全国でクマによる人的被害が後を絶たない。2025年は過去最多の200件を超え、13人が命を落とした。日々のニュースでは、駆除された頭数や発砲数、けが人の有無は伝えられるが、現場の最前線に立つ猟師たちの思いが語られることはない。猟師に半年間、密着しカメラを向けると、見えてきたのは引き金を引く覚悟や葛藤だった。さらに、国がクマを保護の対象から個体数管理の対象としたことで、猟師の負担は増している。
「30発でも50発でも撃ちましたよ」重要視するのは住民の安全確保
森林が約8割を占める福井・勝山市の市街地に2025年10月、親子のクマ2頭が出没した。白昼にクマが身を潜めたのは、こども園の真裏にある民家の庭。園内では子供たちが身を寄せ合い、周囲には住宅街が広がる―絶対に失敗が許されない状況で、県内初の緊急銃猟が実施された。
この現場で指揮を執ったのが地元猟友会の会長、上弥吉さん(76歳)だ。2頭を駆除するのに発砲したのは、12発。これに対しSNSなどでは「多すぎる」と批判の声が上がった。
上さんはその経緯を次のように語る。「木が生えとって、クマの体が丸っぽくて見えんかったんや。どこが尻か頭か分からんもんで『撃ったらだめ』って言うて」。10分ほど待ち、クマの背中が見えた瞬間に発砲した。
「背骨を撃ち抜いたらどんな動物でも後ろ足が動かんようになるんや」。しかしクマは暴れ続け、周囲から「まだ動く」と声が掛かるたびに撃ち続けた。
「12発も撃って恥ずかしくないんかって言われたけども、これでいいんや。一発で止められない状況もありますよ。二次被害、三次被害を食い止めるためなら、どんなことでもしますよ。だから私は30発であろうと50発であろうと、撃ちましたよ」
住民の安全を最優先にした、現場の猟師にしかできない判断だった。この件を含め、勝山市では2025年、緊急銃猟が3回実施されたが、上さんはそのすべてで指揮を執った。
心臓が半分ちぎれても100メートル走る…クマの生命力
勝山市の山麓に生まれた上さんにとって、猟は幼い頃から身近なものだった。「俺も20歳になったら銃持つんや、ってね」兄弟たちと野山でウサギを捕まえては皆で分け合って食べた。念願の狩猟免許を取得してから半世紀余り、これまで仕留めた獲物は数知れない。
中でも忘れられない経験がある。向かって来たクマの頭が見えなかったため、心臓を狙って撃ち込んだ。だがクマはそのまま100メートル以上走り続けた。
後に解体してみると「心臓の半分ほどが弾でちぎれて、なかった」。それでもなお「100数十メートルは走った」という。それがクマという生き物の底知れない生命力だ。
70代も後半になり、上さんの背骨はC字型に曲がり、関節は各所で欠けている。補聴器をつけなければ会話もままならない。
冬季の猟では、重たいライフルを背負って雪山に入り、仲間についていけなくなり引き返すことも。その背中には、老いと向き合いながらも山に向かい続ける猟師の葛藤が滲んでいた。
「1から10までおんぶに抱っこでは…」負担増す猟友会
クマが冬眠を終える3月になると、上さんらは毎年、春クマ猟に出かける。急増する人身被害に対応するため、国は2年前、クマを保護の対象から管理へと方針を転換。捕獲の強化に乗り出そうと緊急銃猟を法的に整備した。
全国で猟友会会員が激減、高齢化も進む
農作物の鳥獣被害が深刻な南越前町では、4年前に県内で初めてガバメントハンターを採用した。町全体でシカの年間捕獲目標数は4000頭。 つまり、1日10頭以上を捕獲する必要がある。
こうした活動にもかかわらず、シカやイノシシは一向に減らない。 さらにクマの場合は経験が求められるため、猟友会の立ち会いなしでは撃てない。 ベテラン猟師への依存が続いているのだ。
福井県内で2025年度に捕獲されたクマは163頭。2026年度の目標は210頭。 猟友会は山での捕獲作業に加え、市街地へのクマの出没が増えると、おのずと出動回数も増加し、負担は増すばかりだ。
「勘違いしていると思うのは、クマが出たら猟友会の会員が対応してくれるっていう考え方がおかしいんですよ」上さんはこう訴える。
「猟友会って趣味の団体ですから、はっきり言って悪いんだけど、拒否権あるんよ、行かなくてもいいんよ?市やら県やら警察官はそんな訳にはいかんでしょう。 だったら自分らでもある程度の対応をして、その足らん分を猟友会に補えというんなら、地元の事やから協力させてもらう。だけど1から10までおんぶに抱っこでは…こんなこと、あと何年できるんや」
全国の猟友会に所属する猟師は、50年前と比べ85%も激減。 60歳以上が約7割と危機的状況だ。
かつてクマは、肉はもとより胃や毛皮など1頭が数百万円で売られていたという。しかし「いまは金にならんから誰もやろうとしない。山奥行って穴の中からクマを引きずり出して…やらんわね。だからクマの数は増えてきたんや」
猟は、クマを獲るのだけが目的じゃないと語る上さん。「獲れりゃ獲れるに越したことないけども、獲れなくてもクマが人間に銃で脅されて、人間は怖いもんやってさえ分かれば、人間の近くへ来ないようになるから」
上さん自身は「山奥にいて人里に出て来なければ、クマはいくらいてもいい」と考えている。撃つ楽しみを知りながらも「かわいそうだから山に帰って欲しいとも思う」と葛藤を口にする。

日々流れるニュースでは語られることのない猟師の生きざまが、そこにあった。
私たちは、命をかけて里の平和を守る猟師たちの背中に、ただ安全な場所から都合の良い願いを預けているかもしれない。

