増える新型コロナの”突然死”

このところ、新型コロナの感染者が激増している。痛ましいことに、同時に、死者も急増している。感染者は1月15日朝の時点で既に31万人を超え、死者は4,300人を上回るのだが、その増加ペースには筆者も戦慄を覚える時がある。

また、重症化のリスクは、30歳代の感染者に比べ、50歳代は約10倍、60歳代は25倍、70歳代は47倍、80代以上は70倍以上という報告を聞けば、高齢者を中心に、心配でたまらぬ人もいるはずである。

特に最近は、自宅療養中や待機中に容態が急変して亡くなるケースが目立ってきた。

警察庁の調べでは、医療機関以外の自宅などで体調が急に悪化して死亡した新型コロナ感染者は2020年3~12月で計122人に上り、12月は56人と急増している。

医療がひっ迫する中、入院もできないまま、自宅で容態が急変するのではないかという不安が感染者や家族により強くつきまとうことになる。

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新型コロナが恐ろしい3つの理由

この新型コロナウイルス感染症が恐ろしい理由を改めて考えてみると、

1.無症状感染者が、自覚の無いまま病院や高齢者施設で感染を広げてしまうこと。

2.無症状感染者が、自覚の無いまま市中で感染をどんどん広げてしまうこと。

3.容態が急に悪くなり、“突然死”してしまう感染者がいること。

ではないかと筆者には思われる。

1が起これば、重症化リスクの高い人々が感染し、亡くなる方も出る。場合によっては多数の死者が出てしまう。

こういうケースを完全になくすのは難しいだろうが、東京でも計画が一部動き始めたように新型コロナ感染者向けの専用病院と療養所を十分確保できれば、他の医療機関と物理的に棲み分けることが可能になる。そして、それならば院内感染をゼロに近づけることはできるかもしれない。

2が起これば、感染者が急増し、医療機関の対応能力を超えてしまう。その結果、本来なら治るはずの人々までが亡くなってしまう。

そのリスクを減らすには、自分が無症状感染者になっている可能性を誰もが想定し、三密と不要不急の外出を避け、マスク・手指消毒などを徹底する。

そして、医療崩壊を防ぐ為、現在の緊急事態宣言を受け入れ、協力するしかないと思う。それに、これは1のケースの予防にも役立つ。

もちろん、政府や自治体には、機先を制して、果断な対応をすることが求められるのは言うまでもない。

急激に重症化する3つの理由

では、3の“突然死”を少しでも減らすにはどうするのが良いのか?

まず、急激な重症化は何故起こるのか、ウイルス学が専門の獨協医科大学・増田道明教授に改めて訊いてみた。

獨協医科大学・増田道明教授
獨協医科大学・増田道明教授

「新型コロナウイルス感染症が重症化する理由は3つあると考えられます。
一つは、肺炎そのものが悪化して呼吸機能が障害される。

二つ目は、サイトカイン・ストーム(免疫系の暴走)により肺や全身に炎症が起こる。

三つ目は、血栓症や塞栓症で重要な臓器の血管が詰まってしまう
場合です。」

急速な容態悪化になる「塞栓症」

そして「このうち、最も急速に容態が悪化するのは三つ目のケース、特に塞栓症が起こった時と思われます」という。

その塞栓症が起こるメカニズムなどについても尋ねてみた。

「新型コロナウイルスは血管の細胞にも感染するとされ、血管の中で血が固まる血栓症や、その血栓が他の臓器に流れて行って血管を詰まらせる塞栓症を起こしやすいということが、海外では去年の4月ごろから報じられました」

「例えばドイツでは、新型コロナで亡くなった患者の4割に深部静脈血栓が見つかり、肺塞栓症が死因と考えらえる患者もいたとの報告があります」という。

そして「日本でも、2020年12月、厚生労働省の研究班などの調査チームが、新型コロナ重症患者の13.2%に血栓症を認めたと発表しました。無症状や軽症の感染者でも気がつかないうちに血栓ができる可能性はあるのです」

「その血栓が肺に流れて肺塞栓症が起こると、突然呼吸困難を生じます。いわゆるエコノミークラス症候群と同じで、時には亡くなってしまうこともあり得ます。血栓症や塞栓症で脳や心臓の血管が詰まれば脳梗塞や心筋梗塞が起こり、これも容態が急変し、命に関わります」

血栓症や塞栓症を防ぐには

では、自宅療養中に“突然死”するリスクを少しでも減らし、不安を軽減する方法は無いのだろうか。

「感染者は、血栓ができやすくなるようなことを特に避けるべきです。例えば、脱水しないように、適度な水分補給が推奨されます。アルコールは脱水の原因となるので、飲酒は控えるべきです。また、血液がドロドロになるような脂っこい食べ物も避けた方がいいでしょう。そして、個人でできることではありませんが、自宅療養中の感染者のDダイマー検査(血栓症の検査)を行える体制ができるといいのではないかと思います。Dダイマー検査のデータを入院の要否の目安にすることもできるかもしれません」

増田教授は早い時期から新型コロナによる血栓・塞栓症に着目しており、Dダイマー検査の意義について指摘していた。ご興味のある方は、文末の記事もご参照いただきたい。

もちろん「重症化のメカニズムは血栓以外にも考えられるので、Dダイマー検査だけで十分というわけではありません。しかし、Dダイマー検査で重症化の兆候を早めに察知できれば、容態急変のリスクをある程度は減らせるかもしれません」

ただし、Dダイマーの検査は採血が必要なので、医師の関与は必須という。計器さえ持っていれば自分でもチェック可能な体温や血中酸素飽和度と同じようにモニターすることはできない。とすると、医療体制がひっ迫すれば手が回らなくなり、感染者全員の検査など難しくなるだろう。この点からも医療崩壊を防ぐのは重要になる。

変異ウイルスは毒性が強まるとは限らない

一方、これほど感染者が激増する状況に鑑みれば、より感染力が高いとされる変異ウイルスの誕生を気にせずにいられない。イギリスのように連日5万人6万人の新規感染者が見つかるような状況になると日本の医療はパンクしても不思議ではない。

この変異についても増田教授の見解を訊いてみた。

「ウイルスが変異するのは自然の摂理なので止められません。日本国内でも変異は起こっています。そして、どんな変異が起こるかは偶然に左右されます。それまで流行していたウイルスよりも感染力の高い変異ウイルスがたまたまできると、それが優位になって流行します。

新型コロナウイルスはコウモリ由来とされますが、変異ウイルスの出現はヒトに適応したコロナウイルスへの進化という可能性もあります。ヒトからヒトへの感染の機会が増えれば、より感染力の高いウイルスへの進化のスピードも速くなると思われます」

こう聞かされると変異は良い話ではなさそうだ。が、幸いにして、同時に毒性が強まるとは限らないらしい。

「感染力が高くなることと、病原性が高くなることは必ずしも同じではありません。強毒に変異したウイルスに感染した人がいたとすると、具合が悪くなって行動範囲も限られるので、大勢にうつすということは無いでしょう。逆に、弱毒化したウイルスは広まりやすいということになります。一般にウイルスの進化は、感染力が高く、病原性は低くという方向に進むことが多いようです。ウイルスにとってその方が有利だからです。」

たしかに、昨今の変異ウイルスについて、致死率が高くなったという話は聞こえてこない。闇雲に恐れてパニックになる必要は無いのだろう。ただ、致死率が同じでも、感染者数が増えれば、死者数も増えることになる。感染力が高まっているということであれば、感染防止対策は今まで以上に重要になってくる。

その上で、増田教授は言う。「新型コロナは、無症状から命を落とす人まで様々なので、怖がり方も人それぞれです。他人の行動変容を期待するよりも、各人が自分や身近な人を守る行動に努めるということが最も有効と思われます」

新型コロナのワクチン イギリス
新型コロナのワクチン イギリス

ワクチンが行き渡り、(数年後に?)特効薬が出回るようになるまで、我々が以前の生活に戻るのは容易でないと筆者は自分に言い聞かせている。同時に、コロナ禍で生活苦に喘ぐ人や外食産業や関連産業等で働く人を守るために政府が支援を適切に厚くするのを有権者として支持するのも大切だろうと思っている。

執筆:解説委員 二関吉郎

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二関吉郎
二関吉郎

生涯“一記者"がモットー
フジテレビ報道局解説委員。1989年ロンドン特派員としてベルリンの壁崩壊・湾岸戦争・ソビエト崩壊・中東和平合意等を取材。1999年ワシントン支局長として911テロ、アフガン戦争・イラク戦争に遭遇し取材にあたった。その後、フジテレビ報道局外信部長・社会部長などを歴任。東日本大震災では、取材部門を指揮した。 ヨーロッパ統括担当局長を経て現職。