周囲の反応が「面白そうだけど、ルールがわからなくて・・」から「ルールはよくわからないけど面白い!」に変わった。
日本代表の活躍に象徴されるラグビーの話である。
ラグビーを知って、触れて、親しんでもらいたい、またその輪を広げることは関係者の切なる願いであるが、今回は「知ってもらいたい」のうち、あまり報道に出ていない、選手の性格に触れる部分を少しご紹介したい。
幼少期から高校、大学、クラブチームとラグビーに携わってきた者として、ポジションにみられる性格の「傾向」を経験に基づきお伝えする。

結婚するならFW?BK?

正確にデータとして取ったわけではないが、今回のラグビーを巡る報道で、多くを占めているのがBK(バックス)、とりわけ福岡堅樹選手や松島幸太朗選手といったトライゲッターだろう。番号は11番、14番でWTB(ウィング)という。
その華麗な走り、スピード、鋭いステップは見ていて気持ちが良いし格好いい。「フェラーリ」などと呼ばれるのもよくわかる。

その対極にあるのがFW(フォワード)、中でもスクラムを支える第一列の1番、2番、3番だ。1番と3番をPR(プロップ)、2番をHO(フッカー)という。日本代表では稲垣啓太選手、堀江翔太選手らだ。
スクラムでは相手に押されるだけでなく、味方からも後ろから押される。肩と尻を万力で固定され、徐々に絞られているような状態だ。もちろん首、肩、背中、腰にかかる負荷は尋常ではない。
3K(キツい、汚い、危険)職場ならぬ3Kポジションとも言われるが、少なくとも私が学生の頃はこれに「臭い」が加わる4Kポジションだった。しかし、実はこのスクラム第一列こそ、仲間内では「理想の夫」と言われることが多い。

第一列が”理想の夫”のワケ

PR、HOの彼らは何より耐えるのが仕事だ。スクラムが重要であることは言うまでもないが、その強さや技術が地味なので「うわぁ、素敵な姿勢!」などとファンに評価されることはあまりない。加えて一列目の3人は一体となること、仲間と息を合わせることも求められる。
農耕馬仕様の彼らは地味で忍耐強く、仲間との協調を意識するため、困難を受け入れる耐性が自然と出来るのだ。学生時代の飲み会では、他人が汚した床を掃除し、酔っぱらった輩を背負って送るのはだいたいPR、HOの役割だった。
また彼らは分厚い肉に覆われているため、仲間には暑苦しいと言われ、就寝時に「いびき」をかく人も多い。30年近く前の話になるが、夏合宿で自身のいびきのため押し入れで寝起きさせられていたPRがいた。一人のいびきのために全員が寝られなければ厳しい練習には耐えられない。ラグビーの有名な精神「One for all(ひとりはみんなのために)」であるが、彼もまたその環境によく耐えた。

一方、競走馬仕様のWTBの面々はトライを取るのが最大の仕事である。いかにトライを取れる状況を作り出すか、またその時にボールをもらえるかが大事で、自らのポジショニングや仲間からパスをもらうタイミングなどを自分で調整する。
息を合わせるPRと違い、トライから逆算した自身の環境整備が大事なのだ。もちろん他の選手達とのコミュニケーションも必要だが、ポジションとしての活躍の成否は「個」に帰結することが多い。
つまりPRは辛抱強さや一体感を求められ、WTBは自分が最高の仕事をするための準備が必要不可欠になる。忍耐型・協調型のPRに対し、WTBは自己完結型とも言えるだろう。スコットランド戦でトライを決めたPRの稲垣選手は日本代表に7年いて初めてのトライ。WTBの松島選手はロシア戦だけで3トライ。トライは全員の協力で取るものとはいえ、PRが縁の下の力持ちに徹する現状がこれだけでもわかるだろう。

甚だ極端な例になるが、私の経験をひとつお伝えする。
西武新宿線の都立家政駅に近い、大将がラグビー好きの寿司屋に、後輩をよく連れて行ったが、PRの後輩は一人前ないし二人前の握りずしを食べてから単品に移行することが多く、逆にWTBの後輩は最初からうにや大トロなどの高い単品を遠慮なく注文していた。若干複雑な思いがしたものだが、そのWTBの後輩は早明戦で終了直前に決勝逆転トライを決めてヒーローになった。
そんなポジションの特性を人間関係や恋愛関係、夫婦関係に置き換えれば「答え」とは言わずとも「傾向」は自ずと出てくるだろう。

広がるチームの幅

もちろん全ての選手にこれが当てはまるわけではないし、逆も当然ある。今回は2つのポジションに絞ったが、他のポジションにも個性や性格は出てくるものだ。
攻撃、守備とも研究が進み、個々に求められる能力や技術が増した今、FWは身体が大きくて強い人、BKは足が速くてパスやキックがうまい人、という表面的な要素だけでは務まらない傾向も強まってきた。
ただ、様々な特性、またキャラクターがいることで戦術をはじめとするチームの幅が広がり、信頼や絆の強さに繋がることもまた、ラグビーの大きな特徴のひとつである。
ちなみにPRやHOが好きだという女性は選手からすれば「希少かつ通」な人であり、親しみの度合いが増すことは間違いない。

(フジテレビ政治部デスク・山崎文博)

山崎文博
山崎文博

FNN北京支局長 1993年フジテレビジョン入社。95年から報道局社会部司法クラブ・運輸省クラブ、97年から政治部官邸クラブ・平河クラブを経て、2008年から北京支局。2013年帰国して政治部外務省クラブ、政治部デスクを担当。2021年1月より二度目の北京支局。入社から28年、記者一筋。小学3年時からラグビーを始め、今もラグビーをこよなく愛し、ラグビー談義になるとしばしば我を忘れることも。