親の経済力の違いで、子どもの教育格差が生まれているという現状が今の日本にはある。その状況はコロナ禍でより深くなったともいえるかもしれない。

なぜ教育格差が生じてしまうのか。子どもの貧困・教育格差の解決に取り組む公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンの代表理事・今井悠介さんに、子どもたちが抱える教育の問題について聞いた。

教育格差のカギとなる「学校外教育費」

チャンス・フォー・チルドレンでは、経済的な困難を抱える世帯の子どもたちを中心に、地域の学習塾や予備校、習い事などで利用できるスタディクーポンを配布し、教育の機会を提供するという取り組みを行っている。その活動を通じて、実感している現代日本の“格差”があるという。

「子どもが自身の力で変えることができない家庭環境(経済状況、親の学歴など)の違いによって、子どもたちの将来に格差が生まれています。特に、子どもの『進路選択』や『学力』は、家庭の社会経済的状況との関係性がさまざまなデータで指摘されています」

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例えば、内閣府が発表した「平成30年度子供の貧困の状況及び子供の貧困対策の実施状況」で、大学や専門学校への進学率を見ると、生活保護世帯は36.0%。全世帯は72.9%のため、生活保護世帯の大学等進学率は全世帯の約半分。

また、国立大学法人お茶の水女子大学の「平成25年度全国学力・学習状況調査(きめ細かい調査)の結果を活用した学力に影響を与える要因分析に関する調査研究」で、小学6年生を対象としたものでは、国語や算数の学力は収入が低い世帯の子どもほど低いというデータもある。

国立大学法人お茶の水女子大学「平成25年度全国学力・学習状況調査(きめ細かい調査)の結果を活用した学力に影響を与える要因分析に関する調査研究」を元に公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンが作成

「学力が低く、高校や大学に進学できないとなれば、選択できる職業が限られるという厳しい現実があります。その結果、若者が貧困に陥り、次世代にも貧困が連鎖していくことも考えられます。家庭の経済状況が、子どもの未来を既定してしまうといえるのです」

経済格差と教育格差が関連している背景には、特に「学校外教育」の存在があるという。

「公立中学校に通う子どもがいる世帯の教育費の内訳の平均を見ると62.8%が『学校外活動費』。学習塾や習い事など、学校以外の教育にお金をかける家庭が多いという現状があります。そして、所得が低い家庭ほど、『学校外活動費』が低くなっているのです」

文部科学省が発表した「平成30年度の子供の学習費調査」によると、公立中学校に通う子どもがいる世帯の教育費の中で「学校外活動費」は62.8%で、年間30万6491円(月額2.5万円)だという。その他の項目は、学校教育費(28.5%/13万8961円)や学校給食費(8.8%/4万2945円)。

国立大学法人お茶の水女子大学「平成25年度全国学力・学習状況調査(きめ細かい調査)の結果を活用した学力に影響を与える要因分析に関する調査研究」を元に公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンが作成

中学3年生の子どもがいる家庭の1年間の世帯年収と「学校外活動費」の関係では、世帯年収200万円未満の家庭での平均支出額は年間13万3590円。しかし、1000万円以上の家庭は30万円以上と、学校外教育費に2倍以上の開きがあることがわかる。学習塾や習い事は勉強だけでなく、スポーツや音楽などの文化的な体験や学校外の人と出会える場。経済状況によって、その機会が失われてしまっているのだ。

「日本で問題になっている貧困は『相対的貧困』で、等価可処分所得の中央値の半分に満たない世帯を指します。そのボーダーは、手取りの所得が年間127万円になります。詳しい計算方法は割愛しますが、例えば親1人、子2人のひとり親世帯の場合、月収約18万円(手取り)が貧困ラインに該当します。家賃や食費、光熱費、通信費などを支払うだけでも月16万円くらいはかかってしまいます」

そこに加えて給食費や教科書代など学校でかかる教育費や日々の交通費、被服費、レジャー費などを支払うことを考えると、平均月額2.5万円の「学校外活動費」を捻出することは不可能に近い。

「多くの貧困家庭は、光熱費や食費など生命の維持に関わるお金を切り詰めるか、子どもに教育を我慢してもらうか、厳しい選択を迫られています。また、新型コロナウイルスの影響で、さらに厳しい状況になっているという感覚もあります」

コロナ禍で進む「貧困」と一斉休校で進む「教育格差」

チャンス・フォー・チルドレンでは、2021年2月から3月にかけて、中学生の子がいる生活困窮世帯の保護者630人にアンケート調査を行った。その結果、貧困世帯がさらに厳しい状況に陥っていることが見えてきたのだ。

公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン「新型コロナウィルスの影響を受けた生活困窮世帯の実態調査」(2021)

「もともと収入が厳しかった家庭の約90%が、『コロナ禍で所得が減少した』または『減少する可能性がある』と回答しています。また、2019年から2020年間の所得の変化を見ると16%の家庭は『約5割以上減少』しているのです。収入が減れば、ますます教育の機会が減ることが予想されます」

公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン「新型コロナウィルスの影響を受けた生活困窮世帯の実態調査」(2021)

2020年3月から5月にかけて要請された全国一斉休校も、教育格差に拍車をかけたようだ。

同様の調査で、子どもの教育に関する心配事を聞いたところ、「休校中の学習内容が身についていないこと」「休校で遅れた分、学校の授業のスピードが速くなったこと」といった休校にまつわる内容が50%を超えている。

公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン「新型コロナウィルスの影響を受けた生活困窮世帯の実態調査」(2021)

「金銭的に余裕のある家庭であれば、塾の頻度を増やすなど、休校で遅れた分を取り戻す教育投資を行えます。しかし、貧困家庭だと追加の教育投資ができないため、子どもがつまずいてしまうことが多いのです。また、オンライン学習に対応しようにも、機器が整えられずに置いていかれてしまうケースもあります」

同じ調査では、各家庭から「昨年は私自身の収入は半分ほどになりました。長期の休校により息子の学習へのモチベーションを保つのが難しく、成績がどんどん落ちてしまいました」「ただでさえ、学習障害で勉強が大変なのに学校休校により、苦手なレポート文章作成や、学校再開後の進度の早さに今まで以上について行けず、学校では補習もしてくれないので塾に頼るしかないのが困っています」といった声も届いているという。

「一斉休校後、所得が低い家庭ほど、子どもの学習時間や集中力が落ちているというデータもあります。この状況が続けば、中長期的に教育格差は拡大し、ますます進路選択や就労に影響を及ぼすことが懸念されます。そうならないためにも、教育機会の提供を家族だけの役割にせず、社会でサポートしていくこと必要なのです」

子どもの「学びたい」という気持ちを引き出す支援

主に学校外での教育機会の格差を改善するべく、チャンス・フォー・チルドレンでは低所得の世帯に向けてスタディクーポンを提供している。地域の塾や習い事、体験活動などで利用できるものだ。クーポンを受け取った教育機関には、個人や企業から募った寄付金をもとにチャンス・フォー・チルドレンが費用を支払うという構造になっている。

公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンより

「クーポンを採用したのは、使い道を教育に限定できるからです。現金給付も大事な支援の1つではあるのですが、現金だと子どもの教育に使用されない可能性があるので、クーポンにしています」

2021年7月現在でスタディクーポンを利用できるのは、東北・関東・関西を中心とした約1800の教育機関。子どもたちは利用したい塾や習い事をリクエストすることができ、チャンス・フォー・チルドレンがリクエストのあった教育機関に制度導入の交渉を行う。

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「習い事は強制されるものではないので、子どもの意思で学びたいものを選んでもらいたいという思いがあります。また、クーポンが使える先は、この制度に賛同し、登録した地域の塾や習い事などです。困窮世帯の子どもたちだけが通う場所ではないですし、講師以外は誰がクーポンを使っているか見えない仕組みにしているので、家庭の経済状況を他者に知られることはありません」

「友達と一緒に通いたい」「家の近所の塾がいい」「クーポンを使っていることを知られたくない」といった親子のニーズを汲んだ制度になっているのだ。また、子どもの教育や日常生活をサポートするため、大学生のボランティアによる面談も行っている。「年齢の近い学生だと子どもも相談しやすいから」とのこと。

「コロナ禍の対応として、2020年からクーポンの臨時給付やWi-Fiルーター・タブレットの無償貸与、大学生ボランティアによる進路相談も行っています」

支援した家庭からは、「子どもが『次はこれがしたい』と意思表示するようになった」「家族以外にも支えてくれる人がいることに気づいた」という声が寄せられている。

「経済的な困難を抱える世帯の子どもはやりたいことを諦めていることが多いので、『これがしたい』と気持ちを解放できるようになることは大きな変化です。また、親も応援してくれる人がいると知ることで気持ちの余裕が生まれ、家族がいい方向に進んでいくのではないかと思います」

チャンス・フォー・チルドレンで過去に支援した母子家庭では、母が病気で入院している間、高校生になる男の子が兄弟の世話と家事をこなしながら、学校に通っていたそう。その子は高校3年生でスタディクーポンを利用し、塾に通うことができ、大学に合格した。子どもやその家族の未来につながる支援となっているのだ。

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スタディクーポンは各家庭にプラスの影響をもたらしているものの、まだ課題は多い。2020年度に支援できた子どもの数は596人。民間の団体では、支援にも限度があるのだ。

「相対的貧困状態にある世帯は、私たちのような民間の団体では支援しきれない規模なので、公的な経済支援が求められます。私たちのスタディクーポンや塾代助成事業を政策化する自治体も出てきていますが、渋谷区、千葉市、大阪市、那覇市など、まだ両手で数えられる程度。コロナ禍によって自治体は新しい政策を打ちにくい状況になっていますが、今後は国が主導して教育格差をなくすための支援を拡大していってほしいです」

教育格差が改善されることで、世の中にどのような変化が期待されるだろうか。

「災害や不況、病気などによって、誰もが貧困に陥るリスクがあります。そんなときに、十分な支援が行き届き、子どもたちが学びを諦めなくて済む社会であれば、多くの親子が安心して暮らせるようになります。どのような家庭に生まれても均等な機会が保障されるようになれば、より公正な社会になると思います。支援を拡大し、教育格差をなくしていきたいです」

取材・文=有竹亮介(verb)
図表=さいとうひさし