サッカーJリーグ・川崎フロンターレの中村憲剛選手、40歳がホームスタジアムである等々力競技場での引退セレモニーに出席した。
チームの優勝報告会を兼ねているとはいえ、約1万3千人ものサポーターが詰めかけたことが中村選手の人気ぶりを証明していた。

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川崎一筋18年 中村憲剛引退セレモニー

川崎一筋18年。
チームがまだJ2に所属し、観客動員数が3000人~4000人という試合もあった頃に中央大学から加入した中村選手。
いつしか“チームの象徴”と呼ぶにふさわしい存在となった。
特にここ5年間での出来事がそれを物語っていた。

突如、引退を発表した先月の会見で語った『35歳になった時に、妻と40歳での引退を約束した』というエピソード。
それからは、36歳でJリーグMVPに輝き、37歳で悲願のJ1初優勝、38歳でリーグ連覇、39歳でルヴァンカップ優勝、そして人生初の大ケガ…
それでもリハビリの末、なんと40歳で迎えた復帰初戦でゴールを決めて見せた。
まさに、サッカー選手としての“ゴール”を自ら設定したあとに、彼はその本領を発揮したのだった。

チームメートからのメッセージに涙

セレモニーで挨拶に立ったエースフォワード・小林悠選手(32)は、司令塔である中村選手がアシストを量産し「そのパスで運命を変えてくれた」ことに感謝した。
チームが長年、リーグ戦で2位、カップ戦で準優勝など、あと一歩の結果に終わり、“シルバーコレクター”と揶揄されていた頃から共に戦い続けてきた2人。
「苦楽をともにした憲剛さんと初めて優勝した時。その時の感動は、もうたぶん僕がこの先サッカー人生やっていても、あれを超える感動は絶対にないと思います。一緒に抱き合って喜び合えたことが本当に嬉しかったです」
長いトンネルを抜けて初優勝した2017年のことを思い出しながら、その存在の大きさを痛感し、涙を流すと、中村選手ももらい泣きした。

「サポーター代表」の長男からも

涙を誘ったのは、チームメートだけではない。
長男の龍剛くん(12)が文才溢れる手紙を読み上げるとスタジアムは涙と笑顔に包まれた。
「中村憲剛選手の18年間のサッカー人生は出来過ぎでした。優勝もしてMVPも獲ってギネス世界記録も獲って憧れる存在でした。選手の皆さんにとってもたくさんのアドバイスをもらったり、常にお手本のようだった“フロンターレのお父さん”のような存在が今年で引退するのはショックだったと思うし、自分もとてもショックだったけど、やっぱり“物事は終わりがいつか来るから美しく”おめでたいことだと感じていました。引退、おめでとう。そして、ありがとう。サポーター代表、中村龍剛。」
父親の引退は受け入れがたいはずなのに“おめでとう”という言葉で締めくくった“サポーター代表”の愛息子。その手紙に、中村選手はまたしても涙を見せた。

家族、チームメート、サポーター 愛されたレジェンド

そして、中村選手からサポーターへの挨拶。言葉を詰まらせながら語ってくれた。
「みんな『ありがとう』って言ってくれたけど『ありがとう』と言いたいのは僕の方です。なんでもない大学生を拾ってくれたフロンターレ。感謝しかありません。本当にありがとうございました。」

印象的だったのは、体格に恵まれない子供たちへのメッセージ。
身長154センチで高校に入学するなど、体の線の細さで悩み続けてきた中村選手。
それでも日本代表としてW杯出場を果たすまでに、成長を遂げることができた。
自身の経験から学んだことを、同じ境遇の子供たちへ。

「僕自身は小学生の時から高校に入った時も本当に小さくて、今も華奢ですし、体も強くないですが40歳までプレーすることができました。
何が言いたいかというと、体の小ささとか身体能力の低さはハンデではないということです。
おそらく小中高生で悩んでいる子がいっぱいいると思います。
けど『そうじゃない』と“僕のキャリア”が言っています。みんなに可能性があります。
子供たち一人一人には自ら“蓋”をしてほしくないし、逆にそのハンデを“チャンス”だと思ってください。
その気持ちをもって一日一日頑張れば必ず道は開きます。
そして、周りが助けてくれます。
なので今、『サッカー選手になりたい』でもちょっと悩んでいる子供たち。
もう一回、明日から新しい気持ちでボールを蹴ってほしいなと思っています」

コンプレックスを持ちながらも、日本のトップへと上り詰め、チームを3度も日本一へと導いた男の言葉は
子供たちだけでなく、悩みを抱える大人たちをも奮い立たせる、ポジティブシンキングな“魔法のメッセージ”だった。

誰よりもまわりのことを考え、家族、チームメート、サポーター、誰からも愛されたレジェンド。
チームメートらに胴上げされ、スタジアムを1周しサポーターに挨拶。
最後はヒーローインタビューが行われるお立ち台に立ち、拡声器を手に持った。

「さよならは言いません。また会いましょう。ありがとうございました!」
18年間同じチームで戦い抜いた“一途な男”は、等々力の地に別れを告げることはなかった。

(執筆:フジテレビ 報道スポーツ部 村山尊弘)