福岡・北九州市小倉北区の映画館で、特別な上映会が開かれた。
スクリーンに映し出されるのは、話題作でも不朽の名作でもなく、35組から寄せられた家族の写真だった。
街の映画館が企画した「家族の写真展」
北九州市小倉北区で創業82年を迎える「小倉昭和館」は、地域と共に歩んできた街の映画館だ。

人々のレジャーの多様化や、大型のシネマコンプレックスの進出で、街の映画館がほとんど姿を消した今も、俳優や監督のトークショーなどさまざまな仕掛けで、映画ファンや地域とつながり続けている。
そんな昭和館が今回企画した「家族の写真展」は、コロナ禍が長引く中、写真家が主人公の作品の上映に合わせた独自の取り組みだ。

小倉昭和館館主・樋口智巳さん:
今、会いたくても会えないご家族もいらっしゃると思うんですね。ですから、この写真をご覧いただいて、思い出やご家族の歴史をあらためて色んな方に感じていただければと思っております

約50年前の写真も…呼びかけで集まった家族写真
呼びかけに応じて小倉昭和館には、約50年前の写真から、この春に撮られたスナップまで、合わせて35点が寄せられた。
北九州市内に住む藤野由香さんは、4年ほど前に鹿児島の観光名所「仙厳園」で撮った1枚を送った。

母親や離れて暮らす妹たちとの旅行は毎年恒例だったが、2019年に母親が亡くなり、コロナ感染も広がったため、その後はできていない。
藤野由香さん:
こうやって、あらためて前の写真を見ることがなくて…その時の思い出がよみがえってきて、かえってグッとくるんですよね。悲しいんですけど、思い出に、なんか浸れてよかったなって感じかな。コロナがなかったら、みんなと会えたでしょうけどね

義理の両親の金婚式の写真を送ったのは、井上友岐さん。実は2019年、昭和館の計らいで、2人のサプライズ金婚式を開いていた。

井上友岐さん:
普段は恥ずかしくて言えないことを、みんなの感謝の気持ちも、お父さんお母さんの今までの歴史も全て含めて「ありがとう」と言い合おうというので、サプライズをしました

義母・井上毬子さん:
まさか、そんなにしてもらえると思わなかったけど、子どもたちが皆でしてくれるから、それはうれしかった
特別企画に涙…「家族は宝物」
大型連休のこの日、館主の樋口さんは、特別な企画を用意していた。
それは、映画の幕あいを利用した家族写真の上映会だ。

義父・井上弘さん:
何回も涙が出た。家族は宝物ですよね、本当に

井上友岐さん:
こんな風に、どんどん笑顔であふれる家族が、ずっとつながっていってくれたらいいなと思いました
そして藤野さんは、スクリーンに流れた家族写真を動画に撮って、東京の妹に送った。

(藤野さんと妹のテレビ電話の様子)
藤野由香さん:
なんか皆に会えたらいいなと、集まれたらいいなと思いながら見てた
藤野由香さんの妹:
小倉に帰れなくなったからね。こんな時代になって
藤野由香さん:
またコロナが終わったら、家族で旅行できるように
藤野由香さんの妹:
うん、旅行に行こう
老舗の映画館がつないだ家族の時間…
コロナ禍が長引く今だからこそ、その大切さが心にしみた特別な上映会だった。
(テレビ西日本)