仙台市のバス事業が、岐路に立たされている。市営バスは6年連続で全路線が赤字となる中、深刻な運転士不足が追い打ちをかける。同じく地域の足として事業を展開する宮城交通でも、2027年度から4路線・92便の廃止が決まった。事業としての課題も山積みであるなか、専門家は問題の根幹が「まちづくり」にもあると指摘する。地域に必要不可欠とも言えるバス事業の今の環境に迫る。
免許ゼロから育てる教習生制度
高橋柾さん(25)は、2026年8月に採用された、仙台市営バスの「運転士教習生」だ。
オートマ車限定の普通免許しか持っていない高橋さんは、交通局の費用負担で大型二種免許の取得を目指している。この日は先輩から、タイヤやエンジン、車内設備の点検手順を学んでいた。
「ギアを変えるときにレバーも使うし、アクセルも踏む、クラッチも踏む。体で覚えるしかないです」と高橋さんは話す。
仙台市出身の高橋さんは、高校卒業後に関東のテーマパークへ就職した。しかし5年後、病気の父親を看病するために地元へ戻り、市バスの運転士募集を知った。「地元で人の暮らしに役立つ仕事がしたい。自分自身が楽しく働いて、その姿を見た人が憧れるような運転士になりたい」と語る。
この「運転士教習生」制度は、仙台市交通局が10年前から始めたもので、これまでに190人以上が育成されてきた。
運転士は10年で419人から385人へ 採用競争も激化

教習生制度の背景にあるのは、業界全体を覆う深刻な運転士不足だ。日本バス協会の試算によれば、2030年には全国で3万6000人のバス運転士が不足するとされている。
原因は複数重なっている。少子化などにより大型二種免許の保有者数(20~64歳)が20年間で約4割減少したこと、そして「2024年問題」だ。働き方改革関連でドライバーの労働時間の上限が厳格化され、より多くの運転士が必要になった。
仙台市交通局総務課の佐藤裕大課長は「免許を最初から持っている方のみを採用しようとすると、どうしても人材の奪い合いになってしまう」と話す。
待遇や採用制度の見直し、運転体験会など様々な取り組みを進めてきたが、運転士数はこの10年で419人から385人へと減少した。今後5年間で150人ほどの採用が必要と見込まれる一方、「経営と人材確保のバランスをどう取るかが非常に難しい」と佐藤課長は打ち明ける。
宮城交通は4路線・92便を廃止へ

状況が深刻なのは民間事業も同様だ。宮城交通は運転士不足を理由に、仙台圏で展開する泉桜ヶ丘線・茂庭台線・南富谷サニータウン線・太白八木山線の4路線、合わせて92便を2027年度から廃止すると発表した。
宮城交通は「採用活動を行ってきたが、状況は悪化の一途をたどり、現在の輸送力を維持することが困難」とコメントしている。
自動運転、そして「まちづくり」の問題
解決策の一つとして期待されるのが自動運転だ。仙台市も導入に向けた実証を進めているが、現段階では「部分運転自動化」にとどまり、緊急時の対応として運転士の乗車が依然として必要とされている。
地域交通に詳しい宮城大学の徳永幸之特任教授は「ドライバー不足という点では自動運転に期待すべき点はあるが、それ以前にバス利用者を維持・増加できるかどうかが難しい」と指摘する。
さらに徳永教授は、郊外への人口拡散を背景に病院や学校が路線と結びつかない場所に立地してきた「まちづくり」の課題を挙げる。
宮城大学 徳永幸之特任教授:
公共交通を軸に、沿線に行きたい施設があるというまちづくりになっていかないと、公共交通は厳しい。まちがどうあるべきか、その中で交通がどうあるべきかを今一度考えていく必要がある。
高橋さんのような若い教習生が育ち、自動運転の技術が進み、まちの形が変わっていく。仙台の「地域の足」を守るため、模索が続いていく。

