前後編の後編 前編はこちら
宮城県の村井嘉浩知事が、6期目の最初の1年が間もなく終わろうという2026年10月、県庁の特別応接室で、これまでの歩みと残りの任期にかける思いを語った。仙台放送の単独インタビューに応じた、知事自身の言葉を前後編でお届けする。
後編では、テーマに掲げる「富県みやぎ」について深堀した。
21年前、「10兆円は無理」と言われた
テーマとして掲げている「富県みやぎ」について、私が知事になった21年前、県内総生産は8兆5000億円でした。それを10兆円にすると言ったとき、みんなに「できない」と言われたのです。
当時の経済担当の部長が飛んできて、絶対に無理だと言いました。トヨタ自動車も東京エレクトロンもない時代です。岩手県にある関東自動車、いまのトヨタ自動車岩手工場が2つないとできない、と。
私は「2つでいいんですか」と言い返しました。すると部長は、この人は何も分かっていないという顔で帰っていかれました。今でもよく覚えています。
それでも県庁職員が一丸となって頑張り、10兆円を達成しました。
ただ、これが到達点かというと、決してそうではありません。人口が減れば、1人ひとりの購買力が落ちるからです。同じ収入のままなら、人口を掛けた全体の購買力は落ちてしまいます。
だから、1人ひとりの所得を上げなければなりません。政治的な力で上げるのではなく、宮城の経済を良くして、みなさんの所得が上がるようにする。1人の使えるお金が増えれば、人数が減っても購買力は落ちません。これが私の考える富県の考え方です。
常に10兆円、そして11兆円へ

県内総生産は、ゼロからどれだけ価値を生み出したかを示す、一番分かりやすい指標です。8兆円から10兆円にしましたが、景気が悪くなって落ち込むのでは駄目です。常に10兆円、できれば11兆円を目指さなければなりません。
そのための仕組みとして、半導体などの企業は非常に大きな効果をもたらすと思います。ただ、それだけでは若い女性が住み続けてくれません。自分もやってみたいと思える職場を、これから作っていきたいのです。
何パーセント達成したかと聞かれれば、目標は達成したものの、十分だとは思っていません。次の知事にバトンタッチするときには、いい形で渡したいのです。
11兆円と、言ってみたいですね。高らかに。この企業がこうなれば11兆円を目指せる、というところまで言って辞めたいものです。
愛知や広島とは歴史が違う。15年でここまで来た
トヨタのある愛知県や、マツダのある広島県と比べて、経済波及効果が鈍いのではないか、という指摘もあります。
しかし、愛知県や九州、広島とは歴史がまったく違います。宮城は東日本大震災以降、稼働が始まって15年弱です。トヨタにしても東京エレクトロンにしても、そこからここまで来たことを考えていただきたいのです。
一社一社をつなぐわけにはいきませんので、自動車産業振興協議会と高度電子機械産業振興協議会を作っています。「この指とまれ」でやりたい企業に集まっていただき、技術商談会で直接つなげたり、技術力を向上させたり、県の研究施設と一緒に新商品の開発を手伝ったりしています。
やる気のある会社を、県は全面的に応援します。しかも一社ずつではなく、ある程度まとまって、同じ条件で平等に支援し、底上げしていきたい。このまま頑張れば、波及効果はかなり出てくると思います。
特効薬はない。トップランナーを育てる

地元企業の稼ぐ力やマインドを高めるうえで、これをやればうまくいくという特効薬はないと思います。
まず、やる気のあるところがしっかりやる。苦労もされますが、トップランナーを育てるのです。そこがうまくいけば、ああやればうまくいくのだと、みなさんが少しずつ分かってきます。
自動車でも半導体でも、最初に声をかけたときは、なかなか乗ってきませんでした。技術も高くなければいけないし、価格も厳しい、うちのような会社が、と言われたのです。
けれども、何社かが一生懸命取り組み、いまでは受注力が相当増え、自動車だけでなく半導体にも広がった企業も出てきました。やればできるのです。
やる気のないところにやれと言っても、サポートのしようがありません。みなさんが自分たちで立ち上がれるようにすることが重要です。
そうして全体の付加価値を上げ、所得が上がれば、飲んだり食べたり、物を買ったりしてくれる人が増えます。宮城は第三次産業が中心の経済ですから、人口減少で急降下するところを下支えできます。こうしなければ、宮城の経済は成り立たない。そう思って、20年前から職員に同じことを何度も言い、ここまで一緒に頑張ってきました。
東北の核として、日本のモデルを作る

東北は、日本の中で最も人口減少が著しい地域です。その中で宮城まで衰退すれば、東北全体がさらに落ち込んでしまいます。
私は、日本のモデルを作ると同時に、東北の中の核を作りたい。東北の衰退を少しでも抑え、宮城が他の県を少しでも支えられる体制を、残り3年で作っていきたいと思っています。
国際化は、不満ではなくチャンスと捉える

日本の人口が減るなか、日本人の力だけではとても持ちません。減り方があまりに急激で、特に購買力のある若い人たちが減っているからです。
観光ではインバウンドを呼び込みます。いまは台湾や韓国など、アジアからたくさんのお客様が来てくださっています。それに加えて、たくさんお金を使い、長く滞在される欧米豪のお客様をどう呼ぶか、仕掛けを始めました。
東日本大震災以降、中国は宮城のものを受け入れてくれません。しかし、不満ばかり言っても仕方がない。買ってくれないなら、ほかに売りに行こうと、メキシコや欧米に売りに行き、新たな市場を開拓しています。いままで輸出しなかったものも、輸出する工夫をしていきます。
円高の時、製造業のみなさんは非常に苦労されました。1ドル70円でも75円でも会社が倒れない程度に鍛えられたおかげで、いま160円になって、そうした企業は大きな利益を上げています。苦しいときは、自分たちを鍛えるチャンスだと思うべきです。
輸出では、宮城の農産物と水産物が挑戦できると思います。冷凍技術がすごく発達していますから、十分に挑戦できるでしょう。
外国人の働き手、技能実習生や高度人材も含め、人手が足りない業界はたくさんあります。そうした現場で働いていただけるようにしていきたいのです。
外国人材をめぐる姿勢は変わらない
知事選を経て、国際化についてのトーンが下がるのではないか。下がりません。間違ったことは何ひとつ言っていないからです。
もちろん、問題を起こすような外国人は駄目です。でも、日本人のためになり、日本のためになり、来てくれた人の国のためにも、その人のためにもなる。みんながウィンウィンになる政策は、どんどん進めるべきです。ひるむ必要は何もありません。
後継は県民が決める。残り3年を総仕上げに
選挙のときに「今期限り」と申し上げましたので、あと3年で次の人にバトンタッチしたいと考えています。
後継は、とよく聞かれますが、会社ではありませんから、私が決めることではありません。県民のみなさんが決めることです。
辞めるとはっきり申し上げていますので、われこそはと思う人は、いまから準備をして、自分の思うタイミングで手を挙げて活動なさればいいと思います。私が「この人を」と言うことはありません。選挙になれば、この人を知事にしたいと思う人を応援するかもしれませんが、今の段階では全く考えていません。
どんな人に、と聞かれれば、これまで宮城全体、東北全体のことを考えながら、この路線でやってきましたので、人口減少や少子化という、さらに大きくなる課題にしっかり楔を打てる人が現れてほしいですね。
資質について偉そうなことは申し上げません。優秀な方は、いっぱいいると思います。
「村井が当選してよかった」と、3年後に思ってもらうために

残り3年となりました。全力で、この任期を総仕上げしていきます。
去年の選挙で「ああ、村井が当選してよかったな」と、3年後に県民のみなさんに思ってもらえるようにしたい。それが私の決意です。
おかげさまで、体も完全に健康になりました。健康面のご心配は不要です。全力で頑張ってまいります。

