5月28日、菅首相は緊急事態宣言延長に伴う記者会見で東京オリンピック・パラリンピックの開催に改めて強い意欲を強調すると共に、観客を入れた大会を目指す考えを示した。

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変異株が広がり感染者数が下がりきらない中、「開催」だけが先行している現状に多くの国民は不安と懸念を払拭できずにいる。こうした中、6月1日には海外選手としては初めて豪州の女子ソフトボール選手団が日本に到着した。

選手団の到着で国内の開催のムードはどう変わっていくのだろうか。また海外メディアは東京オリ・パラの開催、日本の世論の現状をどうみているのだろうか。まずは米メディアの記事を抜粋して紹介したい。

日本への渡航制限をきっかけに、安全な大会開催に疑問の声も

「USA TODAY」5月24日付電子版

「Japan added to 'do not travel' list amid COVID-19 surge: What we know about Tokyo Olympics

(新型コロナウイルスの急増により、日本が“渡航制限国“リストに追加された:私たちが東京オリンピックについて知っていること)」

「The opening ceremony of the Summer Olympics is less than two months away, but plenty of questions remain about how host nation Japan will manage the large-scale event despite public health concerns amid the COVID-19 pandemic.

夏季オリンピックの開会式まで2ヶ月を切ったが、新型コロナのパンデミックによる公衆衛生上の懸念にもかかわらず、開催国である日本がこの大規模なイベントをどのように運営していくのか、多くの疑問が残っている」

このように、日本が強調する「安全・安心」な形で、無事に東京五輪・パラリンピックが開催されるか、疑問を呈する記事は少なくない。

「世界は光を必要としている。日出ずる国は最適な国」と五輪開催へのエールも

一方で予定通り五輪を開催すべきだとの立場で米国から日本への支援の必要性を指摘する記事もある。ワシントン・ポスト紙ではコラニムストHenry Olsen氏が、「世界は東京オリンピック・パラリンピックを必要としている。安全に進めることが出来るし、進めるべきだ」とのタイトルの記事で以下のように論評している。

「ワシントン・ポスト」5月26日付電子版 

「Pressure is growing for Japanese Prime Minister Yoshihide Suga to again postpone this summer’s Olympic Games in Tokyo. The games should go on as scheduled, and the world should chip in to help ensure the Japanese people stay safe as they do.

日本の菅総理には、今夏の東京オリンピックを再び延期するようにとの圧力が増している。大会は予定​通り開催されるべきであり、世界は日本国民の安全を確保するために協力すべきだ」

「This, in turn, has led the Japanese to express opposition to the Games being held on time. Polls show up to as many as 83 percent of Japanese want them canceled or postponed.

東京などに緊急事態宣言が発令されていることなどから、日本では大会が予定通りに開催されることに反対する声が高まっている。世論調査によると、最も​高い統計で83%もの日本人が大会の中止や延期を望んでいる」

「Organizers of the Games say that they can be safely held despite the surge in infections.These provisions, perhaps supplemented by limiting the number of Japanese fans allowed to watch the events, should suffice to prevent the international celebration from turning into a superspreader event.

大会主催者は、感染者が急増しているにもかかわらず、大会は安全に開催できるとしている。日本の観客数制限等の措置は、五輪が大規模な感染を引き起こすイベントになるのを防ぐのに十分だろう」

「Of course, safety should be paramount. If the world wants the burst of psychic energy the Games could provide, it should step up now to ensure that happens. First of all, this means dramatically increasing the rate of vaccination among the Japanese. Nations with vaccine surpluses must work to dramatically expand vaccine access. The United States and other countries could also reassure the Japanese by preparing plans to quickly send vaccinated and experienced medical personnel to the country if necessary.

もちろん、最優先すべきは安全。大会開催を望むのであれば、その確実な実現のために今から行動すべきだ。まずは日本人のワクチン接種率を飛躍的に高めることだ。ワクチンが余っている国々は、ワクチンの融通を大幅に拡大する必要がある。 また、米国及び各国は、日本へのワクチン接種済みの医療関係者の速やかな派遣を検討することで日本国民を安心させることが出来る」

「The world needs a ray of sunshine after the darkness of the past year. The Land of the Rising Sun is the perfect country to provide it. The world should work with the Japanese government to make sure we get the ode to joy we all need.

世界は、昨年の暗闇の後に一筋の光を必要としている。日出ずる国は、それを提供するのに最適な国。世界は日本政府と協力して、私たち全員が必要としている「歓喜の歌」を確保するべき」

「東京五輪の失敗は中国の大勝利 米国は開催支援を」との社説も

さらに、ウォールストリート・ジャーナル紙は、「東京五輪を救う方法 米は支援拡大を」と題した同紙編集委員会による社説を掲載している。

「ウォールストリート・ジャーナル」(5月28日付,電子版)

「The Tokyo Olympics will begin July 23—unless they’re canceled or delayed again overCovid-19. That’s Japan’s decision, but the U.S. can do more to help its ally.

東京五輪は、新型コロナウイルス感染症の影響で中止か再延期されない限り7月23日に開幕する。それを​決めるのは日本だが、米国は同盟国である日本のためにもっと多くの支援を提供できる」

「“President Biden supports Prime Minister Suga’s efforts to hold a safe and secure Olympic and Paralympic Games this summer,” a joint Biden-Suga statement declared in April. If Mr. Biden is serious, dropping the travel advisory would be a good start. the White House ought to offer Japan immediate help with the supply and distribution of vaccines.

バイデン大統領と菅首相が4月に出した共同声明は、「バイデン大統領は、今夏に安心で安全な五輪とパ​ラリンピックを開催するための菅総理の取組を支持する」と宣言していた。バイデン大統領が本気なら、​渡航中止勧告の撤回が良い出発点になり得る。米国は、ワクチンの供給と配布でも日本に緊急の支援を申し出るべきだ」

「Helping Tokyo is worth doing for its own sake. But it’s also worth remembering that China hosts the Winter Olympics in Beijing next year. Authoritarian states use the Games to showcase their political model, and the failure of the Tokyo Olympics would be a propaganda coup for Beijing.

日本政府への支援は、米国自体の利益にとって行う価値があるが、中国が来年の北京冬季五輪の主催国であるという事実を思い起こすことも重要。独裁主義諸国は自国の政治モデルを顕示する場として五輪を利用する。東京五輪の失敗は、中国政府にとってプロパガンダ上の大勝利となるだろう」​

「Last year’s postponement was unfortunate but inevitable when the world was still learning about Covid-19 and vaccines were months away. Holding the Olympics now would send an important message about the world moving again after more than a year of lockdowns.

昨年の大会延期決定は残念だったが、世界が依然として新型コロナの正体解明に努めていた段階で、ワクチン配布が何カ月も先の見込みだった状態では避けられないものだった。五輪を今回開催すれば、1年以上に及んだロックダウンを経て世界が再び動き出したという重要なメッセージを送ることになるだろう」

G7首脳の支持で開催機運の高揚なるか

こうしたメディアの声に加え、開催の気運高まりに欠かせないのが各国の開催支持の表明だ。菅首相は4月の対面での日米首脳会談、5月28日の日英首脳電話会談でそれぞれの首脳から東京オリ・パラの開催に支持の考えが伝えられた。そして6月11日には対面での初となる主要7カ国首脳会議=G7サミットに臨み、開催に向けた全ての首脳の支持を改めて取り付けたい考えだ。

一方の国内の状況はというと緊急事態宣言の6月20日まで延長が決まり、23日にはオリンピック開幕まで1カ月を迎え、その前には観客の上限が決められることになる。

しかし報道各社の世論調査に象徴されるように開催機運の高まりどころか延期や反対を求める声がいまだに根強い。これについて菅首相は5月28日の会見でこう述べている。

「東京オリンピック・パラリンピック大会については、多くの方々から不安や懸念の声があることは承知しています。そうした声をしっかりと受け止め、関係者と協力しながら安全安心の大会に向けて取り組みを進めております。具体策としてはまずは、来日人数削減の徹底です。当初18万人の計画が、7万8千人と半分以下に絞られており、さらに合理化を進めます。また大会に参加する選手や関係者には徹底した検査とワクチンの接種が行われます。そして宿泊先を制限し、移動は専用車両に限定をいたします。一般の国民と交わることがないようにし、悪質な違反には資格はく奪を含め徹底した行動管理を行います」

選手団も到着へ 国民の理解に向けて問われる菅首相のメッセージ

豪州の女子ソフトボール五輪代表チームの選手が群馬県で合宿を開始し、日本選手へのワクチン接種も始まった。なかでも豪州の選手たちは開会式の2日前、7月21日に福島市で行われるオープニングゲームのためにいち早く日本に入った。復興五輪のために、ある意味リスクを背負って日本に来たとも言える。その意に対し、我々は感謝を持って迎え入れるべきだろう。そして、コロナの影響で異例の“5年に1度”となったオリ・パラの舞台に夢膨らませ今後世界各国から次々とやってくる選手団についても、国民の中での大会開催についての思いは様々だとしても、温かく迎える必要があるだろう。

一方、政府が開催に向けて、いまだ停滞する国内世論を変えるのであれば、感染拡大防止策とワクチン接種の促進により安全安心な大会を確固たるものとすることはもちろん、菅首相が国民に対し、あふれる情熱を持って大会開催の意義を語り、国民へのメッセージとして伝えることが必要になる。

                       (フジテレビ政治部 千田淳一)

千田淳一
千田淳一

FNNワシントン支局長。
1974年岩手県生まれ。福島テレビ・報道番組キャスター、県政キャップ、編集長を務めた。東日本大震災の発災後には、福島第一原発事故の現地取材・報道を指揮する。
フジテレビ入社後には熊本地震を現地取材したほか、報道局政治部への配属以降は、菅官房長官担当を始め、首相官邸、自民党担当、野党キャップなどを担当する。
記者歴は25年。2022年からワシントン支局長。現在は2024年米国大統領選挙に向けた取材や、中国の影響力が強まる国際社会情勢の分析や、安全保障政策などをフィールドワークにしている。