秋は冬眠を前にクマが活発に行動する季節だ。秋田県内では2026年、クマの目撃件数が前年を大きく下回っている。背景には山に十分な餌があることが挙げられるが、人身被害は依然として発生している。なぜ2026年は出没が減ったのか。そして、私たちは何に注意すべきなのか。クマ研究の専門家に聞いた。
目撃件数は大幅減 前年の「異常出没」と対照的
東北森林管理局によると、2026年の秋田県内のブナの実の作況は「並作」。一方で、2025年は「大凶作」だった。
その差は目撃件数にも表れている。

2026年9月のクマの目撃件数は100件だったのに対し、2025年は900件超。10月1日から20日までを比較すると、2026年の55件に対し、2025年は3000件を超えており、前年がまさに「異常出没」と呼べる状況だったことが分かる。
こうした状況について、東京農業大学の山﨑晃司名誉教授は「秋が始まって途中なので断定はできないが、これまでの9月以降の推移を見ていると非常に落ち着いている」と分析する。
その理由について、「昨秋と違い、ブナやミズナラ、コナラといった堅果類が山の中で並から豊作。クマの食べ物が十分にあるということが大きい」と説明する。
出没は減少傾向でも被害はなくならない
目撃件数の減少を見れば、「今年は安心」と感じるかもしれない。しかし、人身被害のリスクがなくなったわけではない。
10月17日には大仙市の畑で作業をしていた80代の男性がクマに襲われた。現場には3頭のクマが現れ、親グマとみられる個体による被害だった。
山﨑名誉教授は、「人の生活圏で農作物や柿、栗などの味を覚えているクマがいるので、そういうクマに対する注意が必要」と指摘する。
さらに警戒すべきなのは、市街地に現れるクマの存在だ。
「人に慣れている個体がいるのなら、そのようなクマは山の中のクマとは違った人に対する振る舞いをするので注意しなければいけない」とした上で、「クマは街中で人とあった時、山の中であう以上にびっくりする。自分を守る攻撃が過剰になる可能性もある」と話す。
出没が落ち着いた年であっても事故がなくなるわけではない。
山﨑名誉教授は、「人身事故はクマの数の問題だけではない。一頭一頭のクマの問題が出てくる。落ち着いた年だから事故が起きないというわけではない」と警鐘を鳴らす。
豊作の年は冬眠が遅くなる可能性も
クマの行動を左右するのは気温ではなく、餌の量だという。
暖冬傾向が予想される今シーズンについても、山﨑名誉教授は「気温自体は冬眠に入る時期に関係しない。寒いから寝るのではなく、食べ物がないから寝る」と説明する。
むしろ2026年は木の実が豊富なため、「木の実のなりが良いとクマはいつまでも冬眠しない。もしかすると11月から12月までクマの動きが続く可能性が高い」とみている。
目撃件数は少なくても、例年より長い期間にわたって警戒が必要になるかもしれない。
背景に過疎化と高齢化 広がるクマの行動範囲
クマの出没は、木の実の豊凶だけでは説明できない。
山﨑名誉教授が「クマが人里に降りてくる一番の大きな理由」として挙げるのが、中山間地域の過疎化と高齢化だ。
「山の麓辺りは人がいなくなっている。いてもおじいさんやおばあさんしかいない。しかも農地は放棄され、そこが森に返っている。要するにクマが利用できる範囲が広がっている」と語る。
人が管理していた場所が次第に自然へ戻ることで、人とクマの生活圏の境界が曖昧になっているのだ。
また、かつて秋田では、マタギがクマを追い払ったり捕獲したりすることで、人里との境界を保ってきた。しかし、その担い手も減少している。
山﨑名誉教授は、「秋田のある地方であればマタギがいて、クマを積極的に捕ったり、あるいは追い払ったりできた。今はもうできない。マタギですらどんどんグループの人数が減り、高齢化しているのが現状」と指摘する。
その上で、「昔はできたからといって、そこに今もすがるのは無理がある。新しい仕組みづくりをしなければいけない」と訴える。
個人の対策と地域ぐるみの取り組みを
山﨑名誉教授は、クマを寄せ付けないために「音の鳴るものを携帯する」「生ごみを適切に管理する」「柿や栗などクマを誘引するものを放置しない」といった基本的な対策の徹底を呼びかける。
さらに、電気柵の設置や耕作放棄地の管理、放置された果樹の処理など、地域全体で環境を整えていくことも欠かせないと指摘する。
来春は「飢えた状態で出てくる可能性は低い」
来春については、今秋に十分な栄養を蓄えたクマが多いとみられ、山﨑名誉教授は「冬眠明け直後から活発に動き回る状況にはなりにくい」との見方を示す。

一方で、「木の実が豊作だと子グマが増える」との説については、木の実の豊凶と子の生存率を直接結び付ける科学的データはないと説明する。
2026年は前年のような異常出没にはなっていない。それでも、人とクマの距離が近づく社会環境は変わっていない。
山の中でも街中でも、クマと遭遇する可能性は誰にでもある。そんな前提に立ちながら、日々の備えを続けることが求められている。
(秋田テレビ)

