被爆体験を英語に

盈進(えいしん)中学高校ヒューマンライツ部 部長・馬屋原瑠美さん;
この訳だったら、「死の川」…は、元々「死の川」だったみたい。wasだったら、そうなる。元々は普通の川だったけど、(原爆によって)チェンジ、変わったっていうニュアンスにした方が良いかな…。

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福山市にある盈進中学高校のヒューマンライツ部が、被爆体験を英訳する作業を進めている。
体験の証言者は、広島県原爆被害者団体協議会の理事長・坪井直(すなお)さん。

坪井直さん;(2016年の講演)
指と指の間から腸が出かかっとる。そんなのは皆さんが見たら先にびっくりする。倒れるよ。今の人はそんな目にあったこと無いから。我々はそういうところばかりを見てきた。

坪井さんは、当時20歳だった1945年8月6日、爆心地からおよそ1キロの広島市中区で被爆。大やけどの身体で焼け野原を逃げ回り、何度も生死の境をさまよった。

坪井直さん;
こういうことがあったという事実はしっかりと伝えないといけない。我々も大きなことはできないが、原爆とは少なくともこんなものらしいぞとか諦めたらいかん。ネバーギブアップ!

出版そしてネット配信も

国内外で、長年にわたり核兵器廃絶を訴えてきた坪井さんの被爆体験や半生を、2016年に生徒たちが取材し、翌年に冊子「にんげん坪井直」にまとめた。

盈進中学高校ヒューマンライツ部 部長・馬屋原瑠美さん;
先輩方の思いや、被爆者が年々少なくなっている現状もあるという中で、私たち若者が何か記録などを継承していかなければという思いに駆られて…。

広島だけでなく、世界中の人に原爆の悲惨さを広く知ってほしいと生徒たちは動きました。
京都外国語大学に事務局を置き、被爆者の証言を多言語に翻訳している団体・NET-GTASと共に冊子を英訳、さらには、本として出版しようと計画している。

NET-GTAS 京都外大・早瀬明講師;
広島の方であれば当たり前で、説明する必要もないんじゃないかという事柄でも、海外の人々にとっては全然わからないことがたくさんありますので、そういう事もちゃんと説明しておく必要がある。

NET-GTAS 阿比留高広事務局長;
ターゲットですよね。誰に読んでほしいか、誰に向けて出版するか。共通認識を。

盈進中学高校ヒューマンライツ部 部長・馬屋原瑠美さん;
戦争自体を知らない世代が多くなってくると思うので、ターゲットは、若者。…もちろん幅広い世代の人に読んでもらいたいんですけど、特に私たちの年齢もしくは中学生にも読んでもらいたいので。

どんな人に読んで欲しいか、どうやって発信すべきか。
人生をかけて被爆体験を語ってきた坪井さんや自分たちの思いを伝えるために、様々な世代が一緒になって考え、話し合う…。議論は、4時間近く続いた。

NET-GTASメンバー 花垣ルミさん;(自身も被爆者)
若い年代、孫・ひ孫の年代が頑張ってくれているというのは、私はすごく嬉しくって。歴史はこれから始まるなっていう風に(感じる)。

2019年秋の出版を目標にするほか、本だけでなくインターネットでの配信もすることに。
今後は、メールなどで連絡をとりながら英訳を進めていくことに。

盈進中学高校ヒューマンライツ部 部長・馬屋原瑠美さん;
1回ここで、お互いが同じ方向を向けて進めることが出来たのかなと思って。

思いのニュアンスを丁寧に確認

英訳作業を進める馬屋原瑠美さんと、ヒューマンライツ部の部員たち。
坪井さんの言葉のニュアンスを、英語でどう表現するか…。

「どう訳したらいいと思う?」「“アメリカの野郎“…」
「これすごい日本的表現よな」
「変に『アメリカのバカ』みたいな意味にしちゃうと弱くなっちゃうし。そういう意味で言ってる訳でもないから。

坪井さんが何を伝えたいのか、1つ1つしっかりと向き合いながら英訳していきます。

「(海へ、人が…というのは)落とされたか、自分から自ら落ちたのか」
「力つきたのか…」

英訳を進める中で参考となるのは、2017年に作った冊子と証言を録音したデータしかない。

盈進中学高校ヒューマンライツ部 1年生 酒見知花さん;
その場にいて、坪井先生の表情とかそういうものから感じ取る部分もあると思うんですよ。
そういう意味で(坪井さんと対面していないので)、ニュアンスが分からなかったりとか。

坪井さんは現在94歳。
体調不良で療養しているため、なかなか外出することが出来ず、電話での聞き取りとなった。

盈進中学高校ヒューマンライツ部 部長・馬屋原瑠美さん;(電話)
もしもし、盈進中学高等学校の馬屋原です。

被爆当時の惨状を、坪井さんに確かめます。

盈進中学高校ヒューマンライツ部 部長・馬屋原瑠美さん;(電話)
焦って海に落ちた人っていうのは、自ら海に飛び込んだのか、息尽きて落ちたのか、足を滑ってとか…?

坪井直さん;(電話)
滑ったそんなのもおりますよ。要するに、この船に乗れば助かるんだというような気持ちで行ったときに、腕力・気力、そこまで足が届くか届かないか、色んな事情でね。私がね、手を貸してやることが出来なかったのが残念でならない。

若い世代に伝えたい…だんだん坪井さんの話にも力がこもり、気が付けば30分以上が経っていた。

坪井直さん;(電話)
あなたが聞いてくれるから、元気が出だした。声が良くなったろう。あなたがたの世界を作らないといけない。私たちよりもよっぽど…重いものを持ち上げよる。

坪井さんの熱い思いを、部長の馬屋原さんもしっかりと受け止めた。

盈進中学高校ヒューマンライツ部 部長・馬屋原瑠美さん;
すごくうれしくて。是非、今年私が部長の時にこの冊子を完成して、もっと世界の人に読んでもらいたいなと思いました。

若い世代としてのアプローチで

7月28日。最高気温32度を超える暑さの中、広島市内に生徒たちの姿があった。
核兵器廃絶をめざす署名活動だ。

盈進中学高校ヒューマンライツ部 部長・馬屋原瑠美さん;(署名してくれた海外の人に、英語で)
この署名は国連に届けられるかもしれません。

2019年8月6日で、原爆投下から74年。
被爆証言の英訳を通して感じた坪井さんの思いを胸に、いま出来る行動で、「自分の意志」そして「平和へのメッセージ」を伝えていく。

盈進中学高校ヒューマンライツ部 部長・馬屋原瑠美さん;
この署名活動も、被爆者が生きているうちに核廃絶を達成したいと思っていますし、色んな方面からアプローチしていくことが大事。その主体は、必ず若者がしていかなければならないと思っています。

(テレビ新広島)

FNN.jpプライムオンラインでは、8月6日(火) 8:00頃から、
平和記念式典(広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式)の様子を以下のURLにて配信予定です。

https://www.fnn.jp/live/1

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