タイでは新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ水際対策として、国籍を問わず入国時に2週間の隔離が求められる。隔離施設は自宅や友人の家などではなく、政府から指定を受けたホテルなどに限られる。FNNバンコク支局に赴任した筆者は2月7日から計16日間、この隔離生活を送った。見えてきたのは、日本とタイの感染拡大防止への意識の違いだった。

「陽性者」と仮定した感染防止対策

タイに到着した直後から厳しい感染防止対策が始まった。空港での入国審査を終え到着ロビーに出ると、防護服を着た人たちが待ち構えていた。防護服を着ていたのは、入国者が隔離する指定ホテルのスタッフたち。ホテルの送迎車には、後部座席に筆者1人だけが座り、運転席との間には感染を防ぐために透明なプラスチック製の板が設置されていた。

防護服姿のホテルスタッフ
防護服姿のホテルスタッフ
この記事の画像(5枚)

政府指定の隔離用のホテルでは、人との接触機会を避けることが徹底されている。原則、部屋から一歩も外に出ることはできない。食事は3食ともに廊下に置かれ、食べ終わったあとは空いた容器をゴミ袋に入れて廊下に出しておくと回収される。また、滞在中は2回のPCR検査が義務づけられているが、1回目のPCR検査の結果が判明する7日目までは、タオルの交換も部屋の清掃もランドリーサービスも頼むことはできない。陰性が確認されるまで、「陽性者」と仮定した対策が講じられている。

浴室でタオルを干す
浴室でタオルを干す

ビールも禁止…7日目から散歩が可能に

タイでの隔離生活では、ワインやビールなどのアルコール類を飲むことも禁止されている。

禁止されている理由は、飲酒により体温が上がってしまうのを避けるためだという。また、酔っぱらってスタッフとトラブルになったり、脱走したりする事態を防ぐ理由もありそうだ。

筆者が滞在していたホテルでは、1回目のPCR検査で陰性が確認された後、滞在7日目から1日45分間の庭の散歩が許される。他の多くの指定ホテルでも、このように庭やプールなどに出る時間が設けられていて、ストレス解消の貴重な機会となっている。

プールサイドを何周もする
プールサイドを何周もする

変異ウイルスも水際で阻止

タイでは、原則すべての入国者を対象にこうした隔離措置を行っている。隔離期間中は2回のPCR検査が義務づけられる。また、隔離を拒否したり、逃げ出したりした場合、非常事態宣言令の違反に問われ、2年以下の禁錮刑、または4万バーツ(14万円あまり)以下の罰金、あるいはその両方が科せられるおそれがある。

一方、日本では入国後14日間の隔離が要請されているが、自宅や友人の家で滞在することができる。バスや列車などの公共交通機関を使用できず、不要不急の外出を避けるよう求められるものの、買い出しなどのために外出することも可能だ。隔離中のPCR検査は義務ではない。

日本と比べ厳しい隔離措置が功を奏し、タイでは国内の1日の新規感染者は数十人から200人程度で推移するなど感染を抑え込んでいる。また、変異ウイルスについても水際で食い止め、市中感染は確認されていない。日本では、変異ウイルスの発生によって外国人の入国を制限したが、タイでは、変異ウイルスの影響を受けることなく、現在もイギリスや南アフリカを含め外国人の入国を受け入れている。

悩ましい経済と感染対策の両立

しかし、感染は抑え込んでいるものの、厳格な隔離措置による経済へのダメージは深刻だ。タイの主要産業である観光業では、2020年1年間で、前の年に比べ、外国人からの観光収入が8割以上、金額にして5兆5000億円あまり減るなど苦境が続いている。

閑散としたバンコク市内
閑散としたバンコク市内

観光業界からはワクチン接種によって強制隔離を免除するよう求める要請も出ているが、今のところ保健当局は否定的な見方を示していて、隔離措置は当分続きそうだ。日本と同様、経済と感染防止の両立に向けて頭を悩ませている。

16日間の隔離生活で見えてきたのは、新型コロナウイルスの侵入を徹底して防ごうというタイと、市中感染が続く日本との対策の違いだった。

【執筆:FNNバンコク支局 池谷庸介】

池谷庸介
池谷庸介

FNNバンコク支局 特派員