「夜だったので、二次災害が起こる可能性があった」―。富山県氷見市の防災担当者がそう語るように、夜間の避難には昼間とは異なる危険が潜んでいる。先月の豪雨災害を受け、いま改めて注目されているのが「垂直避難」だ。ごみ袋2枚で作れる水のう、前日までに済ませる荷物の移動……、知っておくだけで生存率が大きく変わる備えを取材した。
午前0時半の警報から6時間 氷見市で何が起きたか

先月の豪雨では、富山県内で初めてレベル5の大雨特別警報が発表された氷見市を中心に、浸水被害が相次いだ。雨は26日の夜から翌日の朝にかけて最も強まり、未明と朝の2度にわたって線状降水帯が発生した。

避難指示の目安となるレベル4の土砂災害危険警報が氷見市に出されたのは午前0時半のことだ。しかし、市はこの時点で避難指示を発令しなかった。その後、午前3時頃と6時頃に線状降水帯が相次いで発生し、市が市内全域のおよそ4万人に対して避難指示を出したのは午前6時18分—レベル4の発表から実に6時間後のことだった。
この判断の背景には、市の明確な狙いがあった。粟屋正弘防災・危機管理監はこう説明する。
「(大雨が)夜だったということで、(市から)いろいろな情報を発信したら、二次災害が起こる可能性があった。垂直避難。家で避難してもらって、様子を見させてもらった」

暗闇の中で冠水した道路を歩けば、側溝や用水路への転落といった二次被害が生じかねない。夜間に屋外避難を促すことのリスクを踏まえた上で、市は「垂直避難」を住民に推奨したのだ。
「垂直避難」とは何か

垂直避難とは、建物の外へ出るのではなく、建物の中で2階以上へ移動することで浸水から身を守る避難方法だ。すでに周囲の道路が冠水しているなど、避難所への移動が困難な状況で特に有効とされる。

県防災士会の宮本雅文理事は「家の周りに水がついたような状態なら、もう垂直避難が一番有効」と断言する。
ただし、土砂災害などで自宅が倒壊するおそれがある場合は話が異なる。そのような状況では、早めに屋外へ避難することが重要だ。垂直避難はあくまでも「浸水」への対策であり、状況に応じた判断が求められる。

ごみ袋2枚でできる「水のう」 まず排水口をふさげ

垂直避難を始める前に、宮本さんがまず勧めるのが水道の逆流対策だ。水害時には、下水道が逆流して風呂やトイレ、洗面台から汚水があふれ出すことがある。これを防ぐのが「水のう」だ。



作り方は簡単である。家庭にあるごみ袋を2枚重ね、その中に半分ほど水を入れて口を縛るだけだ。宮本さんは「普通のごみ袋でいい。1枚だけだと破れやすい」と注意を促す。完成した水のうを風呂の排水口などに置けば、「下から水があふれるのを防ぐ」ことができる。
特別な道具は一切不要だ。いざというときのために、手順を頭に入れておきたい。
前日までに「2階生活」の準備を整える

排水口の対策と並行して進めておきたいのが、2階以上での生活準備だ。宮本さんが挙げるのは、カセットボンベ式のガスコンロ、水、携帯用トイレ、非常用バッテリーなどだ。

「いつでもすぐに持って上がれる状態にしておけば、普段置いてあるのは1階でもいい」と宮本さんは言う。大雨予報が出た前日までに、これらをまとめて上の階へ移動させておくことが肝心だ。
「レベル3までにここまでしよう」 マイタイムラインで落ち着いて動く

こうした一連の準備を、いつ・何をするかあらかじめ決めておく仕組みが「マイ・タイムライン」だ。宮本さんは「『レベル3までにここまでしよう』という家族それぞれのマイ・タイムラインをつくってほしい。それに沿って動ければ、落ち着いて準備ができると思う」と呼びかける。
地震と違い、大雨はある程度予測できる災害だ。だからこそ、事前の備えが生死を分ける。宮本さんは「県内いつどこで何が起きても不思議ではない。平常時に備えておくということを心がけてもらえれば」と訴える。

県内では10日にかけて大雨が続く予報で、特に9日の朝にかけて雨足が強まる見込みだ。先月下旬の豪雨では一晩で冠水・浸水被害が発生した。「もしものとき、外に出られなかったら」——その問いへの答えを、今夜のうちに家族で話し合っておきたい。
(富山テレビ放送)

