君子豹変か

「我々は“アメリカ・ファースト” で、必死に頑張ることを約束します」

次期大統領就任が確実なバイデン氏が、トランプ大統領の十八番の“アメリカ・ファースト”(アメリカ第一)を盗用したかように口にした。

「我々は"アメリカ・ファースト"で頑張る」と発言したと伝えられるバイデン氏
「我々は"アメリカ・ファースト"で頑張る」と発言したと伝えられるバイデン氏
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ニューヨーク・タイムズ紙電子版2日に掲載された、著名なジャーナリストのトーマス・フリードマン氏のインタビュー記事に、引用されている。

発言は引用符で区切ってあり、録音を書き取ったもので間違いなさそうだ。かねてバイデン氏について心配されていた軽い認知症の影響で、心ならずも口にしてしまったのかとも考えたが、次のような発言の後半を見ると理路整然と“アメリカ・ファースト”を説いていることが分かる。

「私は、国内で大規模な投資を実現し、労働者のためになったことを確認できるまではどの国とも新しい貿易協定は結びません」

「アメリカ・ファースト」はトランプ大統領の十八番

トランプ大統領は「外国と妥協すると、工場を持ってゆかれて米国の労働者の職を奪割れる。その上彼らの製品が雪崩を打って輸入され、米国は貿易赤字が募るばかりだ。米国が再び偉大になるには“アメリカ・ファースト”しかない」と言っていたが、バイデン氏はことあるごとにこれを攻撃材料にしていた。

トランプ大統領の十八番だった「アメリカ・ファースト」
トランプ大統領の十八番だった「アメリカ・ファースト」

「アメリカ・ファーストは、トランプ政権下で米国を孤立化させた。我々の同盟国は危機に瀕している」(5月1日MSNBC放送での発言)

「我々はかつてなく世界で孤独な存在になってしまった。アメリカ・ファーストが米国を孤立させた」(10月15日ABC放送での発言)

「トランプ大統領は米国を取り巻く環境を激変させてしまった。アメリカ・ファーストはアメリカ一人ぼっちということだ」(11月25日NBC放送での発言)

バイデン氏は“アメリカ・ファースト”に代わって、国際社会との協調を外交の基本方針にすると言っていたので、ここへきて君子豹変したと思わざるを得ない。

米国のTPP復帰も希望薄

次期大統領就任が確実になり、各国首脳との協議も始めて外交が現実のものとなってきたときに「各国との協調」という美しい言葉では対応できないことが分かったのかもしれない。

あるいは、今回の選挙では民主党左派からの支援が大きな力になったので、労働者のために国際協調路線を棚上げしたのだろうか。

トランプ大統領が“アメリカ・ファースト”を理由に加入を拒否したTPP(環太平洋パートナーシップ協定)はバイデン政権で復帰も期待されていたが、それも期待薄になったようだ。

バイデン氏はとりあえず通商問題で“アメリカ・ファースト”を「頑張る」と言ったのだが、その理屈が外交や安全保障問題に転用されないという保証はない。

「バイデン氏の第一期政権は、トランプの第二期政権」

「ジョー(バイデン)の第一期政権は、トランプの第二期政権ということになる」

保守派の論客で、フォックス・ニュースのキャスターのグレッグ・ガットフェルド氏はこう皮肉を言った。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。