まもなく開幕する東京オリンピック。

野球日本代表“侍ジャパン”の稲葉篤紀監督に、「S-PARK」野球解説者の藤川球児さんが短期決戦のカギを握る投手起用や、北京オリンピックでの敗戦から得た教訓について話を聞いた。

2人は2008年の北京オリンピック、2009年のWBCで共に日の丸を背負い戦ったチームメイトでもある。WBCでは世界一を手にしたものの、北京オリンピックでは4位という結果に。メダルを逃す悔しさを味わった。

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そんな稲葉監督が考える、悲願の金メダルを目指すために必要なものについて、藤川さんが迫った。

田中将大に期待大

まず2人の話題に上がったのは、東京オリンピック日本代表にも選ばれている田中将大(楽天)のことだ。

藤川さんが「北京オリンピックから13年、彼はあの時19歳でした」と切り出すと、稲葉監督は「いじってましたよね」と笑う。

北京オリンピックにチーム最年少で出場した、当時19歳の田中は、今度はチーム最年長で東京オリンピックに挑むことになる。

稲葉監督は「ここっていうときの力は絶対に出してくれると思う」と田中の活躍に期待を寄せている。

その田中をはじめ、今回選ばれたピッチャー11人のうち4人がリリーフ専門だ。さらにリリーフでの起用も取り沙汰されている山本由伸(オリックス)や伊藤大海(日本ハム)も含めるとリリーフ起用の可能性がある投手が半分を占めている。

「勝利の方程式を形成するのか、それともたくさんのバリエーションを持っていくのか」という藤川さんの問いに「たくさんのバリエーションを持っていきます」と答えた稲葉監督。

藤川さんもその戦略には拍手を送り、「形を決めると動けなくなると思う」と納得。稲葉監督はその理由について「苦しくなりますよね。6~9回の中で流れを持っていかれてしまうと、どうしても取り返しがつかないので」と明かした。

キーワードは「フォアボール」

勝利の方程式は作らず、状況に応じた投手起用を考えているという稲葉監督。

だからこそ、今回のメンバー選考にも意図があるという。

「外国人バッターはブンブン振ってくるので、スピンの効いた高めのストレートなど、押し込めるピッチャーを入れている」(稲葉監督)

今シーズン、無失点記録で話題となった平良海馬(西武)と栗林良吏(広島)の若きクローザー。そして山本や伊藤など150キロ超えのストレートを武器に、高い奪三振を誇る投手が名を連ねている。

さらに稲葉監督は「フォアボールで点を捕られると、大量点につながる」ため、「投手陣のフォアボール」をキーワードに挙げる。

藤川さんも「確かに与四球率はほとんどの投手が高くない投手ばかり。どんどん勝負を仕掛けていて、ストライクゾーンで攻められる投手」と納得する。

大量失点につながりかねないフォアボールだが、9イニングあたり、いくつフォアボールを与えたかを示す与四球率を見ると、3.0前後が平均とされる中、11人中6人が平均を下回るという投手陣となっている。

威力のあるボールを武器にストライクゾーンで勝負する。稲葉監督が選んだ攻めた投手陣が世界の強豪に挑む。

東京五輪は“最後に金を獲る”

北京オリンピックに選手として出場した稲葉監督は「本当に北京は厳しかった」と振り返る。

「北京では全勝優勝を星野(仙一)監督は掲げていました。1つも負けてはいけないというプレッシャーがかかっていた」(稲葉監督)

北京では出場8チームで総当たりの予選リーグを行い、上位4チームが決勝トーナメントで戦った。

一方、東京オリンピックでは6チームを2つのグループに分けオープニングラウンドを戦い、その順位でノックアウトステージの組み合わせが決まるため、例え途中で敗れても敗者復活のチャンスが残されている。

「敗者復活戦もあるという意味では、“最後に金を獲る”という考え方でいます。そこは北京と違う」と明かす稲葉監督に、藤川さんは「北京に選手として出場されたことが生きていますよね」と頷く。

東京オリンピックに向けて藤川さんは「非常に楽しみですね。監督は怖いと思いますけど」と正直な感想を述べると、「怖いっていうか…楽しみよ。楽しまないと苦しいばっかり伝わっちゃうでしょ」と前向きな様子。

オリンピックという大舞台に立ち向かう稲葉監督に藤川さんは「東京五輪で野球の監督ができる人は世の中で1人しかいない。一緒にプレーした稲葉さんがやっているのは僕たちも誇り」だと嬉しそうにする。

そして、「全力で応援するので、ぜひみんなを束ねて。金メダルを期待しております」とエールを送った。

東京オリンピック開幕まであと11日。悲願の金メダルを目指す戦いが幕を開ける。