7月1日、存命ならこの日に60歳を迎えたダイアナ妃の銅像の除幕式が行われた。妃の没後20周年に当たる2017年、ウィリアム王子とヘンリー王子は、国民の後押しもあって母の銅像を建てることを決定した。それから4年が経ってしまった。

ダイアナ妃の銅像の除幕式にはウイリアム王子とヘンリー王子が揃って参加した(2021年7月1日)
ダイアナ妃の銅像の除幕式にはウイリアム王子とヘンリー王子が揃って参加した(2021年7月1日)
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遅れた理由はコロナ禍のほかに、ダイアナ妃の36年間の生涯のどの場面を形にするか、もめたからだ。初々しい19歳の婚約時か、おとぎ話そのままと称えられた結婚式か、二人の王子に愛情を注いだ母親の姿こそふさわしいのだろうか。

おとぎ話そのままと称えられた二人の結婚式
おとぎ話そのままと称えられた二人の結婚式

妃の結婚生活には常にカミラ夫人の影が付きまとい、悲しみ苦しんだ。離婚後は、王室から大きく飛び立ち、自立の道を突き進んだ。アフリカでは地雷廃絶活動を行い、世界各地でエイズ患者との素手の握手で彼らを偏見から救うなど、人道的活動に献身的に取り組んだ。その姿こそ銅像にすべきだろうか。

像のモデルとなったのはクリスマスカード

式は午後2時からケンジントン宮殿のサンクンガーデンで始まった。二人の王子の手で幕が降ろされるとダイアナ妃が姿を現した。約2.4メートルという大きさで、妃はきりりとした表情でしっかり前を向いている。モデルとされたのは、1993年に妃が友人らに送ったクリスマスカードの写真だった。この年ダイアナ妃はチャールズ皇太子との別居に踏み切り、自立への道を力強く歩みだしたのだ。この選択には共感が寄せられた。

きりりとした表情でしっかりと前を向くダイアナ妃の銅像
きりりとした表情でしっかりと前を向くダイアナ妃の銅像

ダイアナ妃の周囲に立つ3人の子どものうち2人がはだしであることに疑問が寄せられたが、これは妃のグローバルな活躍を示していると説明された。

二人が裸足でいるのは「妃のグローバルな活躍」を示しているという
二人が裸足でいるのは「妃のグローバルな活躍」を示しているという

ウィリアム王子とヘンリー王子は共同声明で、「毎日、私たちは母がそばにいてくれたらと思います。また、この像が永遠に、彼女の人生とその遺産のシンボルになることを願います」と述べた。

彫刻家は、イアン・ランク・ブロードリーさんで、イギリスでは著名なアーティストである。イギリスや英連邦のコインには、すべて彼の手になる女王のお顔が刻まれている。

ダイアナ妃像を制作した彫刻家のイアン・ランク・ブロードリーさん
ダイアナ妃像を制作した彫刻家のイアン・ランク・ブロードリーさん

これにかみついたのは、テッサ・ダンロップ博士(歴史学者)で、「女性の彫刻家に依頼すべきだった」と主張して注目された。彼女は、作品としての仕上がりに苦情を唱えるわけではないと断りながらも、女性の手でダイアナ妃を形作ればさらに意義深かったという。

実現しなかった「和解の場」

しかし、除幕式が特に注目を浴びたのは、二人の王子の和解の場になるのではないかとの期待からだった。王子たちは、母の死から互いを慰め励まし合う理想の兄弟と言われた。ヘンリー王子は親しみやすく、気取りがなく、子供たちともすぐに仲良くなった。優しくて明るいと国民から愛されてきた。いろいろとトラブルも起こしたけれど、それでも国民は大目に見てきた。王室もそのたびにかばってきた。

除幕式での二人
除幕式での二人

それが、メーガンさんと結婚するとまるで性格が一変した。王室にいたときの恨み言を述べ、祖母、父、兄の悪口を繰り返してはばからない。信じられない変わりように、ウィリアム王子の驚きと悲しみは計り知れない。かわいい弟を連れてアメリカに高飛びしたメーガンさんへの怒りも大きい

しかし、除幕式では、母を追悼する気持ちが二人を結びつけると信じられてきた。幕を引いてダイアナ妃が姿を現すとウィリアム王子はしばし言葉もなく母を見つめる一方で、ヘンリー王子はあいまいな笑みを浮かべていた。久しぶりの帰国がうれしかったのか、母の銅像に感激したためか、など理由が探られたが、いずれにしても笑顔は和解の兆しではなかったようだ。

母ダイアナ妃の像をじっと見つめるウイリアム王子(左)とヘンリー王子(右)
母ダイアナ妃の像をじっと見つめるウイリアム王子(左)とヘンリー王子(右)

除幕式にはダイアナ妃の実家スペンサー家から姉二人と弟が参加したが、ともにウィリアム王子との会話に話しが弾んだ。ヘンリー王子とは微妙に距離を取る様子が見られた。ヘンリー王子との会話はメーガンさんに筒抜けで、それはまたインタビューのネタになるかもしれない。だれもが慎重にならざるを得なかった。ヘンリー王子は、かなり居心地が悪かったかもしれない。ひっきりなしに結婚指輪を触る姿が見られたが、メーガンさんが横にいないのが心細かったのだろうと言われている。

わずか90分の立ち会い

ヘンリー王子は除幕式のわずか25分ほど前にケンジントン宮殿に到着、除幕式後に供されたシャンペンも口にしたかしないかで姿を消した。そして翌日にはもうアメリカに飛び立ったのである。笑顔ではあっても、兄と膝を交えての和解の話など最初からする気もなかったのだ。

ウィリアム王子は、和解があるとするならすべてヘンリー王子の謝罪から始まると考えており、自分からは特に何か歩み寄る必要はないとのスタンスだ。ヘンリー王子は、わずか90分ほど除幕式に立ち会っただけだった。その様子に「メーガンさんがヘンリー王子と結婚している限り、和解は無理かもしれない」とのあきらめムードが国民には漂っている。

ただ今回の除幕式はコロナのために集まる人数が制限され、当初は100人以上のゲストを招く予定が15人ほどに絞られた。ダイアナ妃がパトロンを務めた慈善団体などから残念がる声が上がり、9月には妃の友人らを招いてのパーティーを予定している。この時ヘンリー王子は、メーガンさんをはじめ、アーチー君やリリベットちゃんを連れてロンドン入りするとされている。

人道的活動に力を注いだダイアナ妃
人道的活動に力を注いだダイアナ妃

その時には、リリベットちゃんの洗礼式を女王の立会いのもと、兄のアーチー君のようにウィンザー城の礼拝堂で行いたいと希望している。ただメーガンさんの渡英には、イギリス人の90%以上が反対するとのアンケート結果(デイリーエクスプレス調査)もあった。実現にあたっては、また一波乱ありそうだ。

24年経っても変わらぬ“ダイアナ人気”

ケンジントン宮殿の前に手向けられた沢山の花束やカード
ケンジントン宮殿の前に手向けられた沢山の花束やカード

一方で、ケンジントン宮殿の前には、ダイアナ妃をしのんでたくさんの花束や「イングリッシュ・ローズよ、永遠に」などと記されたカードが手向けられた。除幕式翌日からの一般公開には長い列ができて、死後24年たってもなお高いダイアナ妃の人気を見せつけたのだった。

【執筆:英国王室ジャーナリスト 多賀幹子】

多賀 幹子
多賀 幹子

英国王室ジャーナリスト 元お茶の水女子大学講師 企業広報誌の編集長を経てフリーのジャーナリストに。女性、教育、社会問題、異文化、王室をテーマに取材。著書に『ソニーな女たち』『親たちの暴走』『うまく行く婚活、いかない婚活』などがある。