トリチウム 基準濃度の40分の1に

東京電力福島第1原発で増え続ける放射性物質トリチウムを含む処理水について、政府は濃度を薄めたうえで、海へ放出する方針を決定した。

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菅首相:
ALPS処理水の処分は、福島第1原発の廃炉を進めるにあたって避けては通れない課題。処理水の安全性を確実に確保するとともに、風評払拭に向けてあらゆる対策を行っていく。

放出にあたっては、トリチウムの濃度を国の排出基準の40分の1程度、WHO(世界保健機関)が示す飲料水の基準の7分の1程度に薄めるとしている。

今回の決定に漁業関係者は・・・

福島・いわき市:
薄めて流すと言っているが、それが100%安全だという保証はない

岩手・陸前高田市:
大丈夫ですと言われても、とにかく流さないでほしいのが一番

宮城・石巻市:
風評被害が必ず出るので、また10年、20年、生活が成り立っていかなくなるし、死活問題にもなる

福島知事は6分で席立つ

こうした中、梶山経済産業相は福島県を訪れ、内堀知事と面会。理解を求めたが...。

梶山経産相:
重大な決断でありますけども、福島の復興を前に進めるためには不可欠なものだと考えております

福島県・内堀知事:
この処理水の問題は福島県の復興にとって重く、また困難な課題であります

知事は30秒ほどで発言を終え、席をあとに。

面会は、わずか6分で終了した。

海外からは賛否の声

処理水の海洋放出について、海外からはさまざまな声が。

韓国では、環境団体が海洋放出撤回を訴え、抗議。

トリチウムは、韓国の原発からも年間数百兆ベクレルが放出されているが、韓国政府は「周辺国家の安全と海洋環境に危険を招くもので、わが国と十分な協議や了承がない一方的な措置だ。絶対に容認できない」としている。

中国外務省の趙立堅報道官は、「日本の隣国、利害関係者として、中国はこれに対して重大な懸念を表明する」と述べた。

一方、アメリカ国務省は、「日本は透明性を確保し、世界的な原子力の安全基準に従った手法を採用したようだ」と評価。

IAEA(国際原子力機関)は、国際的に実施されている手法に沿っていると日本の決定を支持した。

東日本大震災から10年で下した政府の決断。

処理水の放出は2年後をめどに始め、30年から40年続く見通しで、政府は理解が得られるよう引き続き対話を進めていく方針だ。

中韓は政治的な批判の道具にしている

三田友梨佳キャスター:
このニュースについては哲学者で津田塾大学教授の萱野稔人さんに聞きます。処理水の海洋放出についてどうご覧になりますか?

津田塾大学・萱野稔人教授:
中国や韓国の懸念を見ると私たち自身が科学的根拠に基づいた冷静な議論をすることがいかに大切なのかということがわかりますね。

というのも、中国も韓国もトリチウムを含む処理水を海洋放出しているからなんです。中国や韓国は日本がこの件で周辺国の同意を得ていないと反発していますが、中国も韓国もそもそも日本の同意を得ずに処理水を海洋放出しています。

さらに言えば日本の海洋放出の基準は海外の飲料水の基準よりも厳しいくらいです。つまり中国や韓国の懸念というのは日本を批判するための議論なんです。

そうした議論に惑わされないためにも私たちには科学的根拠に基づいた冷静な議論が必要になると思います。

三田キャスター:
一方で、今回の決定に対して国内に目を向けた時にはどのようなことを思われますか?

萱野稔人教授:
科学的根拠に基づいた冷静な議論が必要なのは、それがないと風評被害を拡大させてしまうからなんです。

例えば政権に対する批判のための批判に留まるのであれば、それは人々の批判をいたずらに煽るだけであって風評被害を拡大させかねません。

もし風評被害を心配するのであれば、いかにその風評が科学的根拠に基づかないものであるかを同時に示すべきだと思います。

三田キャスター:
漁業関係者をはじめとする皆さんの懸念に対してはどう向き合うべきだとお考えですか?

萱野稔人教授:
風評被害を煽るような批判に対しては、政府は毅然と反論してもいいのではと思います。

海洋放出は長期に渡りますので、厳しい基準が今後しっかり守られていくのか、透明性の確保が最も必要になってくると思います。

三田キャスター:
大阪の吉村知事は大阪湾での放出についても要請があれば真摯に検討していきたいと話していました。
国際的な取り決めなどで実際には難しいのかもしれませんが、これまで福島のみなさんが被ってきた風評の辛さを思うと、この問題については日本全国で考えていくべきことのように感じます。

(「Live News α」4月13日放送分)