コロナ禍で日常となったマスク生活。これだけでも不便だろうが、さらにスマホなどの顔認証ができなくなったと嘆いている人もいることだろう。
そんな悩みの将来的な解消にもつながりそうな新たな技術が登場し、注目を集めている。富士通研究所が、マスクをしたままでも99%以上の精度で顔認証ができる技術を開発したのだ。

マスク着用でも顔認証ができる新技術は、神奈川県の富士通事業所内にあるローソンに1月21日から導入され、現在も実用化に向けた検証が進められている。
同店は昨年2月26日にオープンしたレジのない実験店舗で、入り口には手のひら静脈認証と顔認証などを組み合わせたマルチ生体認証の入場ゲートが設置されている。
さらに、買い物をするにはクレジットカード情報を登録したスマホアプリが必要で、このアプリが表示するQRコードと手のひらの静脈、顔を合わせて登録することで、マルチ生体認証による手ぶらでの入店が可能になる。
店内では各所に設置したカメラや重量センサーが来店客や商品を判別し、商品を持って店を出ると自動的にカードでの決済が完了するという。

しかし新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、マスクをしていると本人と認証されない場合があることが明らかになった。
マスクで顔を覆うと、AIは顔全体の特徴量が抽出できず、情報量が低下するため本人と認識されにくくなるという。そこでマスクを着用しても顔認証ができる新しい技術が開発された。

新たな技術は、まずマスクをしていない顔画像を用意し、顔の向きに合わせた色や形が様々な「疑似的なマスク」画像を制作して重ね合わせ、これらをAIが学習することで、マスクをしてる画像でも通常の顔認証と同じような処理ができるようになった。
新たな顔認証の精度は、マスク非着用時と同等程度の99%以上だとしている。

また手のひら静脈認証でも、手をかざす適切な位置をライトの色や形で教える仕組みを新たに導入。この2つを組み合わせるマルチ生体認証は、2021年度中の実用化を目指しているという。
マスクをしていても顔認証できるというが、ではサングラスや髪型のイメチェンはどうなのか? 現在までの実証実験の成果は? 担当者に聞いてみた。
手のひら静脈+顔認証で100万人の認証を実現
――AIは“マスク顔”のどの特徴を見ている?
Deep Learningを活用した特徴抽出になっており、具体的にこの部分と申し上げることは難しいですが、従来より利用されてきた目の領域に加えて、顔の輪郭や形など、顔全体に関する情報を抽出できていると考えています。
――メガネや髪型など変えても大丈夫?
特徴抽出処理の学習時に様々な状態の顔画像を利用して学習しており、一般的なメガネや髪型の変化への影響は少ないと考えています。ただし、顔の部位、今回の場合、目まで隠れてしまう色の濃いサングラスや髪型の場合は、認証精度が劣化します。
――マスク顔認証の実験の成果は?
まだ、実証開始直後ということもあり、お答えできません。実証結果、状況については3か月後を目途に、認証成功率や手かざしから認証までの処理時間などの分析を踏まえて、効果を検証する予定です。
――ちなみに「手のひら静脈認証」だけではダメなの?
手のひら静脈認証をはじめとした、生体情報にはそれそのものに本人を特定しうる情報が含まれています。
しかし、その認証精度には限界があり、単一の生体情報だけで、つまり、IDを入力せずに生体情報だけで本人を特定するという目的では、その利用者数が1万人程度が限界であると考えています。
これは、その人数を超えると他人が本人となる誤認証のエラーが無視できなくなり、運用上セキュリティ問題となることを意味します。
そこで、複数の生体情報、今回は、手のひら静脈認証に顔認証を組み合わせたマルチ生体認証を開発して、その利用者数規模を従来の100倍にあたる100万人規模での手ぶらでの認証を実現しました。
――「本年度中の実用化を目指す」とは、一般の店にも導入される?
具体的な提供形態、計画については現在、検討中です。

このような「手ぶら認証」が使われる場面の例として、富士通はコンビニ以外にスーパーマーケットやイベント会場、自販機、宅配ロッカーなどを挙げている。
マスク生活は今後も続くことだろう。このまま技術が進み、いろいろな場面でマスク着用のまま顔認証ができるようになってほしい。
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