「国立競技場の運営ボランティア向け弁当が消費期限前に大量に廃棄されている」との一部報道が波紋を広げている。大会組織委員会は28日の会見で「余剰により多くの会場で食品ロスが生じていたことを確認した」と事実を認めた一方で、「余剰は廃棄ではなくリサイクルだ」と強調した。日本では7人に1人の子どもが貧困家庭で育ち、満足な食事を取れていないと言われる。「廃棄される弁当を困窮する子どもに」と要望するNPOを取材した。

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開会式当日で4千食の弁当が“廃棄”

オリパラの大会組織委員会(以下組織委)は28日の会見で、運営ボランティア向け弁当の大量廃棄について事実を認めたうえでこう続けた。

「特に開会式当日のオリンピックスタジアム(国立競技場)においては、スタッフ等が多かったために発注量が多く、伴って食品ロスも多くなりました。また弁当の発注に対する当日のシフトによる実需との誤差が生じたことも、食品ロスが大きくなっていたことの一因と考えます。今週に入ってから、各会場において発注量の適正化措置が順次とられ始めています」

組織委によると開会式当日の国立競技場における発注は約1万食で、そのうち余剰となったのは約4千食だ。またその他の会場を含むと全体では、「事業委託先との関係もあり明示しかねますが、先週まで概ね2割から3割の余剰が生じていました」としている。

約5万人と言われるオリンピックのボランティアで2割から3割の余剰となれば、毎日1万食規模の弁当が余っていたと推定される。もし報道によってこの事実が明るみになっていなければ、オリンピック終了まで毎日これだけの弁当が捨てられていた可能性があるのだ。

「余剰は廃棄ではなくリサイクルだ」

組織委員会は「多くの食品ロスが生じていたことについてはお詫び申し上げます」と謝罪したうえで、「なお余剰は廃棄ではなく、飼料化リサイクル・バイオガス化しています」と強調した。東京五輪では「持続可能性に配慮した大会の準備・運営」を目標として掲げている。その目標の一つが資源管理で、目指すのは「3R(リデュース・リユース・リサイクル)を徹底し、資源を一切ムダにしない大会運営」だ。つまり飼料化リサイクルといえば、組織委としては運営目標には反したとはいえない。

これに対し立ち上がったのが、都内港区で一人親家庭の支援にあたるNPO法人「みなと子ども食堂」だ。みなと子ども食堂では組織委の橋本聖子会長宛に「無駄になる弁当を貧困の子どもたちに配ってほしい」との要望書を有志と提出した。みなと子ども食堂の理事長であり弁護士の福崎聖子さんはこう語る。

「廃棄問題について組織委員会を、もっと非難するべきという方もいますが、まさに毎日捨てられているお弁当があるので、私たちは一刻も早いお弁当の引き取りをしたいのです。特に夏休みになると学校給食がなくなるので、一人親家庭の子どもの食生活は厳しくなります」

みなと子ども食堂理事長の福崎聖子さん(真ん中)、応援する中川有紀子さん(左)と増上寺の赤羽海衆さん(右)

コロナで困窮する子育て家庭が増えている

みなと子ども食堂では港区在住の区民を対象に支援している。在日外国大使館も多い港区は富裕層が住んでいるイメージがあるが、港区によると公立小学校の子どものうち約11%が給食費を含む就学援助を受けていて、公立中学になると約25%だ(令和元年度)。

みなと子ども食堂は2016年から子どもへの食事配布や学習支援を始めた。しかしコロナの感染拡大のため密になる子ども食堂は中止し、いまは月に1度食料や生活用品の配布を行っている。場所の提供を行っているのは区内の増上寺だ。

みなと子ども食堂では月に一度食料や生活用品の配布を行う

「コロナになってからお困りの家庭が増えていることを実感します。約50世帯の食料配布枠に130世帯の申し込みがきていて、子どもの数で言うと200人くらいにあたります。7月は21日に食料品などの配布を行いましたが、子どもたちが大きな袋を抱えたり、スーツケースをもってくることもあります。食料品だけでなく生活用品や学習教材も配布していますが、お困りの家庭では学用品を買うのも大変なのです。配布する品は殆どが寄付で成り立っています」(福崎さん)

困窮家庭では学用品を買うのも大変だ

9割の困窮家庭が夏休みの子どもの食事に不安

困窮家庭の支援を行うNPO法人キッズドアでは、夏休みを前に全国の困窮子育て世帯2400件を対象にアンケートを行った。それによると約9割の家庭が夏休みの子どもの食事に不安があると答えている。

また学校給食がなくなることで、栄養バランスのある食事を与えられないとの回答が8割近くを占めているのだ。

円グラフともNPO法人キッズドア調査より

東京五輪の次世代へのレガシーは何なのか

みなと子ども食堂の運営を応援している経営学者の中川有紀子さんは、今回の大量廃棄問題についてこう語る。

「今回のオリンピックのコンセプトでは、“国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」に貢献するとともに、将来の大会や国内外に広く継承されるよう取り組んでいきます。”と掲げられています。ならば今回のことを未来の世代にどう伝えていくつもりなんでしょうか?」

中川さんは「緊急事態宣言でアルバイトがなくなり、食費を切り詰めている学生もいる」と語る。

「1週間にパン1斤で過ごす学生もいます。一方で賞味期限前のパンやおむすびが大量に捨てられている。リオデジャネイロオリンピックでは貧困層に食事の提供をしたという正のレガシー(遺産)を残しています。『東京五輪のレガシーは何だったのか』という問いに答えられるように、私たちは一個人ですけど声をあげたいのです」

みなと子ども食堂での食料配布の様子

「食べ物を大切にする」を世界に示す

今回の要望の中でみなと子ども食堂は、子ども支援団体が国立競技場まで弁当を引き取りに行くので、弁当を冷蔵保管状態で運べる導線を作ってほしいと要望している。福崎さんは語る。

「もちろん食中毒、三密にならないようにロジは最大限の注意を払います。民から提案したアイデアが官民連携で具体化されれば、食品ロスの負のイメージが、食べたい人につながるエコシステムに変えていけると信じます。私たちは批判や粗さがしをするのではなく、協働してより良い実装にしていきたいのです」

「一粒のお米には七人の神様が宿る」と昭和の親は子どもに自然の恵みや食べ物の大切さ、作り手への感謝の気持ちを教えてきた。

ものを大切にする「もったいない」の精神は日本の美徳だ。しかもボランティアの弁当代は血税が注ぎ込まれている。余ったからリサイクルで済まされる問題ではない。

組織委は「弁当廃棄はリサイクル」ではなく、オリパラという国際的に注目される場だからこそ「食べ物を大切にする」レガシーを世界に示すべきではないか。

食料配布を受けた子どもたちからの手紙

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】