米中の緊張関係が続く中で行われた菅総理とバイデン大統領の日米首脳会談。バイデン大統領から対面で初の首脳会談の相手に選ばれた菅総理は、今回の訪米にどのような考えで臨み、アメリカ側はどう迎えたのか。そこには2人の女性が大きく関わっていた。

旧知のケネディ元駐日大使と朝食で事前情報収集

今回の首脳会談のテーマは、台湾情勢を含む中国問題や気候変動問題など多岐にわたっただけに、菅首相は入念に準備をして訪米に臨んだ。それはバイデン大統領との首脳会談が行われた当日の朝の動きからも伺えた。

会談の当日、菅首相が朝食の相手に選んだのはバイデン大統領に近い存在と言われるケネディ元駐日大使だった。官房長官と大使として親しい関係を築いてきたケネディ氏と朝食を取りながら、首脳会談に向けた情報収集をしていたと見られる。

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この菅首相の行動について外務省幹部からは「首脳会談が行われる朝は、だいたい外務省や総理側近らとの打ち合わせの時間にあてられるが、自ら情報を取りに行くのは菅さんらしい」との指摘が聞かれた。

「エキサイティッドだった」ハリス副大統領と70分間の会談

その後に行われたのが、政府関係者が今回の菅総理訪米の隠れた目玉だと指摘する、ハリス副大統領との会談だ。この会談はハリス副大統領側からの要請で実現した。実はハリス副大統領にとっても、この菅総理との会談が、就任後初めての対面での外国首脳との会談で、ハリス副大統領の事実上の外交デビューの舞台ともなったのだ。

この会談の重要性について外務省幹部は「バイデン大統領が自らの後継として、ハリス副大統領に外交の経験を積ませる狙いもあるのではないか」と指摘している。

実際、3月に行われた日米豪印の4カ国首脳会合でもバイデン大統領はハリス副大統領を同席させ、ハリス氏は大統領に促される形で発言もしている。これについて政府関係者は「首脳会合の場で副大統領が発言するのは異例なことで、バイデン大統領がハリス副大統領を重視している証だ。将来のハリス政権を見据えた対応との見方も出来る」と話す。

それを象徴するように菅・ハリス会談は、予定された1時間を超え、70分ほど行われたという。アメリカの外交筋によると菅首相との会談についてハリス副大統領は「エキサイティッドだった」と話すなど、興奮した様子だったという。

米誌は「アメリカの筆頭同盟国に」と表現 中国台頭で今後の日米関係は…

そしてこのハリス副大統領との会談に続いて行われた、バイデン大統領との会談。通訳のみを交えた首脳2人だけの会談の部分では、お互いの政治家としての歩みや東日本大震災後に被災地に駆けつけてくれたことへの感謝など、お互いパーソナルな話に終始し、政策の話はしなかったという。

その後の少人数会合や拡大会合でのやりとりについて同席者は、「台湾海峡を明記した共同声明が象徴するように極めて突っ込んだ、機微な話が行われた。菅総理はアジア外交の自らの考え方、日米同盟の重要性を説いていた」と話す。

また、今回の日米首脳会談に合わせ、雑誌Newsweekの英語版には、菅首相が大きく紹介された。そのタイトルは「アメリカの筆頭同盟国に 日本は中国の影の中でアメリカと特別な関係を築く」というものだ。中国の脅威が増す中、この首脳会談を機に日米同盟は新たな段階に入ったとの見方がある。その中でアメリカから一層の役割を求められる日本は、今後その真価を大きく問われることになる。

(フジテレビ政治部 千田淳一)

千田淳一
千田淳一

FNNワシントン支局長。
1974年岩手県生まれ。福島テレビ・報道番組キャスター、県政キャップ、編集長を務めた。東日本大震災の発災後には、福島第一原発事故の現地取材・報道を指揮する。
フジテレビ入社後には熊本地震を現地取材したほか、報道局政治部への配属以降は、菅官房長官担当を始め、首相官邸、自民党担当、野党キャップなどを担当する。
記者歴は25年。2022年からワシントン支局長。現在は2024年米国大統領選挙に向けた取材や、中国の影響力が強まる国際社会情勢の分析や、安全保障政策などをフィールドワークにしている。