多くの名選手を生んできた全日本バレーボール高等学校選手権大会、通称「春高バレー」。

しかし、多くの普通の高校生はこの舞台に立つことはおろか、目指すこともなく現役を終えている。前回の春高全国大会に出場したのは、全国6299校中104校だ。

名門校の選手たちは1月の春高バレーが最終目標になる。しかし、それ以外の多くの選手は地区大会が集大成の場となり、その後は受験勉強などにシフトする。

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東京高校女子バレーボール部もその一つ。コロナ禍で夢を失ったのは、1月の春高を目指せるエリートではない。普通の高校生たちだ。

だからこそ、彼女たちは本来引退するはずだった6月以降もチームに残り、10月の春高予選まで受験勉強と並行しつつ、バレーを続けることを決めた。

たった一人を除いて…続ける決意

東京高校女子バレーボール部の部員は27人。そのうち、3年生は13人。

最高成績は東京ベスト8。春高バレー出場は目指さず、6月に行われる関東大会を夢舞台としている、いわゆる普通の高校バレーボール部だ。

部の中心はキャプテンで3年生の大久保愛栞(まなか)さん。チームの要、アタッカーを務める彼女は「自分たちの力で勝って上に進みたい」と語っていた。

もう一人、控えでありながら、チームを影で支える3年生の中曽根真生(まお)さん。彼女は、レギュラーと控えの選手をつなぐ橋渡し役で、東京高校はこの2人を軸に戦ってきた。

しかし、彼女たちの夢だった6月の関東大会は、新型コロナウイルスの影響で中止に。高校バレーは、トップ選手の夢である春高バレーだけが残り、普通の選手が目指す舞台は消えてしまった。

この結果に、大久保さんは「今までの練習も全部なしになって悔しいし残念」とこぼす。

それでも3年生達は「最後は試合で終わりたい」と、例年であれば6月で終わる部活を以降も続け、10月の春高予選を目指すことに決めた。

部活を続けながら、受験勉強もしなくてはならない、重い決断だ。

しかし中曽根さんだけはチームを離れ、大学進学へシフトしていくことを決めた。

「目標がなくなってしまって、バレーボールに対する熱がなくなってしまったというのが本音。それで、次は勉強を頑張ろうと思っています」と理由を明かす。

“橋渡し”を失いバラバラになるチーム

こうして12人となった3年生は、目標へ向け走り出した。新たな夢は10月の春高バレー予選、東京ベスト8だ。

だが、大久保さんは一抹の不安があった。それは中曽根さんの不在だ。

「たくさん、いろいろなことをやってきてくれたんだなって。真生の存在がでかい」

夏の練習試合で、チームはそれを実感することになる。コートに立てない控えの選手たちが、レギュラーを応援しなくなった。

橋渡し役の中曽根さんを失い、バラバラになったチーム。

「新型コロナウイルスで練習できる期間が短くて、(春高バレー予選まで)あと1ヵ月しかないのに、本当にいまのチームの状況がイヤだし、3年生でちゃんとやりたいと思います」と大久保さんは涙を流した。

一方、中曽根さんが学校で勉強に励んでいると、練習をするバレー部の声が聞こえてくる。

「自分はいま、勉強に焦って、勉強、勉強ってなっているけど、みんなは部活が充実してて楽しそう」

複雑な心境だ。

続けることで知った苦しさ。離れることで知った尊さ。それでも、一度決めたことは曲げない。

バラバラになったチームを立て直すため、3年生だけがミーティングを行った。中曽根さんも思いを伝えるため、特別に参加。

そこで語られたのは、控え選手たちの胸の内だった。

「私はBチーム(控え選手)だから、必要とされていない。居ても居なくても変わらないのかなとかいろいろ考えて…」と声を震わせながら本音をこぼす子もいれば、「こんなに頑張っているのに、努力って報われないんだなって本当に思っていて。こんなに頑張っていても、試合に出られないんだったら、やっている意味がないと思った」と悔しさを露わにする子も。

チームメンバーの話を聞いた中曽根さんは、離れたからこそ分かったことを伝えた。

「時々夢で見るほど、みんなでバレーをしているのは楽しかった。あと少しで引退だし、みんなには楽しんでほしいと思うから。楽しく終わってくれたらいいなと思います。頑張ってね」と涙ながらにエールを送った。

チームの言葉を聞いた、キャプテンの大久保さんは「最後、勝ちたい。本当に。一つでも多くの試合をこのメンバーでやりたいと思っているから。最後は3年生の意地だと思う。全員がめげずに最後まで戦えたらと思います」と決意を皆に伝えた。

ミーティングから数日後、目の色を変えていた控えの選手たち。

控え、レギュラーの立場関係なく意見を言い合うなど、レギュラーを応援しなかった彼女たちが、チームを支えるように。バラバラだったチームは一つになっていき、自然と笑顔も増えた。

ツラくても全員で手を取り合ってきた

そして迎えた、10月の春高バレー東京予選4回戦。ここで勝てば、目標としているベスト8に進出することになる。

「夢を叶えてほしい」と受験勉強のため、チームを離れた中曽根さんも会場を訪れ、この日ばかりは練習を手伝った。

勉強しているときよりも楽しそうにする中曽根さん。

「そりゃ、受験勉強より楽しいです」と笑顔を見せる。

円陣を組んで挑んだ、“普通”のバレーボール部の集大成。対戦相手は、駿台学園。

2階から中曽根さんが見守る中、試合は序盤から日本代表選手も選出している駿台学園に主導権を握られる。21対4の大差になっても、レギュラーの背中を押し続けたのは控えの選手たちだ。

そんな彼女たちの思いに応えるように、キャプテン、レギュラーの選手たちも立ち向かっていくが、0-2で東京高校は敗退。

ベスト8に進むことはできなかった。

監督の塩谷尚正さんは、コロナ禍で奮闘してきた3年生に対し「どう考えても悔しいと思う。本当にいろいろあったし、今まで10月までやった3年生はいなかった。こういう経験は長い人生では大事だから。勝負はそんなに甘くない」と労いながらも、厳しさを教えた。

キャプテンの大久保さんは、これまでを振り返り、「どんなにツラいことも全員で手を取り合ってやってきたのですごくいいチーム」と、悔し涙を流しながらも、最後は笑顔を見せた。

最後まで仲間を見守った中曽根さんは「できるなら一緒にコートに立って終わりたかった。羨ましいですね。みんな頑張っていたし。私も頑張ります」と、チームの頑張りから勉強へのパワーをもらったと話す。

コロナ禍に翻弄(ほんろう)された、“普通”の高校生たち。例年よりも5ヵ月長くなった挑戦が、終わりを告げた。

 

そして、名門校の選手たちの最終目標となる春高バレーは1月5日から始まる。今年は、無観客で開催される。

(ディレクター:原田 充/伊藤里紗)

ジャパネット杯春の高校バレー
第73回全日本バレーボール高等学校選手権大会

(フジテレビ系全国ネット)
1月9日(土) 男女準決勝:午後4時00分~5時30分
1月10日(日) 男子決勝:午後1時30分~2時55分、女子決勝:午後4時00分~5時40分