重い障害のある子どもや、医療的ケアの欠かせない子ども。
その成長をどのように支え、親の負担を減らしていくか。
この難しい問題の解決に向けて、新潟・上越市に新しい一時預かり施設ができた。
共に生きる社会をめざす取り組みを取材した。
1時間に1回たんの吸引も…24時間体制でケアする両親
花音ちゃんの母 田木理菜子さん:
何日に具合悪くなったと先生に伝えなきゃいけないので、すべて私たちがここに記入してます
両親が毎日のケアの記録について説明するのは、糸魚川市の田木花音ちゃん(2歳9カ月)。
この記事の画像(13枚)生後まもなく染色体の先天性疾患、18トリソミーと診断された花音ちゃんは、人口呼吸器を使っていて、ミルクは管を通して摂取している。
また、たんの吸引も1時間に少なくとも1回は欠かせない。
(Q.一番大変だったころは?)
花音ちゃんの母 田木理菜子さん:
(花音が)生きていくために…夜中も平気で1時とか2時とか、何回も何回も病院かかった
花音ちゃんの父 田木英紀さん:
ちょっと散歩に行くこともできない状態だった
医療的ケアが日常的に必要な「医療的ケア児」であり、重い障害もある花音ちゃんの世話に、両親は24時間体制であたってきた。
花音ちゃんの母 田木理菜子さん:
(花音ちゃんが)生きていくために色々やるんだけど、これが正解なの?っていう。もう正解がわからないから、何をしたらいいかわからなくて
呼吸器などによる医療的ケア必要な子ども 上越地域で初の受け入れ施設
2019年10月、ようやく富山県の病院で最大2週間の一時預かりがかなったが、新型コロナウイルスの影響で、5カ月で県外からの受け入れは断られるようになった。
24時間のケアが続く毎日に思いがけない変化が訪れたのは、2021年5月のことだった。
Sora・寺尾明美さん:
すいません、デイサービス・ソラです。花音ちゃん、いらっしゃい
花音ちゃんが糸魚川市から車で高速に乗って向かったのは、隣の上越市。
重い知的障害と、重い身体障害が重なった「重症心身障害児」のほか、「医療的ケア児」も対象に5月にオープンしたデイサービス施設「Sora(ソラ)」。
看護師を14年経験し、保育士の資格も持つ寺尾明美さんが一念発起して立ち上げた。
Sora・寺尾明美さん:
休息できないお母さんたちがいるんだって知ったときに、何とかお手伝いできないだろうかと。こうやって預けている間にお休みされたりすることで、またリフレッシュして子どもと接することができると思うので
社会全体で支える…親を支援し子どもの可能性広げる
花音ちゃんは、ソラに月3回ほど通い、健康チェックを受けたり、発達を促す遊びをしたりして過ごしている。
時には同じ18トリソミーの女の子と、目と目で触れあうこともある。
花音ちゃんの父 田木英紀さん:
(花音は)地元の保育園に通えないわけなんですね。(ソラでは)同じような病気の子どもと一緒に預かってもらえて、本人の発達にすごくつながってると思う
重症心身障害児の中でも、人工呼吸器などによる医療的ケアが必要な子どもを受け入れるデイサービス施設は、上越地域ではソラが初めて。
Sora・寺尾明美さん:
(開設は)もちろんすごくためらって、どうしたらいいかわからなかった。そのときに(重症児デイサービスが)上越市になかったということで、必要としていた方たちの要望がこれまでたくさんあった。そういう方たちが応援してくれた
利用者の送り迎えを行うこともソラの特長。
Sora・寺尾明美さん:
送迎があると(親は)送り出すだけで良いので、休む時間が増える。お母さんたちが喜んでくださるとやらねばならない
ソラに預けられるのはわずかな時間。
それでも家族にとっては大きな意味を持っている。
花音ちゃんの母 田木理菜子さん:
ソラに預けた日は、いい意味で娘のことを考えなくてもいい。色んなスタッフさんが娘にずっとつきっきりだし、パパたちも自由な時間もできたし、一瞬で心の負担が減った
ソラに通えることに喜びを感じている男の子が、上越市内の特別支援学校中学部にいる。
人工呼吸器を装着する医療的ケア児で、これまで放課後に通えるデイサービス施設がなかった男の子。
職員:
めちゃくちゃ良い勝負になってる
職員と映画や音楽の話をしたり、ゲームをしたりするのが刺激になっている。
Soraに通う特別支援学校の生徒:
利用者と職員じゃなくて、友だちとして接している感じがあって、「第二の家」という感じがします
この日は、寺尾さんの知人によるブラジルのカポエイラ教室で歌を歌ったり、現地の楽器を演奏したり。
また、実習に訪れた上越教育大学の大学院生と会話を楽しんだ。
Soraに通う特別支援学校の生徒:
家と同じで気楽に過ごせるし、それプラスいろんな刺激もあって、特別な感じの場所ですね
医療的ケア児は、医療の進歩にともない、2007年からの12年で2.4倍に増え、2万人を超えた。
2021年6月11日には、医療的ケア児とその家族を支援する法律が可決・成立。
幼稚園や学校の設置者には、医療的ケアができる看護師の配置を。
都道府県には、家族の相談に応じる支援センターの設置を求めている。
Sora・寺尾明美さん:
今までお母さんたちがひとりでやらなきゃいけないって思っていたことも、今度は助けを求めて、みんなで子どもを見ていくというところにつながると思う。(ソラは)この先もチャレンジし続けたい
子どものケアにあたる親を支援し、子どもの可能性を広げる…
社会全体で親子を支えていく取り組みが求められている。
(NST新潟総合テレビ)