麻酔を使って出産時の痛みを和らげる無痛分娩が、全国的に広がりをみせている。一方、宮城県内では分娩全体のわずか5パーセントにとどまっている。宮城県は今年度から東北大学病院と連携した新たなモデル事業を始めた。「安全が何よりも大事」という考えのもと、取り組みの要となっているのが、人材の確保である。
無痛分娩とはどのようなものか

宮城県富谷市にある新富谷S・Sレディースクリニックでは、出産の予定日まで1か月をきった女性が健診に訪れていた。この女性が選んだのは、自然分娩ではなく無痛分娩である。
「初めてのお産から無痛分娩が選択できたので、チャレンジしてみようかと」
産まれてからも育児は続くこと、家族や母から出産は大変だったと聞いていることが、選択の背景にあるという。
無痛分娩は、麻酔を使って痛みを和らげることを目的とした出産方法である。具体的には、背中から針を刺し、カテーテルという細い管から麻酔薬を注入する。下半身に麻酔をきかせることで、痛みを和らげる仕組みだ。
新富谷S・Sレディースクリニック 櫻田昂大副院長:
陣痛の痛みを和らげ、お母さんの緊張をほぐす。それにより落ち着いて過度な血圧上昇を抑えながら、分娩にのぞめることがメリット。
「痛みを経験したこともあるので」 2人目で無痛分娩を選んだ女性
このクリニックでは去年12月から無痛分娩を行っている。9月に2人目を無痛分娩で出産した女性は、メリットとデメリットの説明を聞いたうえで決めたという。
「痛みを経験したこともあるので、産後の回復が違うかなという希望も込めて選択しました」
痛みが和らぐことで不安が取り除かれ、出産は楽しい思い出になったそうだ。産後の回復も早かったという。
「出産翌日の痛みもほとんどないし、普通に歩けるし、回復はすごく早い。(無痛分娩を選んで)よかったと思う」
同クリニックでは、無痛分娩を選ぶと自然分娩より15万円の追加費用がかかる。それでも、約半数が無痛分娩で出産しているという。
全国では分娩の13.8%、県内の対応施設は3割

全国で分娩全体の数が減る中、無痛分娩の件数は年々増えている。日本産婦人科医会によると、2024年は分娩全体の13.8%を占め、2019年と比べて2.8倍ほどに増加した。
一方、宮城県内では全体のわずか5%ほどで、無痛分娩に対応している施設は全体の3割程度にとどまる。無痛分娩は、麻酔が誤った場所に入るなどした場合、重篤なものも含め合併症などのリスクが伴う。安全性を確保するには、十分な知識を持った医師やスタッフが不可欠である。
県と東北大学病院が新モデル事業

こうした状況を受け、県は無痛分娩のニーズの高まりに応えて安全な提供体制を整えるため、今年度から東北大学病院と連携し、新たなモデル事業を始めた。
研修では、東北大学病院の経験豊富な麻酔科医などが、無痛分娩の対応についてレクチャーを行う。
この日は県内の公立病院の産婦人科医などが参加し、麻酔中に妊婦が急変した場面を想定し、実践的な対応を学んだ。
麻酔の使用は、医師免許があれば必ずしも麻酔科医でなくても対応できる。それでも、もしもの場合にはより専門的な知識が問われるため、こうした研修の意味は非常に大きいという。
参加した産婦人科医:
無痛分娩は安全のうえで成り立っている医療。急変が起こる前の症状やバイタルサインの変化などにどうやって気付いていくか、どう対応していくか、改めて確認できて良かった。
課題は麻酔を担当する人材の確保
東北大学病院産婦人科の富田芙弥助教は、現場の課題を指摘する。
クリニックなどの一次施設では、産婦人科の医師が麻酔を担当することが多い。しかし、普段の産婦人科診療を行う人手が別に必要になるため、無痛分娩のための麻酔担当者や麻酔科医の確保が、宮城県ではこれまで難しかったという。
東北大学病院産婦人科 富田芙弥助教:
シミュレーション事業を通して、自分の施設で安全性を高めるにはどうしたらいいのかを考えてもらえるきっかけになるといい。
「選べる」環境を目指して

県と東北大学病院は、安全な無痛分娩を行える人材の確保が必要だと考えている。
東北大学病院産婦人科 富田芙弥助教:
無痛分娩をするしないは、最終的には本人の希望になると思うが、施設がないのでできない、とならず、安全性が担保された施設があって、無痛分娩を希望する人が選べるのが理想の環境。
ニーズが高まる中、安全を最優先に、希望する人が選べる体制をどう築いていくのか。未来に向けた取り組みは始まったばかりである。

