夕食を食べたこと自体を忘れてしまう…それは単なる加齢による物忘れとは違うサインかもしれない。9月は「認知症月間」。物忘れを自覚しつつも受診をためらう人は少なくないが、早期発見によって選べる治療の選択肢は確実に広がっている。「物忘れ外来」を設置する福井大学医学部附属病院・脳神経内科の北﨑佑樹医師に、受診の目安や最新治療について聞いた。
「ヒントで思い出せるか」が分かれ目
加齢による物忘れと認知症の初期症状は、どこが違うのか。北﨑医師は次のように説明する。
「加齢によるもの忘れは、たとえば人の名前や夕食の献立を忘れてしまうことがあっても、何かヒントやきっかけがあると思い出せることが多い」
一方、認知症は「夕食を食べたこと自体を忘れてしまう、人の存在そのものを忘れてしまうことがある」という。
ただし「この違いだけで診断が下すわけではない」と続ける。受診の目安として北﨑医師が挙げるのは「同じことを何回も聞いてしまう」「薬やお金の管理が難しくなる」といった、以前との変化がみられた場合だ。
異変を感じながらも受診をためらう人は多い。しかし北崎医師は「もの忘れがあっても、必ず認知症と診断されるわけではない。物忘れの原因を調べながら、本人や家族の生活の困りごとを相談する場所でもある」とし、“この程度で受診していいのか”と遠慮せず、まずはかかりつけ医に相談するよう勧めている。
早期受診で広がる治療の選択肢
早期に受診をすることによるメリットがある。「もの忘れの原因がアルツハイマー病とわかれば、症状が軽い時期ならば選べる治療の選択肢がある」と北﨑医師。「もの忘れ外来」では本人の希望を聞きながら、今後の暮らしを一緒に考える時間を設けることも大切にしている。
また、福井大学医学部附属病院では、アルツハイマー病の原因となるタンパク質「アミロイドβ」の脳内蓄積を画像で確認できる。蓄積が多い部位は赤色、蓄積がない部位は黒や青で表示され、病状の把握に役立てられている。
この、脳内に蓄積したアミロイドβを取り除くのに用いられる新薬が「レカネマブ」だ。福井大学病院では、アルツハイマー病が原因の軽度認知障害や軽度認知症の患者に投与している。通院による点滴で1カ月に2回、これを18カ月続けることを一つの目安としている。
ただ「失われた記憶を元に戻す薬ではなく、副作用として脳のむくみや脳の出血にも注意が必要」と北﨑医師。効果とリスクを説明したうえで、本人・家族と相談しながら治療方針を決めていく。
この新薬を巡っては、大きな動きもあった。9月16日、国が皮下注射タイプを承認したのだ。今後は患者や家族が自宅での投与が可能となり、通院の負担軽減が期待されている。
一人で抱え込まず、家族も「一緒に行こう」と声掛けを
北崎医師は最後にこう呼びかける。「もの忘れが気になったら、年のせいだと抱え込まず、まずご相談を。ご家族も、忘れたことを責めるよりも、一緒に病院に相談に行こうと声をかけていただければ」
認知症かもしれないと身構えるのではなく、まずは相談の場として物忘れ外来を活用すること。そして家族が寄り添う姿勢を持つこと。それが早期発見、早期治療への第一歩となる。

