韓国で元慰安婦らが日本政府に損害賠償を求めた裁判で、ソウル中央地裁は4月21日、原告の訴えを却下した。主権国家は他国の裁判で被告にならないとする国際法上の主権免除の原則を認め、慰安婦問題を最終的かつ不可逆的に解決するとした2015年の日韓合意も有効と認定。

2021年1月には別の元慰安婦らによる訴訟で同じ裁判所が日本政府に賠償を命じる判決を下したが、なぜまったく逆の判断となったのか。背景に文在寅(ムンジェイン)政権の対日姿勢の変化があるのか。日韓関係の行方を徹底議論した。

3ヶ月で真逆の判決  

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新美有加キャスター:
ソウル中央地裁で、1月と今回で真逆の判決が出た2つの元慰安婦訴訟について検証します。いずれも原告は元慰安婦ら、被告は日本政府。1月の判決では認めなかった主権免除の原則を今回の判決では認め、日韓合意が救済手段として有効であるとも認定。

松川るい 参議院議員 防衛大臣政務官 内閣府大臣政務官:
やっとまともな判決が出た。1月の判決に文大統領が「当惑している」と発言をしたことも背景に、おかしいと思っていた判事たちがものを言いやすくなったのでは。

武藤正敏 元駐韓大使:
文大統領の意向も相当あっただろう。大統領発言があり、そして今回の判決の数日前に決定文が出た。国民に対して事前に雰囲気を出した結果、慰安婦団体は非常に反発しているが、韓国国内が激怒している雰囲気ではない
しかし日本政府の立場を理解しての判決では必ずしもない。反日政策は連戦連敗で、振り出しに戻らざるを得なくなったのでは

韓国政府が解決に向け動きやすくなった

新美有加キャスター:
「決定文」についてのご説明。1月の判決の原告が日本政府の韓国内の資産差し押さえを申し立てていたことについて、3月29日付で原告側に示された決定文があります。日本政府に対する訴訟費用の徴収決定は国際法に違反するという、日本側の立場に沿ったような決定をソウル中央地裁が出しています。

反町理キャスター:
この決定を、1月の判決と同じ裁判所の同じ組織が出している。

李泳釆 恵泉女学園大学大学院教授:
韓国でも当惑はある。今回の判決は何かを決定したというよりは却下。司法府が責任を取らず政治に戻した点、司法府がずるい、無責任とも言える。1月判決で初めて認められた人道的な側面が、今回の判決では保守的な一般論に戻ってしまった。

反町理キャスター:
韓国国内では、我々の考える当たり前の国際的な感覚と、国内の「人道主義」を至高とする考えの戦いがあるように聞こえるが。

松川るい 参議院議員 防衛大臣政務官 内閣府大臣政務官
松川るい 参議院議員 防衛大臣政務官 内閣府大臣政務官

松川るい 防衛大臣政務官 内閣府大臣政務官:
韓国では、ずっと司法が日韓関係を悪化させる要因を作ってきた。今回は逃げたのではなく、行政府の役割に戻すという当たり前のこと。韓国では反日について言論の自由はあまりないが、それでも今回の判事は良心と法に従って判決を出せた

反町理キャスター:
では戦いの決着はついた?

松川るい 防衛大臣政務官 内閣府大臣政務官:
そうは思わない。しかし韓国政府が解決に向けて動きやすくはなった。実際に動けるのなら、日韓間で問題収束への道を作るきっかけになるのでは。

武藤正敏 元駐韓大使:
今までは司法の判断を尊重すると言って政治が逃げてきた。韓国が国民感情ではなく国益を考えた外交に戻るならば一歩前進だが、韓国政府は日本の立場に立脚して立場を変えたわけではない。今後どうなるか。日韓関係だけではなく、日米韓の協力を視野に関係を考えていく時代。韓国も変わっていく必要がある。

韓国政府の対日姿勢は軟化傾向 背景にバイデン政権の誕生

新美有加キャスター:
韓国政府の姿勢が変化している。新年会見で文大統領は、2015年の日韓合意は政府間の公式合意だと表明。方針転換にも見えます。

松川るい 防衛大臣政務官 内閣府大臣政務官:
日韓合意ができた当時の立役者であるバイデン大統領の政権が生まれたことが背景にある。韓国は反故にしにくい。

反町理キャスター:
慰安婦問題は決着した、とまで文政権が譲歩する可能性は。

李泳釆 恵泉女学園大学大学院教授:
文政権は再交渉を望まないが、この合意では謝罪のあり方に当事者たちのOKがなかった。韓国政府の認識は当事者主義に欠けているということ。

反町理キャスター:
それは韓国政府と「元慰安婦」の皆さんの間の問題でしょう。それを後出しジャンケンというのですよ。

松川るい 防衛大臣政務官 内閣府大臣政務官:
今回文大統領が前向きな姿勢を見せ、裏付ける判決が出ているのはサイン。解決に向けてこれを使っていくべき。韓国政府からいい動きがあるなら無視はせず。

武藤正敏 元駐韓大使
武藤正敏 元駐韓大使

武藤正敏 元駐韓大使:
今までの韓国は国民感情だけ。村山談話など日本政府がきちんと謝罪してきたこと、客観的事実を韓国政府はきちんと認めていくべき。
今後日米韓の中で国益を見据えた外交をする上で、日韓の対話は始めていい。こういう問題もしれっと解決していけばいいんですよ。露骨に「解決しよう」としたらうまくいかない。

反町理キャスター:
解決したとして、政権交代した後は。韓国では、前政権からの外交的な継続性を否定するような行動が重ねられているが。

李泳釆 恵泉女学園大学大学院教授:
今まで韓国保守政権と日本の合意は結構あったが、文政権が初めてリベラルな政権として合意することは日韓関係にとって大きなことになる。

武藤正敏 元駐韓大使:
小渕首相と金大中大統領の合意があった。日本が文書で過去の謝罪と反省をきちっと書けばこの問題を二度と政府与党ベースで取り上げないというもの。
韓国で文政権のような極左政権ができるのは、革新系が韓国の民主主義を作り上げたという妄想があるから。しかし文大統領の支持率は下がっている。従来の反日は決して好ましくないという認識が少しは出てこないかと期待している。裏切られた歴史もあるが、革新政権の異常さを韓国国民が理解してくれれば。

米中間で「バランス外交」

新美有加キャスター:
最近の日本に対する韓国側の発言。文大統領は「向き合って対話する準備ができている」、米国務長官との会談でも「韓日関係の復元に向けて努力」と発言。この理由は。

武藤正敏 元駐韓大使:
北朝鮮との関係のために米朝関係が、日米韓関係が、日韓関係が大事だという流れ。ただ文大統領にとっては北朝鮮が第一だが、世論調査では韓国の国民は米韓首脳会談に新型コロナウイルスのワクチン供給の話を期待している。

李泳釆 恵泉女学園大学大学院教授:
どの国でもコロナ対策は最優先。2番目は米朝交渉の再開。3番目は日韓関係。ただ今回の米韓2プラス2でも、クアッドなどインド・太平洋構想の話はそこまでなかった。

武藤正敏 元駐韓大使:
文大統領は対中関係をすごく気にしているが、中国を恐れる必要がない環境を作るために日米韓が重要と言う認識が文大統領にない。

松川るい 防衛大臣政務官 内閣府大臣政務官:
米中間でバランスをとるのが一応彼らのバランス外交。米韓同盟は重視しており、中国一辺倒になりたいわけでもない
バイデン政権も、対中国に日米韓の同盟が大事だと言っている。韓国は小さな存在ではなく、アメリカが韓国を留めおく努力を放棄したとは思わない。

反町理キャスター:
G7の外務大臣会合が予定されており、韓国を招待する話も出ている。今のG7の国々は基本的に中国に対して非常に厳しいスタンス。呼ばれたら韓国の外務大臣は行くのか。

李泳釆 恵泉女学園大学大学院教授
李泳釆 恵泉女学園大学大学院教授

李泳釆 恵泉女学園大学大学院教授:
もともと韓国を入れる話はあり、韓国はコロナ対策の後に国際的な地位がある程度上がったという認識があるので、G7に入りたいのは当たり前。茂木外相と日韓外相会談をする機会にもなる。入ったからといって必ずしも反中国になるわけではない。

反町理キャスター:
韓国の外交部は、G7で対中連携に協調を求められるとは思っていない? 

李泳釆 恵泉女学園大学大学院教授:
G7入りについては、今の世界秩序での中でアジア太平洋の国家の一員として役割を果たす認識で見ている。国内では対中封鎖入りとしては報道されないし、そういう認識もないと思います。

処理水海洋放出「負け試合になり条件付き黙認に」

新美有加キャスター:
日本政府が今月決定した福島第一原発の処理水の海洋放出について、韓国の反応。鄭義溶(チョン・ウィヨン)外相は、IAEAの基準に適合するならあえて反対しないと述べる一方、中米諸国との外務次官会議では海洋放出の危険性に対する共同認識を盛り込んだ共同声明を採択。この一連の動きについて。

武藤正敏 元駐韓大使:
事前協議は2018年からしている。韓国の水産庁に相当する機関が危険性はないと分析結果を出している。フェイクニュースで国民世論を焚きつけたが、アメリカもIAEAも全くこれに乗らない。負け試合になり、条件付き黙認のような発言をした

松川るい 防衛大臣政務官 内閣府大臣政務官:
科学的な根拠をもって、IAEAに入ってもらいながら安全性を世界の国、特に韓国や中国に伝えていくこと。ただ処理水に限らず、大体の反日的な話については、韓国のメディアと政府が自国民に説明しないのがそもそもの問題。

BSフジLIVE「プライムニュース」4月27日放送