食用バラの魅力を数値で伝える

無農薬のバラ農園を救った「成分ブランディング」。

神奈川県平塚市でバラを栽培している横田園芸は、魅力の見える化で売り上げが3倍に増えた。

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無農薬で作るこだわりのバラだが、売り上げは長年伸び悩んでいた。しかし今、ある業界からの問い合わせが増加している。

農園に訪れたのは飲食関係者。そのお目当ては・・・

飲食関係者:
すごく香りが出る。さらに食べられるというのが価値だと思う。

横田園芸で栽培されるバラは、一般にはあまりなじみのない「食用のバラ」。彼らは、このバラのある魅力を聞きつけ、訪れたという。

飲食関係者:
香りが圧倒的にほかのものよりも強い。通常よりも3000倍以上。

注目のきっかけは、「香りの成分が通常のバラの3840倍ある」というキャッチコピー。

この数値を使った宣伝を始めると問い合わせが増加。売り上げはなんと3倍にもなった。

横田園芸・横田敬一さん:
いいですよ、香りが強いですよ、おいしいですよと、伝え方がそれしかなかったのがもどかしい。説明があやふやになってしまうので、数字という目に見える形で出たっていうのは、それに見合った価格を作ったり、うちだけしかその香りを出せていないとなると、唯一のブランドが取れる。

干物や餅も…食材が持つ魅力や優位性を可視化

バラの成分を分析し数値を導き出したのは、食材のECサイトを運営するベンチャー企業「ドットサイエンス」。

「成分分析ブランディング」というこのサービスは、依頼された食品の成分を分析するとともに、他社の製品とも比較することで、その食材が持つ目に見えない魅力や優位性をわかりやすく可視化する(費用は10万円~)。

これまで、シイタケではうま味、干物では臭みの少なさ、餅ではやわらかさや口どけのよさと、それぞれの特徴に合わせて品質を数値化。高価格化や販路の拡大を実現した。

ドットサイエンス・小澤亮社長:
物作りに実直で、どんなにおいしいものを作っても、最終的に価格競争力につながらない。品質を科学的に証明することができると、もっとそれを武器に販路を作れる。

成分分析をする前から、横田園芸のバラを使用する東京・銀座の高級レストランのパティシエは…

ファロ シェフパティシエ・加藤峰子さん:
(3840倍という結果を聞いて)やっぱりなという感じ。圧倒的な香りが成分表に出てる。数値化することで消費者も食材に対する興味が湧いてくる。説得力があるのは確かです。

生産者のメリットはもちろん、消費者にとっても食品選びの新しい基準となる数値化のサービス。現在、15件の成分分析が決まっているという。

品質の「見える化」が海外で戦う武器に

三田友梨佳キャスター:
マーケティングや消費者行動などを研究している、一橋大学ビジネススクール准教授の鈴木智子さんに話を聞きます。成分ブランディングは、目に見えない魅力や優位性を分かりやすく見える化してくれるようですね?

一橋大学ビジネススクール准教授・鈴木智子さん:
マーケティングにおいて、成分ブランディングは歴史があり、素材や部品などを提供するB2B企業のブランド認知を高めるのに効果を発揮してきました。

例えば三田さん、今は梅雨の季節ですが、お洋服や靴を買うときに素材にゴアテックスが使われているとどんな印象を受けますか?

三田友梨佳キャスター:
防水効果がありながらも蒸れなくて透湿性に優れている、そんなイメージがあって商品を購入する際は1つの目印になります。

一橋大学ビジネススクール准教授・鈴木智子さん:
そうですよね。成分がブランド化されると高い品質の差異になります。すると、消費者は買い物で失敗するリスクを減らす安心感が生まれて、消費者の購買意向が高まります。

バラ農園もそうですが、成分をブランド化することによって、B2B企業は発注が増えて利益の向上が期待できます。取引先とのよい関係が長く続くことにもつながります。ただ、成分ブランディングはいいことばかりではなく、懸念すべきポイントもあります。

三田友梨佳キャスター:
具体的にはどういったことですか?

一橋大学ビジネススクール准教授・鈴木智子さん:
成分ブランディングの1番の懸念は、コストがかかることだと思います。特に成分の強みを数字で表す分析を行うには、やはりどうしてもお金がかかってしまいます。バラ農園の場合は、バラの成分を低いコストで分析してくれるベンチャー企業との出会いによって、この課題をクリアしています。

三田友梨佳キャスター:
成分ブランディングを進める際には、費用対効果を考える必要があるということですね。

一橋大学ビジネススクール准教授・鈴木智子さん:
成分ブランディングの取り組みは、ぜひ進んでほしいと思います。日本の中小企業が世界マーケットに挑戦する際、数字で高い品質が“見える化”されています。成分ブランディングの取り組みが進んでいると、知名度のないマイナスを跳ね返す大きな力になると思います。

日本企業は欧米企業と比べるとブランディングが弱いとよく言われているんです。日本には素晴らしい企業や商品がたくさんあるので、世界に知られていないもったいないケースが多く、成分ブランディングが進んでくれるといいと思います。

三田友梨佳キャスター:
モノやサービスがあふれる今、強みを数値化して明確に伝えることで、新たな価値が提案されてそれがまた製品の差別化にもつながるはずです。利用者も魅力的なものに出会う可能性が高まっていくのかもしれません。

(「Live News α」6月23日放送分)