病気の子どもたちが自分らしく生きられる場所をつくりたい。
ふたりの難病の子を育てる母親が今「こどもホスピス」を札幌でつくろうとしています。
石狩市のデイサービスです。
重い障害があり、医療的なケアが必要な子どもたちが日中のひと時を過ごします。
「よろしくお願いいたします。ネイルしている。かわいい」(ソルウェイズ代表理事 運上佳江さん)
この日、7歳の女の子が黄色いネイルでおしゃれをしていました。
デイサービスを運営しているのは運上佳江さん。
4姉妹の母親です。
家に帰るとすぐに、長女の愛夕さんと次女の実來さんのケアをします。
2人は日常的に介護が必要な「医療的ケア児」です。
「ママはどんな人ですか? 怖い? かっこいい?」(熊坂友紀子記者)
(実來ちゃん、目を動かす)
妹の莉愛ちゃんが教えてくれました。
「良い時は目を動かさないで、良くないときは目を動かす。こうやって」(莉愛ちゃん)
「(ママは)怖い? かっこいい?」(熊坂記者)
(目を動かす)
「優しい?」(熊坂記者)
(目を動かさない)
「ママは優しい」が答えでした。
「1つの命として、この子たちは人生をどういうふうに歩んできているのかを知ってもらえたらいいなと思っています」(運上佳江さん)
愛夕さんと実來さんは「Vici(ビシ)症候群」という先天性の難病です。
有効な治療法はなく、20代まで生きられるのはまれだといいます。
家の壁には愛夕さんの願い事が貼ってありました。
「オシャレ番長になる」。
「自分、見えてる? いい?うん、オッケー」(佳江さん)
佳江さんは愛夕さんが1歳のころ、外の世界で人と関わりを持ちながら成長できる場所を探していました。
しかし当時、北海道にはそんな場所はほとんどありませんでした。
「自分には当たり前に学校に行って、友達ができて、楽しい青春もあった。でも、この子からそれを自分のせいで奪ってしまったみたいな気持ちになってしまって。親だけじゃなくて、友だちとの関係、先生との関係で、その子が成長していくものだと思う。そういった場所をつくりたいなと思いました」(佳江さん)
2024年、「障害者週間」を前に札幌で開かれたイベント。
愛夕さんが初めて講演を依頼されました。
イベントの最後に読まれたのは、愛夕さんが目の動きでつづった手紙です。
「来てくれたみんなへ。また会おうね。父と母が頑張っているので皆さんよろしくお願いします」(司会者代読)
「大人になったというか、成長しているんだなって感じました。いつまでもお母さんの意思で言っちゃうんですけど、彼女の気持ちとか意思をしっかり大事にしないといけないなって思いました」(佳江さん)
石狩市の「あいのカタチ」は、医療的ケア児が宿泊できるショートステイの施設です。
佳江さんが4年がかりで完成させました。
月に40人ほどの子どもが利用していて、愛夕さんと実來さんも泊まることがあります。
ショートステイは家族の休息にもつながります。
「大丈夫? 泊まれそう?」(楓来くんの母親)
この日「あいのカタチ」を訪れた佐藤楓来くん、13歳。
先天性の代謝疾患があり、お母さんは夜2時間おきに痰の吸引などをしています。
そのため、この10年ほどは熟睡したことがないといいます。
楓来くんには8歳の弟、颯星くんがいます。
「24時間自宅でケアをしていると、夕ごはんの支度から自分が寝るまでの間、下の子と関わることがほとんどできなくて。お泊まりの時は一緒にご飯を食べられるよって」(楓来くんの母親)
「この辺にキッチンカー入るかな」(佳江さん)
佳江さんは新たな計画に乗り出しました。
「札幌に『こどもホスピス』というコンセプトの場所を1つつくりたいなと思って」(佳江さん)
こどもホスピスは、命に関わる病気の子どもと家族が安心して過ごせる場所。
大阪や神奈川などが有名です。
佳江さんが目指すのは、長期入院中に外泊を許された子どもが家族と一緒に過ごせるレストハウスです。
「(札幌に)地方から出向いて治療を受けているという方も多いと思う。外泊が許されても、家に戻れなかったりという方も多いと思う。たまにはお母さんの手料理が食べたいなと家で待っているきょうだいの子もここで待ち合わせや一緒に泊まるとか。そういうのがあったらいいなと思って」(佳江さん)
長女の愛夕さんは10月に18歳の誕生日を迎えます。
佳江さんは葛藤を抱えていました。
「娘たちの病気は進行しているので、お姉ちゃんのことを思うとなかなかもう難しくなってきているというのはすごく分かるんです。(ビシ症候群で)最長生きた子でも22歳、23歳と言われているので。そう考えると、私と長女に残された時間はあと5年」(佳江さん)
7月、こどもホスピスの建設に約1億円の寄付が決まりました。
完成は2028年の春を予定しています。
「『こどもホスピス』をやるということは自分の子どもの死に場所をつくるわけではないと考えても、そうじゃないと思っても、やっぱりそのことが頭から離れなくて。死だけを見つめて生きているわけではない。子どもたちの『生きる』を精いっぱい私たちも支えて、寄り添っていけるような場所にしたい」(佳江さん)
佳江さんは毎朝、愛夕さんと実來さんを学校に送っていきます。
「先生のおかげで、愛夕ちゃん、好きな人できたし」(佳江さん)
愛夕さんには今、年下の彼氏ができたようです。
「お友だちや大好きなスタッフや先生たちに囲まれて、いい顔をしているのを見ると、この子が最期、病院の中で亡くなるっていうよりも、もしかしたら大好きなみんなに囲まれて『バイバイ』って言える方が彼女らしいんじゃないか。彼女にとって命を全うしたことになるのかな」(佳江さん)
佳江さんと家族は今日も精いっぱい「生きる」ということに向き合っています。
