東日本大震災の発生からまもなく10年。

被害が大きかった宮城県石巻市で、当時の被災状況などを車に乗りながら音声で学ぶことができるカーナビのサービスがある。

半日コースを選択したナビ画面(提供:日本カーシェアリング協会)
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同市にある日本カーシェアリング協会が提供する「語り部ナビ」だ。

協会が貸し出すレンタカーに、東日本大震災の記憶や石巻の郷土、歴史について音声案内しながらルートを紹介するカーナビを搭載。

まるで、語り部から実際に話を聞いているような感覚を味わうことができるカーナビで、コースは1日コース・半日コース・大川コース・南浜コースの4種類。東日本大震災から丸10年を前に、震災を風化させない取り組みとして提供を開始した。

提供:日本カーシェアリング協会

被災地を巡ることで、震災の恐ろしさなどに理解を深めることには意義がある。「語り部ナビ」の開発の経緯や実際にどのような案内があるのか、日本カーシェアリング協会の担当者に話を聞いた。

より多くのことを知ってもらうために何かできないか

ーー「語り部ナビ」を開発したきっかけを教えて

震災から10年という節目を前に、私たちのレンタカーの利用を通じてより震災のことを学べるツールを作りたいと思い企画が始まりました。

以前から「大川小学校跡地に行きたい」という理由で車を借りてくださる方はいらっしゃいました。ですので、そういった方に遺構に行って、見て、帰ってくるだけではなく(もちろんそれにも意味はありますが)、より多くのことを知ってもらうために何かできないかという問題意識がありました。

その中で愛知県のアイシンAWという会社の「観光ナビ」というシステムが非常に震災伝承と相性がいいと感じ、協力していただきプロジェクトがスタートしました。

大川小学校跡地(提供:日本カーシェアリング協会)

ーーいつからレンタルを開始したの?

企画は2020年1月から開始しましたが、コロナウイルスの感染状況を見て一旦凍結しました。夏ごろからGoToなど人の行き来が再開してきたのを機にプロジェクトを再開し、2020年10月にサービスを開始しました。


ーーどうやって利用するの?

レンタカーに語り部ナビアプリがインストールされたタブレットを設置します。ご利用いただく方は事前に4つのルートから行きたいコースを選んでいただきます。

レンタカー営業所を出発してからはタブレットがルート案内をしながら、道中、震災の記憶について音声や写真でガイドしてくれます。出発後ご利用者に何か特別操作していただくことはありません。

提供:日本カーシェアリング協会

ーー4コースを詳しく教えて

・1日コース 所要時間6時間
協会→大川小学校跡地→雄勝病院跡地→雄勝観光物産交流館→波板ラボ→シーパルピア女川→南浜(頑張ろう石巻看板)→日和山→いしのまき元気いちば→協会

・半日コース 所要時間4時間
協会→大川小学校跡地→南浜→日和山→いしのまき元気いちば→協会

・大川コース 所要時間2時間
協会→大川小学校跡地→協会

・南浜コース 所要時間2時間
協会→南浜→日和山→協会

コース選択画面(提供:日本カーシェアリング協会)

ーーおすすめのコースはどれ?

一番情報量が多い1日コースを走っていただきたいと思います。石巻と女川の復興の歩みの違いなども感じることができます。

1日コースを選択したナビ画面(提供:日本カーシェアリング協会)

ーー料金を教えて

レンタカー料金に+1,000円(税込)でご利用いただけます。ナビ利用者は、レンタカー代金は通常料金から3割引きになります。

2月末から自家用車で被災地を回りたいという方向けに、ナビ単独の貸出が開始予定です。その場合は2,000円で語り部ナビがインストールされたナビをお貸し出し致します。その際も同様に事前予約が必要です。

“語り部”として伝える具体的な内容

ーー実際にどのような案内があるの?

例えば、走行中に以下の説明が流れます。

・三陸道を走行中の説明
「三陸自動車道を降りますと、みちの駅かほく・上品の郷があります。東日本大震災直後には、被災者を受け入れ、一時施設内にある温泉ふたごの湯を被災した方に無償で開放しました」

・北上川の説明
「左前方から津波が川をさかのぼり、今走っているこの堤防道路を決壊させ、右手へどんどん津波が流れていきました」

・雄勝町の説明
「震災当時、雄勝小学校の屋上には津波で流されてきた住宅がそのままの形で乗っていました。しかし、津波で学校が全壊したにもかかわらず、小中学校では誰一人津波で亡くなっていません。」

北上川の説明時(提供:日本カーシェアリング協会)

ーー開発で大変だったことはある?

復興工事が今でも続いており、前日まで通れていた道が次の日通れなくなったりするので、道路情報をこまめにチェックして修正しなければならなかったことは大変でした。(今もチェックしてます)

また、利用者がストレスなく運転できるよう、ナビに発話させる音声の分量や間隔の調整には気を使いました。

さらに、発話内容を漢字で入力しておくと読み間違いが多々発生するので、(北上川「きたかみがわ」を「ほくじょうがわ」と読むなど)そういったところも、都度ひらがなに直して読み間違いがないようにするなど、細かい修正も行いました。
 

ーーこだわった部分はどこ?

発話内容は実際に石巻市内で活動している語り部さんの言葉がもとになっています。ルートを決めた後、語り部さんに助手席に座っていただき、実際のルートを走りながら語り部をしていただいたものを録音し、それを文字おこししたものをナビに発話させています。
(※聞きにくい部分は修正したり、加筆した部分もあるため語り部さんの言葉を100%忠実に再現した訳ではありません。)

また、語り部の内容も極力事実を淡々と伝えるように心がけていただきました。これは、学校批判など特定の思想を植え付けたくなく、客観的な事実を聞いたうえでそれぞれの感想を持っていただきたいと思ったからです。

それ以外にも震災のことだけでなく震災前の石巻の地域の話や写真も加えており、震災の前と後を知ることが出来るのもオススメポイントです。

新たに設置された防潮堤(提供:日本カーシェアリング協会)

ーーナビを利用する際の最適な速度はある?

当然ですが、法定速度を守って運転していただくことが望ましいです。速度超過してしまうと発話内容が終わる前に次の発音ポイントに到達してしまい、全ての内容を聞くことが出来なくなる可能性があります。
(レンタカー車両には制限速度を守りますというマグネットを貼って追い越してもらえるようにしています。)


ーー「語り部ナビ」が完成した時、どう思った?

私自身知らなかったことをナビを通じて教えてもらいました。東日本大震災のことのみならず、災害に対しての心構えも知ることができ、多くの人に使ってもらいたいと思いました。県外の方のみならず、県内に住む方にも使って頂きたいです。

提供:日本カーシェアリング協会

ーーこれまでの利用者の反応を教えて

全体を通して、とても勉強になったという声が多いです。単に震災のことだけではなく、石巻のことが知れてよかった、震災前の石巻の姿を知れて、災害の恐ろしさ(街を変えてしまうという意味で)を知れたといった声があります。新人研修で使わせたいという感想もありました。


震災を風化させないための取り組み「語り部ナビ」は、日本カーシェアリング協会公式ホームページから予約ができる。新型コロナウイルスの影響で、いま直接語り部から教えてもらうことは難しいかもしれないが、この「語り部ナビ」で、実際に目で見ながら、音声を聞いて震災について知ることができできるだろう。石巻を訪れる際には、ぜひ利用してみてほしい。
 

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