AIバウムクーヘン職人「THEO」

事業の再生を任されたのはバウムクーヘンを焼く、世界初のAI職人だった。

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しっとりとした生地にふんわりと漂うバターの香り。そして、最大の特徴である、焼き色が作る年輪。

このバウムクーヘンは、ちょっと変わった職人が作っていた。

蛸屋総本店・山口浩工場長:
半分なめてました。
「そんな簡単に来て、簡単に焼けないよ」とは思っていたんですけど、衝撃的でした。

職人が焼く生地をデータ化

栃木・小山市にある蛸屋。
名産のとちおとめやかんぴょうなど、地元の食材を生かしたお菓子を販売している老舗和菓子店に、新たな職人が加わった。

世界初のAI搭載バウムクーヘン専用職人「THEO」(読み:テオ)。

お菓子作りで100年以上の歴史を持つユーハイムが、5年かけて開発した。

バウムクーヘン作りで最も難しいといわれる焼きの工程だが、THEOは職人が焼く生地を画像センサーで解析しデータ化。

そのデータを使って、ベストな焼き具合を学んだAIが、センサーカメラの映像をもとに、職人レベルのバウムクーヘンを焼き上げる。

蛸屋総本店 山口浩工場長:
今まで職人の技で作業をしていたんで、半信半疑に思っていたんですけど、THEOは見なくてもいいし、本当にスイッチ1つで最後まで焼き上げてくれる。

きっかけは一通の手紙

ユーハイムが、このAI職人を無償で貸し出したきっかけは、倒産を経験し、再生を目指す蛸屋から届いた一通の手紙だった。

蛸屋からの手紙
「職人さんという職人さんが少なく、なかなか思った以上の成果を出すことができておりません。バウムクーヘン焼成機THEOで光が見えた気がします。勝手なお願いでありますが、ぜひ機械を使わせていただくこと心からお願い申し上げます」

ユーハイム 河本英雄代表取締役社長:
まずは自分たちの近くの仲間を助けられるという仕事が最初の仕事にしてもらった。こういうチャンスをもらったこと、率直にうれしかったですね。

お披露目イベントには、地元の人たちも集まった。

地元住民:
地元で蛸屋さんは有名で、それが再生すると。人間が作っているのとAIが作っているのでは、味がどうなのかなって思いますよね、楽しみです。

AI職人が街のお菓子屋さんを支援する新たな試み。今後については

ユーハイム 河本英雄社長:
THEOはお金もうけではなくて、人助けになることをやっていくべきだと思っているので、そのことがAIの将来を決めていく、THEOの将来を決めていく。
まずは必要とされたところに、すぐにTHEOが飛んでいけるのかどうかがすごく大事だと思います。

蛸屋総本店 山口浩工場長:
(THEOが)蛸屋のシンボルとして、またお客さんが集まってくれるような場所になってくれるといいと思います。

"匠の技"に著作権が生まれる可能性

三田友梨佳キャスター:
デロイト トーマツ グループの松江 英夫さんに聞きます。
匠の技を持つAI職人をどうご覧になりますか?

デロイト トーマツ グループCSO・松江 英夫氏:
AI職人によって匠の技が将来、著作権として守られるかもしれない。こういった可能性に私は注目しています。

日本で著作権といいますと、文学、芸術、音楽といったものが対象で、残念ながらレシピは対象になっていません。
しかし今回のように、AIによって無形のノウハウであるレシピがデータとして見えるようになって、さらにデータベースが創造的価値を生むものとの認知を得られれば、これは著作権の対象になり得るんです。

こういった形で職人さんの匠の技、無形のノウハウが見える格好になると、評価することが可能になるので、経済の価値に置き換えることができる。

そうすると今までお菓子という商品を通じてしか伝えることができなかった匠の技が、ノウハウそのものとしても評価されて経済価値になり、新しい収入源になっていく。こんな好循環にも繋がっていくことに期待できると思います。

三田キャスター:
職人の匠の技に著作権が認められると、これまで師匠と弟子の間で継承されたノウハウが広く公開されることになりますが、これについてはいかがですか?

松江 英夫氏:
そこは大事なところだと思います。

今まで技術の継承というのは、口伝とか直接の関係でしか難しかった。これが後継者不足とかいろいろな課題になっていったのですが、AIを通じてノウハウが広く伝承できるようになる。

例えば、世界中にも広がって共有できるようになると、それを元にしてオリジナルなアイディアやレシピが生み出されるし、代々伝承に関しても時間を越えることができる。

時間や空間を越えて技術の伝承ができるようになることは大きな魅力だと思います。職人がまさにAIをうまく使うことで、職人さんの地位の向上に繋がる。こういった可能性に期待して注目しています。

三田キャスター:
職人とAI技術の共同によって匠の技が引き継がれると、業界の持続可能性にも繋がると思いますし、新たな可能性も広がっていくのかもしれません。

(「Live News α」6月29日放送分)