騒乱の続くミャンマーで、ヤンゴン在住のフリージャーナリスト・北角(きたずみ)裕樹さんが逮捕・訴追された。国営テレビによると容疑は「虚偽のニュースを流した」だという。
北角さんは2月のクーデター後、抗議デモの取材・執筆活動を続けていた。逮捕後は市内の刑務所に身柄を移され現地の日本大使館は面会できていない。

北角さん「現実を知ってもらうことを最優先に」
これをうけ日本のジャーナリストや人権団体らが20日都内で記者会見を開き、早期の解放を訴えた。

会見に登壇したChoose Life Project 代表の佐治洋さんは、北角さんが拘束される前日まで連絡を取り合っていた。
「現地のジャーナリストとして北角さんにお話を伺おうと4月14日に取材を申し込みました。その際ミャンマーでジャーナリストが拘束されているというニュースがあったので、北角さんに『危険じゃないですか?』と聞いたところ、北角さんからは『むしろいろいろな方に知ってほしい。1人でも多くの人にミャンマーの現実を知ってもらうことを最優先にしたい』と連絡を受け、取材を15日に受けてくださりました」

動画は16日にアップされたが、その際に佐治さんは在日ミャンマー人が語っていた「デモクラシーが欲しい」という言葉にどんな想いがあるのか、北角さんに聞いたという。
「北角さんは『それは非常に悲痛な声だ』と。『ミャンマーの人にとってデモクラシーというのは未来に等しい』ということをおっしゃっていました」
拘束される前日の17日、佐治さんが「動画が10万回再生されています」と伝えると、北角さんから「非常にありがたい話だ」との返信があり、それが拘束前の最後のやりとりとなった。
「表現の自由を求め、北角氏の即時釈放を」
日本ペンクラブは国際ペンクラブと共同で「ミャンマーにおける表現の自由を求め、日本のジャーナリスト、北角裕樹氏の即時釈放を強く求める」との声明を発表した。

会見で日本ペンクラブの吉岡忍会長は「アウン・サン・スー・チーさんは日本ペンクラブのゲスト会員として迎えている。国際ペンクラブではミャンマーの作家を理事に推薦するなど、ミャンマーの民主化を国際的に支えていこうとしていた」と語った。
声明の中では軍に対して「我々は表現の自由を求め、国内外のジャーナリストや記者の保護を求める」と訴えたうえで、日本政府と国際社会に対して北角氏の安全を確保するために直ちに行動をとるよう求めた。
「日本とミャンマーの経済的な関係は深まってきた。経済活動をするときに人権、表現や言論の自由を無視して経済活動が成り立たないことを自覚して、政府だけでなく経済界もミャンマーに対して強い対応をとることを求めたい」(吉岡氏)

「日本政府は十分な圧力をかけていない」
国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチの日本代表で弁護士の土井香苗さんは、「平和的な表現をしていた方に対するこうした行動は許されることでない。よって無条件に解放されるのが当然だし、日本政府が最大限の力を尽くすべきです」と語った。
土井さんは「日本政府がミャンマーに対して十分な圧力をかけているとは思えない」と指摘する。
「欧米諸国は個人、企業、グループに対する対象限定型制裁、例えば金融制裁、ビザ制裁を行っていますが日本はやっていません。日本の立ち位置は中国に近いと国際的に指摘されています。人権侵害に対して制裁を科す枠組みをG7で導入していないのは日本だけです」(土井さん)
「ミャンマーの人たちを応援してほしい」
北角さんはChoose Life Projectの配信動画の中で「ミャンマーの人は起こっていることを世界に知ってもらえているのか、関心を持ってもらえているのかを非常に気にしています。なのでそういう人たちを応援してほしいと思っています」と語っている。

「たとえば日本で在日ミャンマー人が街頭ででも活動をしていると思います。ただその方たちは日本人が足を止めて話を聞く人があまりにも少ないために非常に悲しい思いをしていると聞いています。ほんの立ち話をして聞いてくれるだけでもいいです。ビラを受け取る、頑張ってねと声をかける、それだけでもいいと思います。そういうような思いをしている人を支援してくれればそれだけで本当に意味があることだと思います」(北角さん)
北角さん釈放まで世界に発信し続ける
北角さんは有罪になれば、最高で禁錮3年が科される可能性があり、拘束が長期化するおそれもある。
「いま伝えないと無かったことになる。伝えることが記者の仕事だと北角さんから感じた。メッセージを発信し続けることが必要です」(佐治さん)
筆者は北角さんにお会いしたことはない。しかし北角さんの釈放まで世界に向けて発信し続けることが、日本のジャーナリストの使命だと考える。
【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】