まだ本格的な夏とはなっていないが、暑い日が続いてくると、魚取りや涼を求めて水辺で遊ぶ機会も増えてくる。そんな場所で夢中で遊んでいるといつの間にか帽子や靴が水に流されていく…なんて経験を子どもの頃にした人もいるのではないだろうか。
しかし、そこで慌てて水の中に入って拾いにいくと溺れる可能性もあり、とても危険な行為だ。川で流されたり、池で深みにはまってしまったら、自力で上がるのはなかなか難しい。
そういった状況を防ごうと、NPO法人 AQUAkids safety project(水の事故から子どもを守ろうPJ)が、水辺の事故から命を守る誓いを親子でする「サンダルバイバイおやこ条約」を作成した。

川遊びで流されたサンダルなどを子どもが追いかけて溺れる事故を防ぐため、親子の間で交わすもので、条約証書の内容は、以下のように記載されている。
サンダルバイバイ 親子条約
ぼく・わたしは、サンダルやぼうしやおもちゃがながされたら、じぶんのいのちをまもるため、おいかけずに、バイバイします。
なくしたからって、しからないでください。
(できれば、ぬげにくい、あたらしいサンダルをかってもらえたらうれしいです)
文末には子どもの署名欄。そして、「叱らないことを約束します」との誓いに続き、親の署名欄がある。

子どもはサンダルを始め、帽子やおもちゃなどの持ち物がもし流されたとしても、自分の命を優先して、追いかけたりせずに見送ることを誓うという内容だ。
風などで帽子が飛ばされた場合はとっさに追いかけてしまうこともあるかもしれないが、中には「失くしたら叱られちゃう…」と心配して拾いに行ってしまう子もいるのだそう。そこで親も、持ち物をなくしたとしても子どもを叱らないことを約束するのだ。
条文の内容は、ひらがなとカタカナで難しい言葉も使われておらず、子どもにも分かりやすい文章となっている。さらには、「脱げにくい新しいサンダルの購入」のお願いも含まれていたりと、大事な内容だけでなくユーモアを感じさせる条約となっている。
条約証書は縦書きと横書きの2種類があり、同法人の公式ホームページからダウンロードすることができる。

なお、同法人が公式Twitterに、子どもが条文を読み上げて条約証書に署名し、実際に条約を結んでいる様子の動画を投稿したところ、「ほんと大事だと思う」「うちでも話そう」「夏本番に向けて拡がって欲しい」といった反響があり、動画が7万回以上も再生されるなど注目が集まっている(6月15日時点)。
【サンダルバイバイおやこ条約 始まる!】サンダルなど流された物を追いかけ溺れてしまう事故。物は買えても命は買えません。物が流されたら追いかけずバイバイしよう(#サンダルバイバイ)でも「叱られちゃう!」と追いかける子も😣そこで条約を作成!物が流された時の事を親子で確認するきっかけに pic.twitter.com/WukwcdBJFT
— NPO法人AQUAkids safety project(水の事故から子どもを守ろうPJ)代表 (@aqua_project721) May 31, 2021

未然に事故を防ぐには、親だけではなく、子ども自身も意識する必要がある。“条約”といった少し変わった形での誓いで、子どもたちも楽しみながら水難事故の予防につながるのではないだろうか?
では実際、こういった川に物を落とすことでの子どもの水難事故は多いのか?この条約誕生のきっかけなどについて、NPO法人 AQUAkids safety projectのすがわらえみ代表に話を聞いた。
「条約」という言葉で親子間で対等な約束ごとに
ーーなぜ「サンダルバイバイおやこ条約」を作ることにしたの?
毎年、水辺でサンダルなどの物が流され、それを追いかけて亡くなる事故が起きています。お友達のものを取ろうとしてあげた場合も同様の事故が起きています。こうしたパターンの事故を予防するために、子どもでも分かりやすいワードを考えようと思いました。
自分が子どもだったら…なぜ追いかけてしまうんだろう?と考えたとき「日ごろから、モノを大切にと言われているから、親に叱られるかも」という子もいるかもしれないと思いました。でも、実際はサンダルは買えても、命は買えません。保護者の方は実際叱ったりしないかもしれませんが、子どもの「叱られるかも」という気持ちがあれば追いかけてしまうだろうとも思いました。
そこで、親子で、それぞれ事前に「追いかけないこと」「叱らないこと」を約束をしておいたら良いのでは?と考えました。

ーーなぜ“条約”という形になったの?
条約という言葉を使って、親子間で対等な約束ごとになればいいなと思いました。(「おやくそく」だと大人が子どもに約束させるイメージになってしまうかなと思いました。)そして、親子で条約を締結するという、ちょっと非日常感も楽しめるツールにできたらと思いました。事故が起きる前だからこそ、楽しく親子でできる水難事故予防のツールです。
ーー条約作成でこだわった部分はある?
追いかけてしまう子どもの気持ちを考えて「何があったら子どもたちは追いかけない勇気」が持てるだろうと考えたところです。「できれば~」のくだりも、その一部です。デザインは、かわいらしく、でもしっかりと条約証書風に仕上げて頂きました。その方が、非日常感がでるかな、他のお約束事との違いもでるかなと思いました。

ーー実際に条約を締結している動画には反響があるが、それに対してはどう感じている?
大変嬉しく思っています。ホームページより、無料で案内文、条約証書がDL可能です。ぜひご家庭や学校の授業や宿題などでご使用頂けたら嬉しいです。
ーー条約にはどんな思いが込められている?
サンダルやものが流されて追いかけて…という水難事故は「サンダルバイバイ」が広まれば予防ができる事故だと思います。ぜひ、ご家庭で水辺の危険性についてお話するきっかけにして頂けたらと思います。
そして、学校でも夏休み前に「水の事故に気を付けましょう」という漠然とした注意喚起でなく、サンダルバイバイおやこ条約のような具体的なツールで、子どもたちへお話して頂きたいと思います。

「水辺の楽しさは、水辺の危険性を理解した向こう側にあります」
ーー実際に、川に物を落とすことでの子どもの水難事故は多い?
昨年も今年も、毎年のように起きています。事故に繋がらなかったとしても、危ない思いをしたというようなお声は、活動している中で多く聞いてきました。
ーー川に物を落とす他、水遊びの際の危険なことはなに?
プールとは違い、自然の水辺は、流れや波、水温、水深も変化します。思わぬところで深みにはまり溺れることもあります。必ずライフジャケット着用、足元はアクアシューズがオススメです。

ーーでは、どういったことに注意して水遊びすればいいの?
特に自然の水辺では、見た目では深さや滑りやすさなどがわかりづらいです。お子さまが水の中に入る前に、大人が先に入り、安全確認をしてあげてください。また、天気をこまめに調べる、意識して休憩(水分補給も)をとることも大切です。
ーー「川に落ちてしまった物を追いかけない」の他、水遊びの前に子どもに教えておくべきことは?
もし溺れた人を見つけたときは、助けに飛び込まずに、まずは「大人の人を呼んでね」と伝えています。(呼ばれた大人も、水中に飛び込まずに、陸上からロープや浮きになるものを投げ渡すなどして、救助隊の到着をまってください)

ーーちなみに、もし川に落ちてしまったらどう対処するのが良い?
まずは落ち着いて(→とても難しいですが)鼻と口が水の上に出るように、背浮きになります。掴まれる岩や木があるところまで流されて、そこに掴まり、救助を待ちましょう。
ーーこれからら水遊びをする親子などに向けてメッセージをどうぞ。
水辺は本来楽しいところです。でも、水辺の危険性を知らずに水遊びをしてしまったら…危ない思い、怖い体験をすることもあります。
水辺の楽しさは、水辺の危険性を理解した向こう側にあります。おもいっきり水辺を楽しむために、是非、水辺の危険性、水遊びを楽しむための対策など「水辺を安全に楽しむ」ことについて知っていただきたいと思います。

サンダルなどを水辺に落としたことが発端となる子どもの水難事故は、毎年起きているという。また、事故とまではいかなくても、「危ない思いをした」「怖い思いをした」といった声が同法人には多く届いているとのことだ。
なくしてしまった物は新たに買うことができても、命は二度と戻ってこない。水遊びに向かう前に親子で条約を結んで、楽しい夏を過ごしてほしい。
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