多くの種類が絶滅の危機にさらされている「ゲンゴロウ」。
どうにか次世代に残していこうと、飼育・展示している水族館の裏側を取材した。

「ゲンゴロウ王国」の福島県

「アクアマリンいなわしろカワセミ水族館」は、福島県内の淡水に生息する生物など約150種、3,000点を飼育・展示している。

アクアマリンいなわしろカワセミ水族館(福島・猪苗代町)
アクアマリンいなわしろカワセミ水族館(福島・猪苗代町)
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ゲンゴロウの幼虫に餌を与えていたのは、カワセミ水族館の飼育員チームリーダー・平澤桂さん。

カワセミ水族館飼育員・チームリーダー・平澤桂さん
カワセミ水族館飼育員・チームリーダー・平澤桂さん

朝のミーティングを手短に済ませ、水槽の掃除と餌やりを行う。

カワセミ水族館・平澤桂さん:
土を使っていて、足している水も少ないので、泥感が出てはいるんですよね。なので、雰囲気は出ていると思うんですけど。あんまり濁り過ぎると、お客さんから見えないって言われる。非常に難しいところではありますね

福島テレビ・坂井有生アナウンサー:
そんなスーパーマンスタイルで磨きます?

身を乗り出して磨く平澤桂さん
身を乗り出して磨く平澤桂さん

カワセミ水族館・平澤桂さん:
下までいけないんですよ。私は、体が硬いので…

福島テレビ・坂井有生アナウンサー:
手が滑ってドボンなんて落ちたら、上がってこられなくないですか?

カワセミ水族館・平澤桂さん:
今まで誰もないですね!

さらに、50以上ある小さな水槽も担当する。1つ1つが大事な命だ。

福島テレビ・坂井有生アナウンサー:
これは大変だな…

カワセミ水族館・平澤桂さん:
多いですからね…

実は福島県は、全国屈指の「ゲンゴロウ王国」。国内で確認された150種類のうち、県内だけで51種類も。

ただ、絶滅危惧種も少なくない。

カワセミ水族館・平澤桂さん:
ちなみに、これが福島県で一番小さなゲンゴロウ

マルチビゲンゴロウ
マルチビゲンゴロウ

福島テレビ・坂井有生アナウンサー:
このミジンコみたいなやつですか

カワセミ水族館・平澤桂さん:
1.5mmです

福島テレビ・坂井有生アナウンサー:
これゲンゴロウだって言われなかったら、わからないですよ

カワセミ水族館・平澤桂さん:
隣にいるのが、いわゆるゲンゴロウです

福島テレビ・坂井有生アナウンサー:
小学生のころ捕まえたいと思っていたゲンゴロウ!

カワセミ水族館・平澤桂さん:
同じです! 私は東京出身なので、やっぱりゲンゴロウにはかなり憧れがあって

新種や国内で絶滅した種も展示

別の水槽で泳ぎ回るのは、「ヒラサワツブゲンゴロウ」。
これは、平澤さんが2018年に福島・川内村で発見した新種で、2020年の大みそかに新種登録されたばかりだ。

ヒラサワツブゲンゴロウ
ヒラサワツブゲンゴロウ

世界共通の学術名には、発見場所の川内村・平伏沼の名前がついている。

カワセミ水族館・平澤桂さん:
ちょうど震災から10年になろうとした時に、こういう名前が付いたので、また川内村も盛り上がったらいいのかなと

福島テレビ・坂井有生アナウンサー:
小さな生き物だけど、福島県の名前を背負っている大事な生き物です

ヒラサワツブゲンゴロウ
ヒラサワツブゲンゴロウ

カワセミ水族館・平澤桂さん:
たった3.5mmですけど…

水槽の中には、新しい命も。

カワセミ水族館・平澤桂さん:
これが幼虫ですね! これが2令幼虫…3令幼虫まであるんですけど、3令のあとは上陸するんですよね。それで成虫になるので、大きくなった3令幼虫だけ回収しているんですよね

ヒラサワツブゲンゴロウの3令幼虫
ヒラサワツブゲンゴロウの3令幼虫

きちんと繁殖させることで、希少種の絶滅を防ぎ、種の保存につなげている。

続いてバックヤードに潜入。ゲンゴロウの餌は…

福島テレビ・坂井有生アナウンサー:
アカムシ(ユスリカの幼虫)?

カワセミ水族館・平澤桂さん:
アカムシの中でもなるべく細いのを…。アゴで捕まえるので、あまり大きいと食べられないんですよね。アカムシの体液を吸うので、なるべく細いのを選んであげています

福島テレビ・坂井有生アナウンサー:
アカムシを真剣な目で選別している方を、人生で初めて見ました!

こんな貴重なゲンゴロウも展示している。

スジゲンゴロウ
スジゲンゴロウ

カワセミ水族館・平澤桂さん:
これは、絶滅したスジゲンゴロウですね

福島テレビ・坂井有生アナウンサー:
絶滅した? 生存していますけど…

カワセミ水族館・平澤桂さん:
国内ではもういないんですけど、国外でいるものを石川県のふれあい昆虫館が増やしていて、それを1ペアいただいて、今3年目ですかね。ずっと累代をして展示している

採取活動に同行 探し続けること約1時間…

取材班もゲンゴロウを絶滅から救うために、水族館の採取活動に特別同行した。
環境省の準絶滅危惧種指定「キベリクロヒメゲンゴロウ」を狙う。

キベリクロヒメゲンゴロウ
キベリクロヒメゲンゴロウ

貴重な水生生物を守るため、採取場所は秘密だ。

福島テレビ・坂井有生アナウンサー:
どの辺にいるんですか?

カワセミ水族館・平澤桂さん:
水辺の岸沿いですね

水草の陰に潜んでいるというゲンゴロウ
水草の陰に潜んでいるというゲンゴロウ

“水中の忍者”とも称されるゲンゴロウは、水草の陰に潜んでいる。
探し続けること約1時間…

福島テレビ・坂井有生アナウンサー:
これ違う?

カワセミ水族館・平澤桂さん:
おぉ! きましたね! キベリクロヒメゲンゴロウ。キベリというだけあって、背中の両側にへりがあるんですよね。大きなゲンゴロウを小さくしたような感じで、非常にかわいらしいんですよね

福島テレビ・坂井有生アナウンサー:
私が参加させていただいても、いろいろな種類のゲンゴロウがいましたが、この自然を守っていくのは大事なことですよね?

カワセミ水族館・平澤桂さん:
どんどん生き物たちが絶滅に追いやられていますので、その生き物が住める環境は、私たちの世代だけではなくて、次の世代・その次の世代に1つでも多く残ってほしいと思います

この日は、全部で9種類のゲンゴロウを採取できた。
採取したマルガタゲンゴロウは、自然界での絶滅危惧が増大している種に環境省が指定しているが、採取活動を実施したため、池では少なくなかった。それだけ自然が豊かな証だ。

ゲンゴロウは、幼虫・サナギの過程を踏んで成虫になる完全変態で、サナギになる時に上陸して土の中に潜り、成虫になる。
つまり、コンクリートで覆われていない、護岸工事されていないため池などでしか生きていけず、多くの種類が絶滅の危機にさらされている。

種の保存法で、採取や売買が禁止されているゲンゴロウも増えつつあるため、見つけて観察したら、そっと水の中に返してほしい。

(福島テレビ)

福島テレビ
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