2026年9月30日、古謝玄大氏をトップに抱く新県政が発足した。古謝知事が政策の最重要目標として掲げたのは「県民所得の倍増」。現在、1人あたり約231万5,000円にとどまる県民所得を、10年間で500万円へ引き上げるという挑戦的なビジョンだ。

好調な観光業に牽引されて成長を続ける沖縄経済だが、物価高に揺れる県民の日常にその恩恵は届いているのか。10年後の目標に向かい、新県政が向き合う構造的課題に迫る。
県内の99.9%が中小企業ゆえにぶちあたる壁
「私自身は(給料が物価の上昇に)見合っています。ありがたいことに。(給料も)グンと伸びたかな」
「(給料は上がったが)物価高には追い付いていないと感じるところはあります。(あと)2~3万ぐらいあったらいい」
街行く人に所得について尋ねると、さまざまな実感の声が聞こえてくる。

沖縄県内の企業の99.9%は中小企業が占める。設備投資やDX(デジタルトランスフォーメーション)、人材育成に十分な資金を投じにくく、生産性の低迷が長年の課題となってきた。
りゅうぎん総合研究所の宮国英理子常務は「かなり高い目標だと思っています。これまでの沖縄の経済成長率を考えると、かなり高い水準で伸ばしていかないといけない背景にあるのは、沖縄経済が長年抱えてきた構造的な課題です」と指摘する。

こうした状況下で、自力で「稼ぐ力」を高めようと取り組む企業もある。
酒類卸売を営む南島酒販では、倉庫管理システム(WMS)の導入や自社商品の開発を進め、3年連続で全社員のベースアップを実施した。

同社の狩俣秀一副部長は「(元々は)紙ベースでの作業だったり、目視で行うことが多かったんですけど、商品のQRだったり、ジャンコードをスキャンすることで、商品の取り間違いが無くなったりとか、どこにどの商品があるよというのが明確にシステム上で分かるようになります。作業効率的には1.5倍ぐらいは軽くなって、無駄な動きが減ったかなと思います」と手応えを口にする。

同社の大岩健太郎社長も「やれることが前より増えているっていう感覚はありますね。それがいつか本当の意味で実を結んでみんなの給料がもっと上がればいいなと思っていますけど、まだその過程にあるかなという風に思います」と現状を冷静に見つめる。
値上げに悩む地域密着店と経済界の動き
デジタル化やシステム投資による効率化だけでは、全ての課題が解決するわけではない。
那覇市内で「いまいパン」を営む今井陽介代表は、地域密着店ならではの苦悩を抱えている。原材料費の高騰が続く中、顧客との関係性の近さが価格転嫁への“足かせ”となってしまう面もある。

今井代表は「地域に根差しているパン屋、弁当屋、花屋、ケーキ屋、豆腐屋、地域に根差せば根差すほど、お客様の顔がすごく見えるので、なかなか値上げしづらい状況にあります」と明かし、「地域の商店、小さな店、そういうところを沖縄全土で応援してくれるような雰囲気を(新県政に)作っていただければすごく嬉しいです」と切実な思いを語る。
こうした企業が適正に利益を上げ、賃上げを実行できる環境づくりに向け、経済界も動き出している。
知事選で選対本部長を務めた沖縄県経済団体会議の金城克也議長は「県内企業が儲からないと賃金、県民に対する賃金を上げることもできない。やっぱり稼ぐ力を県内企業が持たないとだめ」と強調。

「古謝新知事を我々経済界としてはしっかりと支えていきたい」と、第6次沖縄振興計画の中間見直し等を通じて県や国へ積極的に提言していく姿勢を示す。
成長の果実を県民の「豊かさ」へ変えられるか
県政が果たすべき役割について、宮国常務は「県政には企業が活動しやすい、そして企業の成長を助ける環境を作る役割がある。DX、AXの導入支援とか、インフラ整備、あとは企業の誘致もあると思います。規制とか制度面での環境整備が必要になってくる」と指摘。

さらに「県外や海外からの需要を取り込んで、それを県内で回す力が十分ではない、というのがあると思っています」と、資金が県外へ流出する「ざる経済」からの脱却を提言する。
古謝知事は当選直後、成長戦略について「既存の中小企業については、DXや後継者育成、人材マッチングなどを進めていく。あとは観光に続く新しい産業を作っていくということで、ヘルスケア、バイオ等の分野であるとか、ブルーエコノミー、海を活かした産業づくり、こうした分野をしっかり取り組むことによって、今の経済成長に更に上乗せして7%から8%を目指していきたい」と語った。

掲げられた10年後の「所得倍増」という大目標。まずはこれからの4年間で、県経済の成長成果を県民一人ひとりの暮らしの豊かさにどれだけの実感をもたらすことができるのか、古謝新知事の手腕が試されている。

