遠隔地に暮らす親に介護が必要になった場合、子どもはどのように介護をしていくべきか。故郷に親を残して離れた場所で仕事をしている子どもにとっては、頭が痛い問題だ。介護のために仕事を辞めるという「介護離職」についても考えてみたい。

勤務地を問わない資格保持者であれば、介護離職も可

第1回で話を聞いた八万介助さんは、遠隔地で暮らしていた両親を介護するために、勤めていた介護施設を辞めたという介護離職を経験している。自身の介護離職についても話を聞いた。

「うちの場合は両親ともに認知症で、発覚した時期も同じタイミングだったんです。最初の3年は遠隔地介護でしたが、認知症の症状が進んでしまい実家に帰ることになりました」

八万さんの仕事は介護福祉士。千葉県にある介護老人保健施設で正社員として働いていた。

「僕は幸いにも介護の仕事で介護福祉士の資格も持っていたので、介護離職を決断することができました。介護施設は日本全国にあるので地元に帰っても転職が可能ですから。各施設で環境や方針は違うことがあっても、基本的にやることは一緒ですしね。

でも、もし僕がどこか企業に勤めるサラリーマンだったら、介護離職はしていなかったでしょうね。転職して収入が上がる保証があるとか、前向きな何かがあれば別ですけど。そういった保証もなく、再就職の目処も立っていないのであれば、親の介護のために自分の仕事を捨てて収入の手段を絶つなんて、ナンセンスだと思いますよ」

介護離職した八万さんだが、これは自身が介護職だから選べた道だと語る。実際、八万さんは千葉の介護施設を離職したあと、両親の暮らす湘南に引っ越して再就職し、自身の収入はきちんと確保している。どこに行っても同じような業務が可能で、経済面が保証できる立場でなければ介護離職はオススメできないということだ。

介護離職は“自滅”への第一歩?自分の人生は自分のものと割り切ろう

また、第2回に登場いただいた介護・暮らしジャーナリスト、ファイナンシャルプランナーの太田 差惠子さんにも介護離職について聞いた。

「はっきり言って、介護離職はオススメできません。まず、子どもは親の面倒を見るのは当たり前という思い込みを捨てるべきだと思いますよ。介護離職をして所得がなくなってしまったら、自滅してしまうだけです。これまでに築き上げた自分の生活を捨てるべきではありません。『介護離職はしない』と決断してしまえば、楽になりますよ」

 
 
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太田さんは介護離職には反対だとはっきり語る。

「20年前は専業主婦のいる家庭も多く、親の介護をする子どもたちの数も多かったので、家族のうちの誰かが介護に専念するということも可能でした。でも今は子どもも少なく、シングルで生きている人も多い。誰もが働かなければやっていけない時代です。辞めても何らかの理由で経済的な心配はない、さらに、今の仕事に未練はない、という場合以外は、介護離職には慎重になるべきでしょう」

仕事をしながら介護をしていると、どうしても仕事を休まなければいけない日も出てくる。

「介護のために会社を休んで、周囲に迷惑をかけるのがつらいとおっしゃる方もいますが、介護というのはこれからの日本全体にかかってくる問題。上司や部下にとっても他人事ではないのですから、むしろ誰もが介護のために休みを取りやすい状況を作っていく必要があるのです」

また、親の立場に立って考えてみる必要もある。

「親だって、子どもが介護のために自分の人生を犠牲にすることを喜ぶでしょうか?持ち家で家賃もかからないので親の年金で生活しつつ自分で介護をするという方もいらっしゃいますが、親が亡くなってしまったら年金も出なくなります。子どもが自分の生活を確立していないと、親はいつまでも安心できないものです」

自分の暮らしを保ちながら介護にコミットする「遠距離介護」

では、親と離れて暮らす子どもが介護離職を避けるためには、どうすればいいのだろうか?そこで出てくる方法が「遠距離介護」だ。親には施設に入居してもらい、子どもは遠隔地で自分の生活を確保しながら、ヘルパーさん、介護士さんなどに生活援助・身体介護を委託し、介護をマネジメントしていく。ただし、在宅の「遠距離介護」では、限界があることも確か。その場合は、親には施設に入居してもらうことも選択肢となる。

「親の施設介護を選ぶことで“親を見捨てた”という意識を持つ人もいるけれど、罪悪感を持つ必要はありません」と前述の太田さんは言う。

「介護のプロフェッショナルが揃った施設は、決して悪いところではありません。できれば親御さんが元気なうちにどんな施設がいいか希望を聞いておいて、一緒に見学にも行っておくといいですね。それで、親御さんが自宅で暮らすのが困難になってきたら、希望に沿った施設に入ってもらえばいいのです。介護はプロジェクトマネジメントですから、毎日の生活をプロに委託して、要所要所でマネジメントしていけばいいのです。より良いマネジメントを行うには、定期的に会ったり、電話やメール、SNSなどでコミュニケーションを取ったりして状況を把握することも必要になります。

さらに、スタッフの方達とのコミュニケーションをとるのも重要です。『床ずれができたので、治療しました』という連絡がスタッフから来たら、『治療ありがとうございます。今後、床ずれが起きないように、どういうふうにケアしていただけますか?』と改善策を一緒に模索することで、介護の質も上がっていく。ここまで関わってこそ、プロジェクトなんです」

介護とは親の側にいて手取り足取り世話をするもの…。そんな思い込みを捨てることで自分一人で介護するよりも質の高い介護を実行していくこともできるのだ。遠距離で働きながらでも質の高い介護が可能だということは、頭に入れておいたほうがいいだろう。

 
 

■八万介助
長年、学年誌、コミック誌、情報誌、女性誌などで漫画家、イラストレーターとして活躍。雑誌の休刊などで漫画・イラストの仕事が減り、2010年から介護老人保健施設でパートとして働き始める。2014年、介護福祉士の資格取得。主な著書は『両親認知症 Uターン すっとこ介護はじめました!』『49歳 未経験 すっとこ介護はじめました!』(いずれも小学館)など。

 
 

■太田差惠子
介護・暮らしジャーナリスト、NPO法人パオッコ理事長、AFP(日本ファイナンシャル・プランナーズ協会認定)。
京都市生まれ。20年以上にわたる取材活動より得た豊富な事例を基に、「遠距離介護」「仕事と介護の両立」「介護とお金」等の視点で新聞、テレビなどのメディアを通して情報を発信する。
1996年、親世代と離れて暮らす子世代の情報交換の場として「離れて暮らす親のケアを考える会パオッコ」を立ち上げ、2005年5月法人化した。現理事長。
主な著書に『親の介護で自滅しない選択』(日本経済新聞出版社)『親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと』(翔泳社)など。

(執筆:松村 知恵美)

プライムオンライン編集部
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