「耐性菌」は世界規模の脅威!

今回、感染したのは、「悪夢の耐性菌」として近年、注目を集めている「カルバペネム耐性腸内細菌科細菌」=CREです。カルバペネム系抗生物質は、重篤な感染症の「切り札」と言える治療薬です。

しかし、CREはカルバペネムも効かない腸内細菌なのです。米疾病対策センター(CDC)によると、CREに血流感染した患者の致死率は最大で50%に達するとして、警告をしています。

CREに限らず、1980年以降、従来の抗生物質が効かない「薬剤耐性」を持つ細菌「耐性菌」が、世界中で増えてきています。WHO(世界保健機関)は、2015年に「薬剤耐性は世界規模の脅威であり、全ての政府機関等が行動を起こす必要がある」と注意喚起を行っています。

どんどん拡散する「耐性菌」

有名な「耐性菌」としては、「MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)」があります。既に広く拡散していて、1980年代後半から院内感染が深刻な問題になっています。ほとんどの抗生物質に抵抗力を持っており、感染すると、髄膜炎、肺炎、腹膜炎、腸炎、敗血症などを引き起こし、高齢者等の死亡例も少なくありません。
身近なところでは「とびひ」。以前は、抗生物質を使うとすぐに治っていた「とびひ」ですが、原因菌がMRSAの場合、治癒にかなり時間を要します。

子どもを中心に、年間約50万人が発症する中耳炎ですが、昔は、抗生物質を投与すれば完治していました。ところが耐性菌「PRSP(ペニシリン耐性肺炎球菌)」が原因だと、本来は効くはずの抗生物質が効かず、なかなか治りません。中耳炎は完治しなければ、鼓膜の切開が必要になり、難聴になるリスクもあります。

「ESBL産生大腸菌」という耐性菌は、健康な人の20%前後が保菌しているとするデータもあります。多くの抗生物質が効かないため、ここ4年間で「ESBL産生大腸菌」に感染した幼児ら60人以上が、意識障害・血圧低下などの重い症状になり、死亡例もあります。

症状が良くなったら、抗生物質の服用は止めていいのか?

なぜこれほどまでに、耐性菌が増え、拡散してきたんでしょうか?

「この薬は5日間で飲み切ってくださいね」と医師から指示された薬を、症状が軽くなったからといって途中で止めてしまったことはありませんか?抗生物質については、こうした不適切な使い方をすると新たな耐性菌が出現するリスクが高まります。

自然界では、薬が少し効きにくいものや、増殖速度が速いもの等、様々な特徴の細菌が混在しています。そこに、抗生物質を適切に投与すると、細菌は死滅します。少し薬が効きにくい特徴を持っていても、抗生物質を適切に使用した場合には薬が圧倒し、完全に退治することが可能です。

ところが、抗生物質を中途半端に投与すると、薬が効きにくい特徴を持った細菌だけが生き残ることがあります。すると、次はこの細菌がベースとなって増殖するため、薬が効きにくい菌集団が出来上がるのです。

最終的には、薬が効かない完璧な「耐性」を獲得した「耐性菌」が出現することになります。 

残っている抗生物質は飲んじゃダメ!


医師・薬剤師は、「耐性菌」が生まれないように用法・用量や服用期間を調節して抗菌薬を処方します。症状が治まったからといって、途中で抗生物質を止めてしまうことは、「耐性」ができる大きな原因です。処方された抗生物質は、きちんと最後まで飲み切るようにしてください。

以前に処方された抗生物質が残っていても、それを自己判断で飲むことは止めましょう。症状の原因である細菌が異なる場合、不要な抗生物質を服用することになり、体内の細菌がその抗生物質への耐性を持つ可能性が高くなります。

また、原因菌が同じだとしても、中途半端な服用となり、耐性菌を増やす原因になります。 



「ホウドウキョク×FLAG7」 8/16放送分より


(執筆: 高山哲朗)

高山哲朗
高山哲朗

日々の診療では患者さんの健康維持・増進により深く貢献できるよう努めております。的確な診断、共に疾患をコントロールすること、日々の健康を管理し病気にならないようにすることは内科医の責務と考えています。常に学ぶこと、根拠に基づく説明を分かり安く行うことを心がけてまいります。
慶應義塾大学病院、北里研究所病院、埼玉社会保険病院等を経て、平成29年 かなまち慈優クリニック院長。医学博士。日本内科学会認定医。日本消化器病学会専門医。日本消化器内視鏡学会専門医。日本医師会認定産業医。東海大学医学部客員准教授。予測医学研究所所長