コロナ禍で生活に困る子育て世帯が増える今、食料の宅配を通して子どもたちの生活を守る「子ども宅食」の役割に注目が集まっている。こうした中、新たに政府備蓄米を無料で子ども宅食に活用出来るよう、制度の改正が行われた。

コロナ禍ならではの「子ども宅食」とは

「子ども宅食」は、経済的に苦しいひとり親などの家庭に品を無償で届ける仕組みだ。

「子どもの貧困」が社会問題と化す中、そうした子どもたちを集め、料理を提供する「子ども食堂」の活動が注目を集めてきた。

(「子ども食堂」の様子https://www.fnn.jp/articles/-/2860より)
(「子ども食堂」の様子https://www.fnn.jp/articles/-/2860より)
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しかし、コロナ禍により、「3密」リスクのある「食堂」の形式は運営が難しくなってしまった。かたや、コロナ禍で家計が急変し、生活費の不足する世帯が増えており、こうした家庭環境にある子どもたちの支援が喫緊の課題だ。そのため、コロナ禍の今だからこそ、外出せずとも家庭に、定期的に食料が届く「子ども宅食」の役割に期待が高まっている。

(「子ども宅食」の配送品:京都市資料より)
(「子ども宅食」の配送品:京都市資料より)

「子ども宅食」は地方自治体の事業として行われているケースが多く、NPOや食品会社、運送会社などの民間企業などと連携して、米や缶詰め、ジュースなど保存の効く食品を届けている。食品会社等の協力を得て、フードロス削減の効果を持つ事業もあるという。さらに、「子ども宅食」は生活支援に加え、宅配の際に様々な相談に乗ることで、児童虐待の早期発見なども期待されている。

「備蓄米」で子どもも農家も支援へ

農水省は1月29日、こうした「子ども宅食」の事業に対し、政府の「備蓄米」を無料で提供する旨の要項改正を行い、実施団体からの申請を受け付けると発表した。「政府備蓄米」とは、大凶作に備えて政府が倉庫にて備蓄している米のことで、申請した1団体あたり300kg/年を上限に交付される。

農水省はかねてより、食育の一環として「ごはん食の重要性」を理解してもらうため、学校給食に備蓄米を無償交付してきた。そのうえで、昨春の緊急事態宣言に伴う学校の一斉休校により給食が休止されたことなどから、2020年5月より「子ども食堂」に対しても備蓄米の無償交付を行うことを決めた。しかし、提供された食材を家庭で調理する「子ども宅食」への提供については、「『食育』が担保できない」「市場価格に影響する」などの理由から、及び腰であった。

2020年8月には、自民党の稲田元防衛大臣や長島元防衛副大臣らが、コロナの影響により「子ども宅食」の役割はさらに重要になっているとして、支援のための議員連盟を立ち上げ。「子ども宅食」にも備蓄米を交付してもらえないか、国会等の場で要求を重ねていた。

そこで農水省は、こうした現場や政治の声、さらにコロナ禍が長引いているという情勢を踏まえ、「子ども宅食」にも備蓄米の交付を行うことを決めたのだ。

交付にあたっては、「ごはん食」の魅力を伝えるなど食育の取り組みを行うことが条件となっていて、“巣ごもり”の中で、今後の食の担い手である子どもたちに「ごはん食」の魅力を教える意義もあるという。そこには、毎年コメの消費量が減少し、またコロナ禍で外食・インバウンド需要が減る中で、コメ農家を支援する側面もあるのだ。

なお、農水省の担当者によると、備蓄米の交付にあたっては、市中に出回るコメの消費量に影響しないよう、バランスに留意しつつ政策を進めることにしている。

政府の支援は足りない?今後の課題は

コロナ禍で苦しむ子育て家庭を支える観点から「子ども宅食」は有用な取り組みと考えられるが、いくつか課題も存在する。

1、自治体による申し出がないと補助がもらえない

2020年度第2次補正予算および2021年度の本予算において、政府は「支援対象児童等見守り強化事業」の予算を計上。自治体が「子ども宅食」事業を支援する場合、国が必要経費を100%補助することになっている。ただ、自治体が「子ども宅食」を支援すると手を挙げない場合、国からの補助を受けることが出来ない。各自治体が「子ども宅食」に関心を持ち、検討を行うことが急務だろう。

2、再来年度以降、政府による支援が決まっていない

前述の議連による働きかけもあってか、政府は当初、2020年度第2次補正予算にしか計上していなかった「子ども宅食」への支援を2021年度も継続することを決めた。しかし、恒久的な予算ではないため、再来年度以降の政府支援も求められるところだ。

そして今回実施される備蓄米の交付も、そもそも「子ども宅食」の事業が行われていなければ意味がない。また、政府による「子ども宅食」支援恒久化も、実際に取り組む自治体が少なければ、期待は薄いだろう。

議連の事務局長を務める長島昭久衆院議員は、「これからの正念場は、一つでも多くの自治体が手を挙げてくれること。より多くの人に認知してもらうことがこの事業の成否を握っている」と訴えていて、議連は今後、自治体を後押しする取り組みなどについて議論を重ねていく予定だ。

緊急事態宣言が延長される中、経済的に苦しい子育て家庭がさらに困窮することが危ぶまれる。長島議員は「特にコロナ禍でひとり親のご家庭など本当にダメージ受けて今大変困窮している。そういう家庭に必要な食材を届けたいと思っている。政府備蓄米は毎年何百トンも確保しているので、そこからある程度融通できれば素晴らしい」と、今回実現した備蓄米の交付を評価した。

「子ども宅食」はまだまだ馴染みの薄い取り組みであるが、コロナ禍の今、子どもたちを守る切り札の一つといえよう。今後どのように活動が広がっていくか、動向を注視したい。

(フジテレビ政治部 山田勇)

山田勇
山田勇

フジテレビ 報道局 政治部