緊迫の解剖現場 監察医という仕事

死因不明の遺体を解剖し、謎をとく。ドラマ「監察医 朝顔」で描かれ注目を集める法医学者。そのリアルな姿に、再びMr.サンデーのカメラが迫った。

東京都狛江市にある東京慈恵会医科大学附属 第三病院。この敷地内に解剖棟は佇んでいる。法医学者、柗本紗里(まつもと さり)38歳。

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年間800件以上、国内の大学で最多の解剖を行う法医学講座において、柗本は年間300件ほどの解剖と向き合っている。

柗本先生:
今日の方は、元々ご持病があって、そのご持病が悪化した疑いなんですけれども、外表だけでは死因が分からないので、解剖して正式な死因を決めようという解剖になります。

解剖室の出入り口は、二重扉。空気が外に出ない陰圧室となっている。中に入ると、そこには多くの医学生の姿があった。

柗本先生:
執刀の柗本です。よろしくお願いします。ぜひ積極的に見たり、解剖中でも構わないので、声をかけて質問するようにしてください。

解剖の見学実習。法医学者は教育者としての顔も持つ。ここで、引率の高須先生から学生に注意事項が告げられた。

高須先生:
基本的に手は前で組んでもらえればと思います。ゴーグルとかマスクとか、帽子も触らないで欲しくて。

どんな病気にかかっているか分からないご遺体。その血液や体液が、解剖室内のどこかに付着するかもしれない。解剖スタッフ以外、ものに触れることさえ許されない。

柗本先生:
では解剖始めます。時間が12時49分です。

解剖が始まり遺体の胸を開くと、異変に目がとまる。

柗本先生:
あれなんなんだろうな。ここから病理ってとれますか?

補助スタッフ:
大丈夫です。ここをうまく真ん中にして。

開始からおよそ1時間…

柗本先生:
解剖終わります。解剖の所見なんですけれども、かなり脱水が進んでいて、ご飯も食べてなさそうで、具合が悪かったんだろうなと思うんですが、それの原因になるようなご病気やお怪我というものが解剖所見上は見つかりませんでした。肉眼では決定できないから、病理の検査と血液生化学、アルコールとか薬物とか、全部の検査を合わせて判断していくというかたちになりますね。

所見だけでは死因の確定には至らず、胸の組織を採取し後日、顕微鏡検査を行うことになった。解剖だけで全てが分かるわけではない。数カ月、検査を重ね、死因を特定していくという。

取材ディレクター:
心臓とか糖尿病とか、一部分に限らず全ての病気に精通していないといけないんですね。

柗本先生:
そうですね。少なくとも死因につながるようなご病気は把握していないといけないですね。うーん、かなり幅広いですね。

どんな遺体と向き合っても顔色一つ変えない…そんな柗本が休日に見せる、母親の顔とは。

思わぬ“弱点”も? 女性監察医の日常

最愛の息子、蒼太くんは現在1歳半。料理で腕をふるうのは、同居している母だ。働きながらの子育ては、母の理解があってこそ。

自宅に医師がいる。それは、小さな子供がいる家庭にとってさぞ安心だろうと思いきや…

柗本先生の母:
ちび(蒼太くん)なんか熱出たら慌てるもんね。

柗本先生:
亡くなる病気しか知らないから、普通の風邪って言われても何すれば良いんだろうって。

根っからの法医学者なのだ。そんな柗本が見事な観察眼で、死因を特定したケースがあった。

たった2日で急死した30代男性の死因とは

柗本先生:
30代の本当に健康だった男性が、具合が悪くなって2日ぐらいで亡くなってしまった症例があります。

健康そのものだった30代の男性が風邪に似た症状を示すやいなや、わずか2日で死に至った。一体、何があったのか?

目に付く外傷といえば、足のすねにある打ち身のようなあざだけだった。

しかし、解剖を進めると柗本はある異変に気づく。

柗本先生:
臓器が柔らかすぎる…。

その時、柗本の頭にある可能性が浮かび上がった。それは…

柗本先生:
劇症型溶連菌感染症を疑いました。いわゆる“人食いバクテリア”の一つですね。

人食いバクテリア、正式名称「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」。その原因菌とは。

柗本先生:
子供の喉風邪の原因になる菌なんですけども、大体子供の20%くらいが持ってると言われてる資料もあります。

そんな、日常生活のどこにでもいる菌が傷口などから体内に侵入すると、ごくまれに重症化し、体の組織を破壊していくことがあるという。

しかも菌が血流に乗って広がることで、短時間に多臓器不全を引き起こすことから、またの名を“人食いバクテリア”と呼ばれている。つまり、すねのあざは細菌による壊死だったことを柗本は即座に見抜いたのだ。

なぜ突然死んだのか?その答えがわかるだけで、遺族が救われることもある。

柗本先生:
この方にとっても、ご家族にとっても良いのかなと思うので…。せっかく解剖したんだから、何かしら結果は返してあげたいですよね。

そこに「謎の死因」がある限り、今日も法医学者は遺体と向き合い続ける。

(「Mr.サンデー」3月7日放送分より)