先ほどの発言含め、李在明氏の歴史認識に関しても、ある程度の支持がある。戦後、GHQは日本を間接統治した。しかし、朝鮮は日本の植民地であったにもかかわらず直接統治された。
ただ、反日に見えるが、李在明氏の対日政策はそうではない。前の大統領選時の政策や最近出したものを全部見ると、政治と経済を分離すべきだという2トラックの政策。そして、日韓問題は首脳会談で解決すべきとも述べている。歴史認識と対日政策とは別。

松川るい 防衛大臣政務官 兼 内閣府大臣政務官:
李在明氏の発言は不適切だし、李泳采先生がおっしゃったこともちょっとずれている。朝鮮半島が分割されたことと、日本が分断されるべきだったというのは関係ない。
朝鮮半島が日本の統治下に置かれたのは、当時の国際社会の中で朝鮮半島に統治能力がないと考えられたことが背景にある。するとロシアに支配されるのか清国に支配されるのか。日本の安全保障政策の根幹は、朝鮮半島の南部分に敵対勢力がいないことにあった。これらが背景にあって朝鮮半島統治に至った。
大日本帝国があったから統治ができていたのであり、日本の撤退後に統治機構は残っていない。どこかが直接統治をしなければならず、かつ冷戦が迫っている状況でそうなった。なぜ日本が分断されないのだ、というのは理屈ではなく感情。

松川るい 防衛大臣政務官 兼 内閣府大臣政務官

武藤正敏 元在韓国特命全権大使:
与党の候補者選びならばともかく、中間層や若者を取らなければいけない大統領選挙では決してプラスになる発言ではない。

反町理キャスター:
日本の国内においても、分断国家というのは気の毒であり、将来的にこの国は統一されるといいよねという支持の気持ちがある。それが消えかねないひどい言葉だと思うが。

平井久志 共同通信 客員論説委員:
日本も韓国も分断されるべきではない。韓国の社会でも、この発言が正しかったという評価はあまりなかったと思う。

武藤正敏 元在韓国特命全権大使:
韓国でも彼に対して危機感を持っている人は結構多い。李在明氏の固定的な支持層はあまり変わらないが、他の人は誰を支持しようか相当迷っていると思う。

支持率トップの尹錫悦候補は政治経験に乏しく、福島原発事故について事実誤認

反町理キャスター:
一方、保守政党の候補者、尹錫悦氏。日韓関係に関しての発言で、「地震と津波で被害が大きくなったが福島原発自体が崩壊したわけではない。放射能の流出は基本的になかった」というもの。明らかに事実誤認。

平井久志 共同通信 客員論説委員:
鋭い文政権批判が共感を呼んで高い支持率に結びついているが、検事生活しかしてこなかった方。事実関係すら把握していないと、かなり支持率が下がったこともある。討論会も拒否している。

反町理キャスター:
野党「国民の力」に入党した。政党には政策立案能力やスピーチライターもあるだろうし、こうした発言が修正されていく期待感はあるのか。

李泳采 恵泉女学園大学教授

李泳采 恵泉女学園大学教授:
今はないと思う。あまり合意のないまま入党してしまっており、すでに党内には準備されている候補が何人もいた。野党の分裂状態にも見えている。野党の中で候補になるまでの方が難関なのでは。

反町理キャスター:
与野党ともに、事実誤認や舌禍の塊みたいな候補者。この2人の戦いになったら目も当てられないのでは。

松川るい 防衛大臣政務官 兼 内閣府大臣政務官:
他国の大統領候補者だが、私は尹錫悦氏がすごく面白い。政治経験がなく損をされているが、例えば実用的な、つまりプラグマティズムでの対日観がある。また、日本をかばうつもりではないと思うが、福島についてのこういう発言を韓国ですることには勇気がいる。事実誤認はよくないが、一方で忖度がない。日本にとってどうかはわからないが、政治家としての訓練が間に合えば、そんなに悪くないのでは。

文大統領が提唱する南北統一「朝鮮半島モデル」は北朝鮮に響かない

新美有加キャスター:
文大統領の光復節演説から、朝鮮半島情勢の行方について。文大統領は南北統一について「朝鮮半島の非核化と恒久的な平和を通じて北東アジア全体の繁栄に寄与する朝鮮半島モデル」を提唱しています。

李泳采 恵泉女学園大学教授:
ベトナムはハノイが武力で共産化した。ドイツは東ドイツが西ドイツに経済的に吸収された。そうではない南北の平和共存が、東北アジアの発展に貢献できる新しいモデルだと。統一国家のあり方については具体的に説明していないが。

武藤正敏 元在韓国特命全権大使

武藤正敏 元在韓国特命全権大使:
文大統領には時間が残っていない。最後に金正恩(キム・ジョンウン)総書記ともう一度首脳会談をやり、南北平和のモデルをもう一度確認しておきたいという意思では。

反町理キャスター:
この発言は南北関係に何らかの影響を与えるか。

平井久志 共同通信 客員論説委員:
そうは思えません。北朝鮮国内は経済制裁やコロナ、水害など大変で余裕がない。文大統領は、統一というよりも武力衝突や戦争が当面起きないシステムを作りたいというのが目標だと思います。

松川るい 防衛大臣政務官 兼 内閣府大臣政務官:
残り時間は非常に短い。北朝鮮には文政権が働いてくれていないという不満がある。すると文大統領としては平和共存というか、より危険のない状態にしたい気持ちが表れているのかなと思います。

BSフジLIVE「プライムニュース」8月16日放送