医療従事者の接種が進められてきた新型コロナウイルスワクチン。2021年4月12日からは、高齢者を対象に一部の市町村で始まり 、今後は高齢者以外の世代にも広がっていく予定だ。

国民のワクチン接種を控え、河野規制改革担当大臣は3月14日の自身のインターネット番組で「ワクチンに関しては、情報をしっかり集めてもらい、1人でも多くの方に打っていただきたい」というメッセージを発信すると同時に、現役世代が「ワクチン接種のための休暇」や「副反応が出たときの休暇」を取得できるよう、経済界に働きかけていく考えを示した。

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ワクチン接種が具体的に進み始めている今、企業の動きはどうなっているのだろうか。海外の事例を踏まえつつ、国内のワクチン休暇の現状を追いかけた。

アメリカの大手企業は接種日に「時間単位の有休」を提供

日本よりもはるかにワクチン接種が進んでいるアメリカでは、大手企業がサポートの動きを見せた。アメリカ各地をつなぐ長距離鉄道・アムトラックでは、約1万7000人の従業員全員に接種1回につき2時間分(接種2回で計4時間分)の給料を支払う制度を導入。さらに、接種後に体調の変化があった場合は、48時間の有給休暇の取得も可能にした。

アメリカのマクドナルドでは、接種日に4時間の有給休暇を提供。大手スーパーのターゲットでは、接種1回につき2時間分の給与と交通費を支給するなど、社会全体でワクチン接種を推進しようというマインドが見られた。

そして日本にも、ワクチン休暇の導入を発表している企業がある。各企業の担当者に、制度導入の経緯と思いを聞いた。

「終日でも2時間でもOK」臨機応変な有給休暇を導入

大阪でインキの製造や印刷技術の開発を行う久保井インキは、3月12日に新型コロナウイルスワクチン接種のための特別有給休暇を従業員に付与することを発表した。

久保井インキの制度内容
●接種日に特別有給休暇を付与
●接種を受けた従業員に新型コロナウイルスワクチン接種奨励金として1万円を支給

久保井インキ
久保井インキ

代表取締役社長の久保井伸輔さんに話を聞くと、制度化の検討を始めたのは2月頃だったという。

「当社にはドナー休暇や裁判員休暇などがあるのですが、公益性の高い事柄に関して特別有給休暇を提供するという文化が根付いています。今回のワクチン接種は、1人ひとりの健康管理の次元を超えた社会全体の課題であると捉え、休暇の導入を決定しました」(久保井さん)

今回の特別有給休暇は、必ずしも丸1日の休暇とは定めていないそう。接種にかかる時間や副反応が出るタイミングなどが明確になっていないため、制度に柔軟性を持たせている。

「当初は接種に1日かかるだろうと想定していましたが、議論を重ねるなかで、自宅と職場が近い従業員であれば、半日または時間単位の休暇で足りるかもしれないという話になったのです。実際に接種が始まってからも、臨機応変に対応しようと考えています」(久保井さん)

久保井インキ
久保井インキ

従業員からは、「ワクチン休暇があれば、混みそうな土日を避けて、平日に行けるからありがたい」という声が届いているとのこと。

また、久保井さんは、「奨励金を出すことで、ワクチン接種に二の足を踏んでいる従業員の背中を押せたら」という思いも聞かせてくれた。ワクチン接種は決して強制ではないが、従業員の意識が変わることで、社会への働きかけにつながるのではないかと考えているのだ。

「ワクチン接種のような対策は、1人がやっても大きな成果は出せないので、可能な限り周りを巻き込み、輪を広げることが重要だと感じています。当社は三十数名の小さな会社ですが、率先して動く姿を見せて、日本中の会社が同じような制度を設けることにつなげることができたら、非常にうれしいですね」

制度内容を“共有”してワクチン休暇の輪を広げたい

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オンラインマーケティング支援事業を展開する東京の企業、エキストラでは3月14日の河野大臣の発言を受けて、すぐにワクチン休暇を企画し、17日には導入を発表した。

「当社代表の角本拓也の『ワクチン休暇を作るぞ』のひと言で企画に取り掛かり、制度内容を吟味しました。ワクチン接種が進んでいるアメリカの制度やガイドラインを調べたところ、副反応が出た時に雇用主が従業員をサポートするよう勧めており、それに応える会社が多かったので、当社でも副反応に対応する休暇を設定しています」(エキストラ経営企画室・飯塚彩乃さん)

エキストラの制度内容
●接種日に特別有給休暇+医療機関・接種会場までの交通費を支給
●副反応が出た場合、5日間までは特別有給休暇として支給(期間は症状によって要相談)
●フルコミット業務委託メンバーにも無期雇用社員と同等の手当を支給

制度の企画を担当した飯塚さんは、「風邪の症状のような副反応が出ることを想定し、その場合は無理せず休んでほしいと考えました」と話す。副反応がどの程度の割合で起こるかわからないからこそ、そのための休暇を用意することで、従業員の安心感につなげたのだ。

社内の様子(提供:エキストラ)
社内の様子(提供:エキストラ)

「当社のメンバーから、『うちのコーポレートはやっぱり強い』というコメントをもらいました。新型コロナウイルスやワクチンに対する不安を抱えながら仕事をするのは、負担が大きいですよね。私達は、“会社として制度を用意するから安心して働いてほしい”という思いで制度内容を考えています」

エキストラでは、ワクチン休暇の導入を発表したリリースに、運用ルールも記載している。

ワクチン休暇運用ルール
(1)接種券が届いたら一緒に業務をするメンバーに届いた旨を報告して接種の予約を入れる。(予約後の報告では、接種する週がメンバーと被ってしまう可能性があるため)
(2)予約日が確定したら改めて上記と同様のメンバーに報告する。
(3)接種日は必ずカレンダーに登録しメンバーに共有する。
(4)接種する前日に、自分の業務の引継ぎや注意事項などは予め代理者に共有しておく。(ミーティングを開くなど)
(5)業務委託メンバーが接種する場合は、代表に接種日を報告するのみで良い。

「当社ではもともと病院などに行く際、チームのメンバーに共有して業務を引き継げば、休暇扱いにしなくてもいいという制度があるので、社内ではごく当たり前のルールなのですが、あえて対外的に発信することで、モデルの1つになれたらと考えました。制度内容や運用ルールを見て、『これならうちでもできるじゃん』と思ってくれる会社が増えたらうれしいですね」(飯塚さん)

飯塚さんは最後に、「ワクチン休暇の導入は、従業員の安心だけでなく、社会へのポジティブな影響も期待したもの。微力ながらワクチン接種を進めることで、医療機関のサポートにつなげられたらと思っています」と、話してくれた。

現役世代は副反応のことを考えると、休日に接種する人が増えてしまうだろう。ワクチン接種時は、勤めている会社の制度もチェックし、ワクチン休暇が導入されたら活用したいもの。密を避けた接種ができれば、家族や同僚の安心にもつながるはずだ。

取材・文=有竹亮介(verb)

プライムオンライン編集部
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