肩書きは「降格」も影響力は健在

北朝鮮の最高意思決定機関である朝鮮労働党の党大会が12日、閉幕した。このあと、軍事パレードを始め様々な祝賀行事が開催されると見られる。

閉幕報道に先立ち、金正恩総書記の実妹・金与正氏が韓国に向けて談話を発表した。肩書きは党中央委副部長となっており、第一副部長から「降格」したことが判明した。金与正氏は5日から始まった党大会で中央委員に再任されただけで、政治局員候補の肩書きも失っていた。

第一副部長から副部長に「降格」した金与正氏
第一副部長から副部長に「降格」した金与正氏
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2020年春から金与正氏は自身の名義で対米、対南談話を発表し、金正恩委員長の代弁者として存在感を強めてきたことから、政治局入りするのでは?との見方も強かった。

ただ、北朝鮮が発表した党中央委員会の138人の名簿で金与正氏は21番目に掲載されている。

金与正氏の名前が記載された党中央委員会の名簿(11日付の労働新聞より)
金与正氏の名前が記載された党中央委員会の名簿(11日付の労働新聞より)

今回、政治局常務委員入りした趙甬元氏が18番目、前後も宣伝扇動書記、宣伝扇動部第一副部長と与正氏より「格上」の人物が並ぶ。

政治局常務委員入りした趙甬元氏
政治局常務委員入りした趙甬元氏

公式の肩書きとは別に、その影響力は「降格」していないと言えよう。

暴言満載の金与正談話

また、これまで通り自身名義の対南談話を発表した点から見て、「対南」関係を実質的に統括する立場は変わっていないと見られる。韓国に向けた罵詈雑言ぶりも健在だ。

「奇怪なのは、南朝鮮(韓国)合同参謀本部が去る10日、深夜に北(朝鮮)が閲兵式を開催した状況を捕捉しただの、精密追跡中だのというたわ言を吐いたことである」

「この地球上には、200余りの国があるというが、他の家の慶祝行事について軍事機関がしゃしゃり出て『状況捕捉』『精密追跡』だのという表現を使って敵対的警戒心をあらわにするのは唯一南朝鮮しかないであろう」

与正氏は、韓国軍が大会開催中の10日、平壌で深夜に軍事パレードが開催されたようだ、と発表したことを「たわ言」と一蹴。韓国が北朝鮮の動向を軍事的に監視していることに対し、「同族に対する敵意的な見方」と不快感を露わにした。

韓国軍当局が軍事パレードの実施状況を捉えたと発表したことを「たわ言」と一蹴
韓国軍当局が軍事パレードの実施状況を捉えたと発表したことを「たわ言」と一蹴

与正氏の暴言は止まらない。

「ともかく、あの界隈の人々は実に理解し難しい奇怪な種族である」、「世界的に行動をわきまえるすべを知らないことにおいて2番手だと言われれば悔しがる特等の阿呆者らである」

韓国の対応は理解しがたいとして「奇怪な種族」、「特等の阿呆ども」呼ばわりした。

談話は終始、上から目線で語られている。

「そんなにもやることがなくて、他人の家の慶祝行事を『精密追跡』しようと軍事機関を前に立たせているのか……?」

「いつかも私は述べたが、こうしたことも必ず後には清算されるべきであろう」

対米、対韓関係進展に期待せず

党大会では金正恩総書記が5年間を総括した報告の中で南北関係について、「現時点で南朝鮮当局に一方的に善意を示す必要がない」と述べ、韓国を突き放した。また、「北朝鮮の正当な要求に応え、北南合意を履行するための動き次第で相対する」として、経済制裁解除など北朝鮮の要求に応じれば、相手にしてやるという態度だ。

バイデン新政権下での米朝関係進展に期待しない姿勢を示している金正恩総書記
バイデン新政権下での米朝関係進展に期待しない姿勢を示している金正恩総書記

金総書記はアメリカに対しても、「誰が政権につこうとアメリカの実体と北朝鮮政策はかわらない」として、バイデン新政権下での米朝関係進展に期待しない姿勢を示している。与正氏の談話もこうした金総書記の方針を受けたものと言える。

北朝鮮で最高指導部に政策を提言してきた高位脱北者は、北朝鮮優位の南北関係を作ろうとしていると指摘する。

「以前のように何か支援を受けるための南北関係推進でなく、北朝鮮優位、韓国隷属という確固たる状況を作ろうとしている。南北共同事務所の爆破、対北朝鮮ビラ散布禁止要求など、一連の対南圧迫もその表れだ。北朝鮮の意向に合わなければ、これより酷い行為もためらいなく進めるだろう。」

【執筆:フジテレビ 報道局国際取材部担当兼解説副委員長 鴨下ひろみ】

鴨下ひろみ
鴨下ひろみ

「小さな声に耳を傾ける」 大きな声にかき消されがちな「小さな声」の中から、等身大の現実を少しでも伝えられたらと考えています。見方を変えたら世界も変わる、そのきっかけになれたら嬉しいです。
フジテレビ客員解説委員。甲南女子大学准教授。香港、ソウル、北京で長年にわたり取材。北朝鮮取材は10回超。顔は似ていても考え方は全く違う東アジアから、日本を見つめ直す日々です。大学では中国・朝鮮半島情勢やメディア事情などの講義に加え、「韓流」についても研究中です。