強力な砂塵に襲われたコンテナ船

強大なコンテナ船の緑色の船体が座礁し、運河を塞いだ。上空からの写真を見ると、狭い運河の中に一列に並んだ船が行き場を失い立ち往生している光景が移る。まさに数珠つなぎである。

(画像:PLANETLABS INC.)
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座礁したコンテナ船は、台湾企業・長栄海運が運航する「エバーギブン」(パナマ船籍・22万4000トン、全長400メートル、幅59メートル)。シナイ半島周辺に見られる強力な砂塵が「エバーギブン」を襲い、突風に船体をおされ運河の岸辺に押し寄せられ座礁したのだ。

座礁したコンテナ船「エバーギブン」

運河の通行時、船は低速で進むため舵が効き難く、船体をコントロールすることができなかったようだ。スエズ運河の管理体制は厳格であり、近年このような大規模事故は発生していない。積み荷のコンテナが崩れず、燃料油の漏れも報告されていないことは不幸中の幸いであり、通行再開までには長くはかからないだろう。

世界的な交通の要衝

スエズ運河は、全長約190キロ。地中海と紅海の間に人工的に航路を作りつないでいる。アジアとヨーロッパを結ぶ世界的な交通の要衝であり、ヨーロッパ諸国の生命線である。中東諸国からは石油と液化天然ガス、アジア諸国からは食料品や日用品、日本からは自動車と精密機械類を積んだ貨物船などが、年間1万8千隻ほど通行している。

中国を出発してオランダに向かう予定だった「エバーギブン」の予定航路

アラビア湾とロンドンを結ぶ距離は、スエズ運河を通行すると約12,000キロ。スエズ運河が通過できない場合には、アフリカ大陸南端の喜望峰を経由するため約21,000キロとなり、倍近い時間とコストが掛かる。新型コロナ禍で深刻な経済悪化状態にあるヨーロッパ諸国にとっては、一日も早い復旧が望まれる。

ヨーロッパ諸国にとってスエズ運河は生命線

日本への影響は欧州向け日本車の輸出の運搬になるが、数日間の遅延は大規模な損失になることは無く、日本経済への直接的な影響は少ない。とは言え、グローバル化された社会の中で、間接的な影響ははかりしえないだろう。

通行料の値上げ要求強まるか

この運河を管理するのは、エジプト政府直轄のスエズ運河庁であり、通行料収入はエジプト政府の重要な財源でもある。2018年のスエズ運河通行料による収入は約57億ドルで、エジプトのGDP全体の約2.5%を占めている。

各国の船会社は、今回の事故を契機に通行料の値上げを求められることを恐れている。日本の船会社は、年間約1,100隻をこの海峡を通過させているが、その合計額は約400億円に上る。エジプト政府としては、近年、船舶の大型化が進み通航船舶数の増加も頭打ちになっていることから、通行料の改定を望んでいた。今回、大型貨物船が起こした事故は、運河の管理の難しさを示し、それに見合った金額の要求に結び付く可能性が高い。

バルバスバウが砂地に突き刺さったように見える

事故の被害額

この「エバーギブン」は、日本の船会社「正栄汽船」(愛媛・今治市)が実質的に所有するものだが、建造当初から海運企業に長期に傭船することになっていた。長栄海運の英語での名称は、「エバーグリーン・マリン」であり、船名は英語社名に由来している。この事故の被害額は、数100億ドルと考えらえるが、事故の責任は船主に求められるが、傭船契約により運航会社が対処するのが一般的である。

前述のように、日本への直接的な影響は少ないが、ヨーロッパで使われる原油の多くがこのスエズ運河を通過するため、影響が長引けば欧州での原油価格の高騰が懸念される。ヨーロッパ経済に悪影響が出る前に、早急の普及が求められる。

【執筆:海洋経済学者 山田吉彦】

山田吉彦
山田吉彦


東海大学海洋学部教授、博士(経済学)、1962年生。専門は、海洋政策、海洋経済学、海洋安全保障など。1986年、学習院大学を卒業後、金融機関を経て、1991年、日本船舶振興会(現日本財団)に勤務。海洋船舶部長、海洋グループ長などを歴任。勤務の傍ら埼玉大学大学院経済科学研究科博士課程修了。海洋コメンテーター。2008年より現職。

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