徐々に筋力が低下していく難病、筋ジストロフィーを患う長野県上田市の井出今日我さんです。難病と戦いながら電動車いすサッカーや講演活動など自分らしい生き方を実践し、目指すのは「共生社会の実現」です。
■「かけがえない」車いすサッカー
電動車いすに乗った選手たちがボールをつなぎ、シュート!
パラスポーツの「電動車いすサッカー」です。
1997年に結成された下諏訪町のチーム「FCクラッシャーズ」には、9人の選手が所属しています。
一際、大きな声を出しているのは井出今日我さん(36)です。
井出今日我さん:
「この競技には本当に夢があって、日本代表という道もあったり、自分にとって人生にかけがえのないものになってくるので、すごく魅力が多いかなと思っています」
■症状が進行…難病でも「自分らしく」
井出さんは全身の筋力が徐々に低下していく難病「筋ジストロフィー」を患っています。
症状は年齢とともに進行し、今、自由に動かせるのは首から上と指先だけです。
井出今日我さん:
「握力はもう本当に0に等しいし、足はもう全然、かかととか伸びないですし」
握力がない井出さんの車いすは、両手で動かす特別仕様。
できることは限られますが、「今日我」という名前の通り、一日一日を「自分らしく生きる」ことを貫いています。
井出今日我さん:
「両親がつけてくれた名前で、自分も気に入ってるんですけども、今日という日を一生懸命、精いっぱい、自分らしく生きてほしいという願いです」
■24時間支援を受けながら1人暮らし
井出さんは、今、上田市のアパートで一人暮らしをしています。
就寝時、息苦しい時は呼吸を補助する機械を装着―。
体が動かないため、日常生活を送る上で「介助は不可欠」です。
一人暮らしを始めた11年前から、「24時間の重度訪問介護」の支援を受けています。
食事の介助やトイレ、入浴など、生活に関わるほぼ全てをヘルパーがサポートしています。
ヘルパー:
「キウイもらうね」
井出今日我さん:
「11年経ちますけど、これ(一人暮らし)を始めるまでにはいろんな険しい道があって、そこを乗り越えてきた。悔しいっていう思いもありながら、楽しく今、人生を送っています」
■5歳で発症、成長と共に歩行困難に
井出さんは佐久市出身で、筋ジストロフィーを発症したのは5歳の頃。
成長とともに徐々に歩くのが困難になり、小学6年から車いす生活になりました。
井出今日我さん:
「どんどん体が進行していって、周りの人とは同じような動作ができなかったりとかして、どう自分を表現していいかわからない時期があったんですよね」
■人生を変えた登山への挑戦
周りの同級生との関係に悩んでいた井出さんを変えたのが、小海町に住む内田清司さんです。
高校2年生だった2006年。内田さんは、スイスとイタリアの国境にある標高4164メートルのブライトホルン登頂に、井出さんを誘いました。
内田清司さん(2006年):
「障害を持った人が自然を楽しめるような時代が、すぐそこまで来ていることが証明できるといいと思う」
井出今日我さん(当時高2):
「絶景を見ながら動くのはいい。皆さんと(景色が)見たいです、どうしても」
世界的なアルピニスト・野口健さんらと共に、ソリで引かれながら山頂を目指しましたが、登頂はかなわず。
しかしこれが人生を変える経験になりました。
井出今日我さん:
「一緒に内田さんと行動させてもらうことで、明らかな変化が生まれてきたんですよね、自分の中で。同級生にどう思われるんだろうとかって、そういった思いがあったんですけど、どう思われてもいいやと思って。自分のためにやろう。もう周りのこと気にせずにやれるようになったんですね」
■交渉の末に実現した1人暮らし
挑戦することの大切さを実感した井出さん。
その後、長野大学に進学して福祉を学び、目標にしたのが「一人暮らし」です。
同じように重い障害を持つ人のロールモデルになろうと、上田市と交渉を繰り返し、24時間の重度訪問介護の支援が認められました。
井出今日我さん:
「いろんな選択肢を自由に選べるっていうのが大事だと思うんですよね。障害あるんだから施設だよ、だけではなくて。それは本人が決めることだから、社会が決めることじゃないよ、みたいなところになっていけばいいなって」
■「諦めない未来」共生社会の実現を
井出今日我さん:
「皆さん、こんにちはー」
生活費を確保するため、井出さんは仕事として講演活動を行っています。
語るのは「自らの人生」です。
井出今日我さん:
「(ブライトホルンは)100メートルくらいの登山で終わってしまったんですけど、自分たちの頂上から見た景色は本当にきれいだったんですよね、輝いていたんです。今、思うと人生は登山と全く一緒なんじゃないかって思うようになったんです」
井出さんが訴えたのは、誰もが自分らしく生きられる「共生社会」の実現です。
井出さん:
「障害を持った人は不幸しか生み出さない、そんなわけないんだ。それは当事者の皆さんが、私自身が壊していかなきゃいけない。より多くの人が自分をあきらめない未来というのをつくっていかなくてはいけない」
市内から来た人:
「私も障害を持っている子どもがいるんですが、ためになる話を聞かせていただきました」
「(健常者、障害者)ともにこの世の中を歩んでいこうと、本当に素晴らしいことだと思う」
井出今日我さん:
「内田さんから教えてもらった生き方を、今度は若い世代に伝えていくロールモデルの使命もあるので、これはどういう形であっても続けたいなと思う。自分にしかやれないことだと思っているので」
■全国2連覇!強豪チームで新たな役割
井出さんが電動車いすサッカーを始めたのは、登山に挑戦したすぐ後で、20年近く続けています。
実は、井出さんが所属する「FCクラッシャーズ」は全国大会2連覇中の強豪チーム。
井出さんはかつては主力選手でしたが、病気が進行し、今は「縁の下の力持ち」としてチームを支えています。
FCクラッシャーズ・森山一樹さん:
「クレバーでとても頭が良くてすごくいい選手だと思います」
FCクラッシャーズ・飯島洸洋キャプテン:
「チームに欠かせない選手ですので、選手として以外でもいろんな活動に熱心ですし、尊敬できる、すごいなと思える方です」
FCクラッシャーズ・三崎賢治監督:
「第一線でずっと活躍していた選手ですけれども、障害の程度の進み方によってちょっと動きにくくなってきている。本人の中にも葛藤としてあるかなと思います、でも、その中でも自分が今できること、チームに貢献できることというのをすごく考えられる選手ですので、頼りになりますし、これからもすごく期待しています」
■「自分らしく生きる姿」を発信
11月14日に行われる全国大会では、前人未到の3連覇に挑みます。
井出今日我さん:
「絶対何が何でも3連覇して、前人未到のものにして、さらなる4連覇、5連覇、さらに頂上を目指していきたいです」
生きがいのサッカーに、一人暮らしや講演活動も―。
障害の有無で区別されない共生社会の実現を目指し、井出さんはこれからも「自分らしく生きる姿」を発信していく考えです。
井出今日我さん:
「(健常者に)伝えたいのは、こういう人も世の中にいますっていうことと、勝手に、あ、不幸だとか、かわいそうとかじゃなくて、もっとその人の生き方とかね、思いっていうのを感じてもらいたいなっていうのはありますね。当事者(障害者)の方には、こういった生活があるよということだったり、どんどんチャレンジしていっていいんだよっていうことだったり、障害あるからあきらめるんじゃなくて、できることもいっぱいありますから、何かあったら自分を見て、井出今日我を見てっていう感じですね」
