実際の事件や事故を題材とする社会派アーティスト…ダイナマイト使い心中した実際の事件描く

伊勢市出身の弓指寛治さん。社会派アーティストとして今、日本のアート界で注目を集めている。2020年のあいちトリエンナーレでも大きな話題になった数々の作品。弓指さんの作品に込める思いを取材した。

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2020年秋、東京のGINZA SIXで開催された展覧会。日本のアートシーンで注目される作品があった。題名は「ダイナマイト心中」。描いたのは社会派アーティストの弓指寛治さん(34)。

弓指寛治さん:
もちろん全体を見てほしいんですけど、あえていうなら目ですね。涙が流れて、二人の間を合体していくんです

ぶつかり合う瞳と瞳。泣いているような、笑っているような…。

弓指さんが描くのは実際にあった事件や事故。この作品は、70年ほど前に岡山県の山中で浮気をした2人の男女がダイナマイトで心中した事件をモチーフにしている。

弓指さん:
派手に死んでいくけど、それが悲しいかどうかはわからない、というふうに見せたかった

「母の生きた55年を自殺という一点でくくりたくない」…絵を描くことで母の死と向き合う

三重県伊勢市で生まれた弓指さん。名古屋学芸大学で学び、アメリカで現代アートに影響を受けた。しかし6年前、大きな試練が…。母・美晴さん(当時55歳)の自殺だ。

弓指さん:
自ら命を絶つということが、どういうことだろうとショックが大きかったし、宗教とかでは、死を落としこむことができなかった

母に捧げた作品「挽歌」。伊勢の町並みの上で、大きな火の鳥が翼を広げている。弓指さんは、絵を描くことで母の死と向き合った。

弓指さん:
僕の母の55年の間には子供を育てたりとか、仕事をしたりとか…。その55年を“自殺”っていう一点でくくってしまったらこれしかないけど、そんなわけがないと。そこに焦点をあてることが、僕にとっては“慰霊”のようなものだと

以来、弓指さんはアイドル歌手の岡田有希子さんなど自殺や事故をテーマに描き続けた。

「ニュースから抜け落ちたようなことを作品にしたい」…そこで人が生きていたことを描く

弓指さんは2020年、あいちトリエンナーレに「輝けるこども」というタイトルの複数の作品を出展した。

大きなクレーン車。荷物が散乱し、その周りには警察官がいる。

10年前、栃木県鹿沼市で起きたクレーン車暴走事故。登校中の列にクレーン車が突っ込み、小学生6人が死亡。

弓指さんは事故現場を歩き、亡くなった子どもの親たちから様々な話を聞いた。

弓指さん:
亡くなった子供たちは6人ですけど、彼らには名前があったし「かわいそうな犠牲者」じゃなくて、その9~11年がどういう生の時間だったのか聞きたいと思ったので

弓指さんは、悲しみだけではなく、そこでどういう人が生きていたのか、ニュースやメディアの情報から抜け落ちたことを作品にしたいと思った。

あいちトリエンナーレでは、円頓寺商店街の特設会場に展示。作品は大小180点以上にのぼった。

亡くなった子供たちの、顔と名前。

お気に入りのキャラクターや、書き残した詩…。テレビや新聞の報道では、伝えられなかった、子供たちの日常だ。

弓指さん:
“かわいそうな被害者 極悪人の加害者”という構図自体が違うと思うから、僕がやっていることの一番は“白か黒か”というときに、そうじゃない部分がいっぱいあると見せられる可能性があるから

満開の桜と笑顔の子どもたち。事故の被害者も加害者も、共に夢見た世界を1枚の絵で表現。

弓指さんは、シリーズのタイトルを「輝けるこども」にした。

「何これって思うがだんだん分かってくる」…一見牧歌的な絵も新たなテーマは「戦争」

名古屋市中区の弓指さんのアトリエ。サツマイモ畑とテントウムシ、雑草を抜く人など…。

2020年の秋、弓指さんは新たな作品に挑んでいた。新たなテーマは「戦争」だ。

弓指さん:
次は「満州国」というものを。戦争のことだったり、政治的なものかと思って見に行ったら、テントウムシの絵が描いてある。次みたら牛の絵。何これって。でも見ていくうちに、だんだん分かってくる。そういう体験こそが、現代アートの面白さだと思うんです

弓指さんが挑む、新たな作品に注目だ。

(東海テレビ)