全貌が分からぬ恐ろしい病気

「このウイルスが引き起こす病気について私は全てを理解しているとは言えないというこ とを率直に認めたい。」
“I am very careful and hopefully humble in knowing that I don't know everything about this disease”

現地 12日、ワシントンの上院で証言したアメリカ国立アレルギー・感染症研究所のファウチ所長の言葉である。出現してからまだそれ程間がないということもあるのだろうが、10 万人に迫らんとする死者と100 万人を遥かに超える患者を出してもなお全貌が分からないとは恐ろしい病気である。

アメリカ国立アレルギー・感染症研究所のファウチ所長

ファウチ所長はまた「ワクチンが悪い結果を引き起こす恐れだってある。ワクチンが効くか効かないか、効くとしていつまで持続するのか良くわからない。」
 “Where certain vaccines can actually enhance the negative effect of the infection. The big unknown is efficacy, will it be present or absence and how durable will it be?”

「何度も言ったことだが、このウイルスがいつの間にか消え去ることは無い。それほど感染力が強いからで、仮に一旦制御できたとしても、地球上の何処からかいつかまた戻ってくる。」
“When you talk about will this virus just disappear? And as I've said publicly many times, that is just not going to happen because it's such a highly transmissible virus, and even if we get better control over the months it is likely that there will be virus somewhere in this -- on this planet that will eventually get back to us.“

と改めて警告を発した。
アメリカでもそして日本でも現在の流行は一旦収まる方向に向かい始めているように見える。しかし、言うまでもないことだが、油断は禁物と肝に銘じなければならない。

主にヒトの呼吸器系を攻撃すると見られていたこの新型コロナウイルスが、時にサイトカイン・ストームと呼ばれる免疫機能の暴走を引き起こし、心疾患や脳障害等でヒトを死に至らしめる恐れがあるなど「わからぬことが多過ぎる」と 5日掲載の拙稿に書いた。 この稿は、その続編とも言うべきものである。

ウイルスのターゲットは全身の血管?

確かに、この新型ウイルスが最初に感染するのは主にヒトの鼻や口・喉の粘膜からで、それがまず呼吸器系を侵し始めるのは間違いないようである。しかし、最近では、このウイル スのメイン・ターゲットは実は呼吸器系ではなく、呼吸器系も含む全身の血管ではないかと いう見方が強まっているらしい。 ウイルス学が専門の増田道明教授(獨協医科大学)に再びご登場いただいた。

獨協医科大学の増田道明教授

増田教授;
「新型コロナウイルスで亡くなった患者さんの病理解剖は、感染を恐れて行われないことが多い。重症化のメカニズムが良く分からないのはその為でもある。しかし、最近になってようやく、病理解剖に関する論文が報告されるようになってきた。その内容から示唆されるのは、血液中に移行したこのウイルスが血管の内壁の細胞(内皮細胞)に感染し、すると内皮細胞が傷ついて炎症が起こる可能性だ。その結果、そこで血が固まったり(血栓症)、その血の塊が流れて行って他の臓器の血管が詰まってしまったり(塞栓症)すると思われる。例えば、エコノミークラス症候群は、じっと座っていると脚の血流が滞って血栓ができ、それが流れて行って肺の塞栓症が起こる病気で急に呼吸困難が起こる。新型コロナの場合も、肺炎による呼吸困難だけでなく、肺塞栓症のせいで突然呼吸困難が起こる可能性があるようだ。脳の血管が詰まれば脳梗塞、心臓なら心筋梗塞、腎臓なら腎不全というように、 この病気・COVID-19 で見られるいろいろな症状や合併症はウイルス感染によって血栓症 や塞栓症が起こることで説明できるかもしれない。」

となると、従来から重症化のメカニズムと言われていたサイトカイン・ストームとの関係 はどうなるのだろう。

増田教授;
「サイトカインが過剰産生されると、それによって血管内皮細胞が傷つけられ、 血栓ができやすくなることは従来から知られている。従って、ウイルスだけでなく、サイト カイン・ストームも血管炎や血栓・塞栓症を引き起こしている可能性がある。逆に、血管が傷つくことがサイトカイン・ストームの引き金になっている可能性もあり、卵と鶏のような関係かもしれない。その結果、いろいろな臓器で血栓症や塞栓症が起こって血液が行き渡らなくなり多臓器不全に陥るため、最悪の場合、死に至るということが考えられる。」

高齢者は動脈硬化があったり、肥満の人は血中の脂質が多かったりで、血栓ができやすいという。糖尿病患者なども既に血管にダメージを受けている人が多いらしい。こうしたリスク・基礎疾患のある人が比較的重症化しやすいのはやはりこのウイルスが血管を標的にするからだと考えると説明がつくのかもしれない。一方で子供や若者に感染しても無症状や軽症が多いのは血管が綺麗で血栓ができにくいからとも考えられるという。

「飽食の時代に対するウイルスからの警鐘」

年齢と共に、体のあちこちにガタがくるのは避けられないのだが、血栓ができやすい体質だったり、血栓ができてしまったりしたら、もう打つ手は無いのだろうか。

増田教授;
「体のどこかで血栓ができると D ダイマーという物質の数値が上ってくるのが 血液検査でわかる。そういうケースでは、血液が固まるのを抑える薬や、できてしまった血栓を溶かす薬などを使って、血管を詰まりにくくすることは可能である。実際、新型コロナ ウイルス感染症の重症患者にもこういった薬が使われ、奏効している例はあるようだ。」

「だから、理想を言えば、普段から食生活に配慮したり、運動を心がけたりして、高脂血症や肥満を防ぐことが望まれる。それがこの病気の重症化予防に繋がる可能性もある。70 年代に比べると現在の世界の肥満率は3倍になっていると聞く。もしかすると、この病気・ COVID-19 は飽食の時代に対するウイルスからの警鐘と言えるかもしれない。」
 

新型コロナウイルス

死亡率と肥満率の関係

ちなみにアメリカの成人の肥満率は 30%以上、ヨーロッパも20%を超えていると言われる。対して日本は4%台。欧米に比べ日本の死者が圧倒的に少ないのは、この肥満率も関係すると見る向きは少なくない。

もしも肥満防止がこの病気の重症化の予防になるなら、病院に行かなくとも比較的簡単 にトライできるのは有難いと考えるべきなのだろう。 また、感染して入院したり、ホテルや自宅で隔離・療養になった場合などには、エコノミ ークラス症候群の予防で言われるように適切な水分補給も役に立つのかもしれない。

更に、開発が進むワクチンが効くか効かぬか不明とのファウチ所長の懸念について、増田教授は「エイズウイルス(HIV)やC型肝炎ウイルスは感染して抗体ができてもウイルスを 排除できない。そしてどちらもワクチンの実用化に成功していない。ファウチ所長は HIV の研究に長年携わっており、ワクチン開発の難しさを知っているのだろう。」という。

そして「『ワクチンが悪い結果を引き起こす恐れ』というのは、デング熱ワクチンのことを言っているのかもしれない。一度実用化されたのだが、接種後にデングウイルスに感染すると重症化してデング出血熱になってしまう人が出てしまった。ワクチンでわざわざ作っ た抗体が却って悪さをする抗体依存性感染増強という現象が疑われた。新型コロナウイル スのワクチンについても、効果だけでなく副作用や安全性を十分検証しながら開発してい くことが肝要だ。」という。

第二波への備え

副作用について言えば、ワクチンだけではなく治療薬に関しても分からないことが多く、 楽観を戒めるべきというが、文字数の関係でこの稿では詳細は割愛する。

最近になって世界では既存薬の転用や新しい簡易検査キットが承認され始めている。こうした現代の科学技術がこの病気の重症化の予防に威力を発揮すれば、いずれやって来ると言われる第二波による直接被害を最小限に食い止めることが期待できる。そうなれば 経済被害の一層の深刻化も避けられる。 その時までに、このウイルスとそれが引き起こす病気の全貌が明らかになり、政府と関係業界が具体的で効果的な対応策を一致協力してまとめ実行に移していることを願いたい。

そうでなければ、ファウチ所長が警告するように「より多くの感染とより多くの死という有害な結果をもたらす。」恐れが出てくるからである。
“If you do not do an adequate response, we will have the deleterious consequence of more infections and more deaths.” 

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【執筆:フジテレビ 解説委員 二関吉郎】