前後編の前編 後編はこちら
「本当のことを言うと、私は5期で辞めようかなと思っていたんです」宮城県の村井嘉浩知事は、そう切り出した。6期目の最初の1年が間もなく終わろうという2026年10月、県庁の特別応接室で、これまでの歩みと残りの任期にかける思いを語った。仙台放送の単独インタビューに応じた知事自身の言葉を、前後編でお届けする。
前編では、6期目最初の1年の振り返りと、若者のニーズに合わせた企業の誘致について取り上げる。
6期目の1年目は、集大成に向けた準備期間
この1年を振り返ると、5期目からやってきたことをそのまま継続してきた1年でした。県庁職員のみなさんも、おそらく仕事はしやすかったのではないかと思います。
6期目の1年目は、まさに村井県政の集大成という位置づけです。しっかりと選挙公約を果たせるよう、その準備期間だったと捉えていただきたいです。
病気療養期間も仕事に大きな穴は空けなかった下垂体腺腫という病気は、実は5、6年前から分かっていたんです。
重い症状があるわけでも、すぐに悪化するわけでもないということで、お医者さんと相談して、年に1回検査だけをして、治療はしてこなかったんです。
ただ、ずっと置いておくと、血圧が上がったり、大腸がんになりやすかったりするということで、お医者さんのアドバイスもあって、手術をしました。
その影響で、1ヶ月半ほど仕事ができませんでしたけれど、副知事が職務代理者として、私の指示したことをしっかりやってくれました。仕事に大きな穴は空いていないと思っています。
「5期で辞めようと」 やりきれなかったものを自分の責任で
本当のことを言うと、私は5期で辞めようかなと思っていたんです。
どうしても5期で終わらなかったもの、日赤病院と県立がんセンターの統合という病院の再編。精神医療センターの新築。半導体など大きな企業の誘致。宮城県立劇場の建設。これらは5期の中でやりきれませんでした。
これは自分の責任でしっかりやらなければと思い、6期目の選挙に臨んだのです。
すべてが6期の中で終わるわけではないですけれども、誰が知事になっても止まらない形にもっていけたらと思っています。
若者や女性が宮城に残れる職場を

宮城県には大学や専門学校がたくさんあり、若い人が大勢住んでくれています。ところが、卒業すると多くの方が県外に出ていってしまう。
実際に会って話をすると、宮城から出たいわけではない。残りたいけれど、気に入った職場がない、働く場所がない。多くの人がそうおっしゃいます。
これまで、ものづくり産業に一生懸命取り組んできました。男性の就職先としては比較的しっかり定着したと思います。しかし、特に若い女性は、なかなか働く場所がありませんでした。
だからこそ、若い女性が働ける場所を作らなければならないと考えました。そうした声を拾いながら、いまさまざまなプロジェクトを進めています。
合計特殊出生率が低いとよく言われます。(2025年度 全国ワースト2位)
もちろん大事な指標ですけれども、率がいくら高くても、子どもを産み育てる世代が少なければ、子どもは減ってしまいます。
たとえば、子どもを産める女性が1000人いて、1人ずつ産めば、出生率は1でも子どもは1000人増えます。一方、女性が10人しかいなくて、3人ずつ産めば、出生率は3でも子どもは30人にしか増えません。
ですから、子どもを産み育てられる世代に、できるだけ宮城に住み続けていただくことが、人口減少・少子化対策では非常に重要なのです。
その基本となるのが、若い人たち、そして若い女性のみなさんです。そのニーズに合わせた施策を進めようと、いまプロジェクトを始めています。
半導体は川上から、コスメ・健康は川下から
半導体とコスメ・健康関連産業は、どちらも若者や女性にとって憧れのある職場だと思います。ただ、アプローチはまったく違います。
半導体は川上から攻めます。マザー工場と呼ばれる大きな工場が来れば、いろいろなサプライヤーが集積するでしょう。トヨタ自動車東日本を誘致したのと同じ作戦です。
一方、コスメ・健康関連は川下からです。大きな企業を持ってくるのではなく、宮城がもともと持っているすばらしい素材を花開かせ、さまざまな企業とマッチングさせて、地場産業を大きくしていく。合わせて、外から持ってこられるなら持ってくる。両面でやっていくということです。
半導体誘致は「まだ何も決まっていない」
半導体については、まだ具体的に何も決まっていません。
宮城は以前、台湾のPSMCの誘致にいったん成功しましたが、先方が断念されました。ただ、災い転じてと言いますか、日本の中に宮城という場所があり、半導体企業に非常に適しているのだと、全世界にPRできたのです。
それをベースに、半導体の組織を解散せず残し、いまは特定の企業だけでなく、世界的な半導体企業のいろいろなところにアプローチしています。関心を持って現地を見てくださったり、求められて資料を提出したりしています。具体的な結果はまだ出ていません。
世界的に有名な半導体企業には、すべてアプローチしています。関心の強弱にはばらつきがありますが、まったく関心がないところはありません。それだけ需要があるということでしょう。
東北大学の技術力が世界的に評価されていることも、強みです。特に半導体の研究レベルは高い。具体的にこの企業、という期待先はありません。
半導体業界は動きが早く、意思決定も早い。ですから、これからどうなるか、私にも分かりません。
住民と一緒に、良いものを作る
先方には、宮城の良さを一生懸命PRしています。住みやすさ、環境の良さ、県民性、立地の優位性です。東京から1時間30分で、港も空港もインターチェンジも揃っています。
ただ、大きな企業が来ればそれで済むわけではありません。来ていただいたのに、地元のみなさんが大反対では、身も蓋もないからです。
私たちだけではできませんので、市町村長さんたちと協力しながら、来るとなれば、どういう形でどんな影響が出るのか、住民のみなさんにしっかり説明したいと思っています。協力しながら、共に良いものを作っていく。それが基本です。
コスメは若手職員の提案から始まった
実は、コスメ・健康関連は、職員からの提案です。
若い人や女性が宮城に定着するために、県は何に取り組めばいいか。それを若手職員に考えてもらい、上がってきたのです。
いまは若手職員に任せ、プロジェクトを自分たちで進めてもらっています。私は積極的に予算をつける立場です。
7月には県外のコスメ関係の企業のみなさんに来ていただき、宮城の天然素材に触れてもらい、マッチングをしました。11月には、業界のみなさんが宮城の魅力をどう感じているのか、しっかり意見を聞こうと、宮城ビューティーセッションを開催します。
正直、私からすると畑違いで、やや戸惑いもあります。でも、やってみると、外から来た方々が「宮城にはこんないいものがあるんですね、一緒にやってみましょうか」と言ってくださるようになりました。
先日、大阪の阿倍野区にあるあべのハルカスに行って商品を置きましたら、あべのハルカスの会長さんが、これ素晴らしいねと。あべのハルカスと一緒に連携して、オリジナルの商品をこの素材を使って作って、大阪で売ってもいいんじゃないのかななんてことおっしゃっていた。実現するかどうか分かりませんけれど。まあそういうような形で、会社が立ち上がって商品を作って、それをどんどん売り出すというのもありますけれど、ただ、いい素材があるなら、OEMで作って別ブランドで売り、利益は宮城に返ってくる仕組みもできるはずです。そうした仕事を求めて、関心のある女性が宮城で働いてくれれば、望んだ通りの結果になります。
すぐに大きな会社を作るのではなく、女性が働いてみたいと思う職場を作ることが目的です。その意味で、手応えは感じつつあります。
アジャイルで進める 役所らしからぬやり方で

こうした事業は、まだ手をつけたばかりです。残りの3年間で、しっかり軌道に乗せたいと考えています。
やりながら、また新しいアイデアが出てくるでしょう。若い職員や民間のみなさんのアイデアも、どんどん取り入れていきます。
役所は、計画ができて予算がついてからしか動けないと、よく言われます。しかし、この問題にそんな余裕はありません。
だから、いわゆるアジャイルです。まずやってみて、壁にぶつかったら止まって考える。そしてまた前に進み、壁にぶつかったら右か左かを考える。そうしながら、一番いい施策を探っていきたいのです。海外企業の精神とも、同じだと思います。

